【解説】 「人類への赤信号」IPCC報告 気候変動に関する5つのポイント

Satellite images of wildfires in Evia, Greece

画像提供, Copernicus/Sentinel-2

画像説明, ギリシャ・エヴィア島で続く山火事の衛星画像

国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が9日に発表した最新報告書は、「人間の影響が大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がない」と従来より踏み込んだ強い表現で断定した。その主なポイントを、BBCのマット・マグラス環境担当編集委員が解説する。

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気候変動は広範囲で急速に激化している 原因は私たち人類

欧米に住む人間にとって、地球温暖化の危険はもはや何か遠くおぼろげな、はるか彼方の土地の人に影響している現象ではなくなった。

「気候変動は未来の問題ではない。今ここにあり、世界の全地域に影響している」。IPCC報告書の共同執筆者の1人、英オックスフォード大学のフリーデリケ・オットー博士はこう言う。

動画説明, ロンドンで1カ月分の雨が1日で 各地で浸水、19世紀の上下水道対応できず

複数の科学者がもはや確信をもって、気候変動の危険を断定している。それこそが最新報告書の核心だ。

「政策決定者への要約」と題された42ページの中で、「可能性が非常に高い」という表現が42回も登場する。科学的表現として、それは何かの事象が本物だと90~100%の確度で確かだという意味だ。

「まったく予想外だったという内容は何一つなく、全般的にきわめてしっかりした報告なだけに、これまでで最も強力なIPCC報告だと思う」と、英ユニヴァーシティ・コレッジ・ロンドンのアーサー・ペーターセン教授はBBCニュースに話した。

ペーターセン教授はかつてオランダ政府代表としてIPCCに参加していた。今回の報告書作成においては、第1作業部会総会による承認会議にオブザーバー参加している。

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「報告書の表現は抑制的で、冷静で、誰かを責めたりしていない。ただひたすら次々と、明確な論点をドン、ドン、ドンと繰り出している」

最もはっきりと明示されたのは、気候変動の責任は人類にあるという点だった。

もはやごまかしは効かない。原因は私たちだ。

A general view of flood-affected area following heavy rainfalls in Schuld, Germany

画像提供, Reuters

画像説明, 今年7月にドイツなど欧州の一部を襲った洪水では100人以上が死亡した。写真は甚大な被害を受けたドイツ・シュルト

「1.5度上昇」の上限はぎりぎりの状態

IPCCが気候変動の自然科学的根拠について前回報告した2013年の時点では、地球にとって安全な気温上昇の幅は産業革命以前から1.5度だという概念は、まだほとんど検討されていなかった。

しかし、2015年のパリ協定に向けた政治交渉の中で、多くの発展途上国や島嶼(とうしょ)国が、自分たちの存亡がかかっていると主張し、気温上昇のリミットをなるべく低く設定するよう運動した。

IPCCは2018年の特別報告書で、気温が2度上昇した世界よりも、そこまで上昇しない世界の方が好ましいと例示した。実現するには要するに、2030年までに二酸化炭素の排出量を半分に減らし、2050年までに温室効果化ガス実質ゼロ(ネットゼロ)を達成する必要がある。それができなければ、気温上昇は2030年から2052年の間に限界に達してしまうと、IPCCは当時すでに報告していた。

今回の新しい報告は、2018年のこの知見を裏付けるものだ。想定した全てのシナリオで、2040年にしきい値に到達してしまう。温室効果ガスの排出を抑制しなければ、「気温上昇1.5度」は今後、約10年もすると通り越してしまう。

Abandoned canoes on the cracked, dried up shores of Lake Chilwa, Malawi

画像提供, WaterAid/ Dennis Lupenga

画像説明, アフリカ・マラウィで干上がったチルワ湖

ネットゼロを実現するには、まずクリーンエネルギー技術の利用で可能な限り温室効果ガスを減らした後、残る排出を炭素隔離貯留技術によって回収する、もしくは植林によって吸収するなどの取り組みが必要となる。

きわめて深刻な状況だが、悲惨な状況にいきなり陥るというわけではない。

「1.5度という閾値(いきち)はもちろん、政治的には重要な閾値だが、気候変動の観点からすると、それが崖(がけの)瀬戸際というわけではない。1.5度を超えた瞬間に何もかもがいきなり破局的な状態になるというわけではない」。IPCC報告の共同執筆者の1人、英リーズ大学のアマンダ・メイコック教授はこう言う。

「報告書では、排出量を最も少なく抑えられた場合のシナリオも検討した。その場合、気温上昇は今世紀後半に1.5度前後で安定する。もしその道筋をたどれるとしたら、(気候変動の)悪影響はかなり避けられる」

世界平均気温の変化
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悲報:何をしても海面は上昇し続ける

IPCCはかつて、海面水位の上昇についての判断があまりに控えめすぎると批判されていた。明確な調査結果が不足していたことから、グリーンランドや北極圏の氷床が溶けるとどういう影響があるのか、これまでの報告書は触れてこなかった。

しかし、今回は違った。

今回の報告書は、想定されている複数シナリオでは、今世紀末までに2メートル上昇する可能性も、2150年までに5メートル上昇する可能性もあり得ると指摘した。実現の可能性は少ない数字だが、温室効果ガスの大量排出が続けば、可能性として排除はできないという。

それだけでも困った事態だが、私たちがたとえ温室効果ガスの排出を抑制できるようになり、2100年までに気温上昇を1.5度前後に抑えられたとしても、海面水位は未来にかけて今後長いこと上昇を続ける。

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IPCC報告の共同執筆者、豪メルボルン大学のマルテ・マインシャウゼン教授は、「海面水位が長期的にどこまで上昇するかという数値が、まるで背景に潜む猛獣のように恐ろしい」と言う。

「報告書は、たとえ1.5度の気温上昇に抑えられたとしても、海面は長期的には2、3メートルは上昇すると示している。シナリオによっては、2150年までに最高で数メートルも上昇する可能性がある。ひたすら恐ろしい。私たちが生きている間はまだ起きないかもしれないが、角を曲がったすぐそこに差し迫っているし、この惑星の将来に大きく影響する」

たとえ海面がそれほど大きく上昇しなかったとしても、避けようのない波及効果が生まれる。

動画説明, グリーンランド氷河を15年ぶりに取材 BBCが見た驚異の変化
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今回のIPCC報告をまとめた第1作業部会のヴァレリー・マッソン=デルモッテ共同議長は、「海面が徐々に上昇した場合、以前は100年に一度だけ起きていたような極端な海面水位の変化が、今後はますます頻繁に起きるようになる」と説明する。

「以前は100年に1度だけ起きていた現象が、今世紀半ばには10年に1、2回は起きるようになる。この報告書で我々が提供した情報は極めて重要で、それを踏まえて想定される事態に備える必要がある」

朗報:効果的な対策について科学者の確信が高まっている

警鐘は今までになく明確で深刻だ。しかし、今回のIPCC報告書を貫く重要なものがある。希望だ。

地球の気候は科学が想定する以上に、二酸化炭素に敏感なのではないか――と、多くの科学者が長いこと心配してきた。

「平衡気候感度」という表現を使い、研究者たちは二酸化炭素排出量が倍増した場合にどのような温暖化現象が起きるのか、把握に努めてきた。

An infrared camera captures what appears to be methane escaping from a natural gas facility

画像提供, Reuters

画像説明, 天然ガス施設から放出されるメタンを赤外線カメラが撮影

2013年の前回IPCC報告では、二酸化炭素の排出が倍増した場合、地球の気温は1.5度から4.5度の幅で上昇するとしていた。最良の推定値は示していなかった。

今回の報告では推定値の幅が狭まり、筆者たちはおそらく気温は3度上昇するだろうと判断している。

なぜこれがそれほど大事なのか。

「かなりの確かさでそこまで絞り込むことができるようになった。それをもとに今後は、はるかに正確な予測に取り組んでいく」と、共同執筆者の1人、英リーズ大学のピアス・フォースター教授は説明する。

「それによって、ネットゼロには本当に効果があるというのが分かる」

報告書でもう一つ大きく予想外だったのは、温室効果ガスのひとつ、メタンの役割だ。

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工業化以前に比べて地球の気温はすでに1.1度上昇しているが、IPCCによると、そのうち0.3度はメタンによって上昇した分だという。

石油・ガス業界、農業、稲作などによるメタン排出に取り組めば、短期的には大きな成果が得られるかもしれない。

「この是非をめぐる論争が多少なりとも続いていたとしても、今回の報告が議論の余地を消し去った。メタン排出が特に問題になっているのは、石油・ガス業界で、ここでは最も素早く安価に削減が可能だ」と、米非営利環境保護団体「米環境防衛基金」のフレッド・クルップ氏は言う。

「温度上昇が続く私たちの惑星にとって、どんなにわずかな温度差も重要だ。そして、気温上昇のペースを落とすため、人為的なメタン排出の削減ほど素早く、実現可能な手段はほかにない」

政治家は神経質に 裁判所は多忙に

国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)は今年11月、英スコットランドのグラスゴーで開催される。今回のIPCC報告はそれを目前に公表されただけに、これがおそらく交渉の土台となる。IPCCの段取りには先例がある。たとえば2013年と2014年の報告書は、2015年末のパリ協定に至る土台となった。

最新の報告書は、政治家が行動しなかったら何が起きるのか、かつてないほど強力に、はっきりと、確信をもって発言している。

政治家が速やかに行動せず、COP26がごちゃごちゃした不十分な内容で終わった場合、次は今まで以上に裁判所の出番となるかもしれない。

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近年ではアイルランドとオランダで、環境保護派が政府や企業を訴え、気候変動の科学にもとづきもっと行動するよう命令する判決を裁判所で勝ち取っている。今年5月にはオランダ・ハーグの裁判所が、英・オランダ系石油大手ロイヤル・ダッチ・シェルに対して、温室効果ガスの削減を強化するよう命じた。

「今までのように何も行動せずにこの報告書をたなざらしにするなど、私たちがそうはさせない。私たちはこの報告書を手に、裁判所へ向かう」と、環境保護団体グリーンピース・ノルディックのカイサ・コソネン上級政治顧問は言う。

「人為的な排出と異常気象を結び付ける科学的根拠を許可することでIPCCは、世界中の全員が気候危機について化石燃料業界と各国政府の責任を直接追及するにあたり、新しい強力な手段を提供してくれた」

「IPCCの科学がいかに強力なものか、シェルに対してNGOが法廷で勝ち取った勝利からも明らかだ」