【解説】 合意、譲歩、帰国間際の会談……トランプ氏のアジア歴訪を振り返る

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アンソニー・ザーカー北米特派員(米大統領を同行取材)
アメリカ大統領の外国訪問は伝統的に、国際舞台でアメリカの国力を示す機会とされてきた。だが、ドナルド・トランプ大統領の場合、5日間の東アジア歴訪は、自分の力を示すだけでなく、時にはその力の限界を露呈する場となった。
マレーシア、日本、韓国を次々に回った最初の4日間は、時に気まぐれなトランプ氏を喜ばせるための駆け引きの連続だった。トランプ氏の署名一つで、輸出依存型経済を壊滅させかねない関税や措置が発動されるかもしれないという現実を、各国が認識する場でもあった。
しかし、10月30日に行われた中国の習近平国家主席との会談は、まったく別物だった。
米中会談は、両国の経済や国際的威信、国民の福祉にとって極めて重要な、国際舞台での対等な会談だった。
中国に対しても、トランプ氏はペンを一振りしようと思えばできる。だがそうした行動を取れば、代償を払うことになる。
アジア歴訪の最初の4日間、トランプ氏の最新の外交活動は順調に進んだ。
トランプ氏の「相互」関税措置の影響を受けているこれらの国々では、伝統的な貿易交渉と、時にこびへつらうような、より個人的な歓待を織り交ぜた対応がみられた。
トランプ氏は、マレーシアでは重要鉱物へのアクセスを確保することに成功し、東南アジア諸国との貿易協定の最終調整に向けて進展があった。また、タイとカンボジアの国境地帯での緊張緩和を目的とした共同声明を仲介した。まさにトランプ氏が好んで強調する「和平合意」といったところだ。

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日本では、星条旗カラーの赤、白、青にライトアップされた東京タワーがトランプ氏を出迎えた。タワーの一番上は、トランプ氏が好む金色に照らされていた。そして、そのそばを、大統領専用ヘリコプター「マリーン・ワン」が飛行した。
10月21日に首相に就任したばかりの高市早苗氏は、5500億ドル(約80兆円)の対米投資を発表したほか、アメリカが来年建国250年を迎えることに触れ、桜の木250本を贈ると約束した。また、トランプ氏が1期目に親交を深めた故・安倍晋三元首相のゴルフクラブや、プロゴルファーの松山英樹氏のサインが入ったキャディバッグを贈った。
高市氏は、トランプ氏をノーベル平和賞に推薦するとも伝えたとされる。トランプ氏は、ロシアのウクライナ侵攻や、パレスチナ・ガザでの戦争をめぐる交渉の仲介を試みており、複数の外国首脳がノーベル平和賞に推薦している。
日本に引けを取らない対応を見せたのは韓国だ。トランプ氏が大統領専用機エアフォース・ワンから姿を見せると、21発の礼砲と、軍楽隊の演奏が出迎えた。軍楽隊は、米大統領を称える行進曲「ヘイル・トゥ・ザ・チーフ(大統領万歳)」と、トランプ氏の支持者集会で定番の一曲になっている「YMCA」を演奏した。
李在明(イ・ジェミョン)大統領はトランプ氏の訪問に合わせて「栄誉授与式」を開催し、トランプ氏に韓国の最高位の勲章と、新羅時代の金冠の複製を贈った。
李氏との昼食会では、「ピースメイカー(平和を作る人)のデザート」と名付けられた、金箔を散りばめたブラウニーが振る舞われた。その日の夜には、アジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に出席する6カ国の指導者を招いた晩餐会で、トランプ氏の次男エリック・トランプ氏が運営するワイナリーのワインが提供された。

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アメリカでは、大統領権限の範囲を拡大しているトランプ氏に対して、「王はいらない」抗議が起きている。しかし、トランプ氏は今回の東アジア訪問では王族のようにもてなされた。
そして、かつての王たちのように、トランプ氏は貢ぎ物を求めて韓国に到着した。その内容は、トランプ政権の指示に沿ってアメリカに2000億ドルの現金投資(年間200億ドル)をするというものだった。これによって、韓国製品に対するアメリカの関税は25%から15%に引き下げられることになった。
しかし、アジア歴訪のメインイベントは最終日の30日、トランプ氏が韓国を離れる間際に実現した。習氏との直接会談だ。
世界の2大経済大国の首脳同士の力関係は、この数日間の外国首脳とのやり取りとは明らかに違った。
華やかな演出は一切なく、軍楽隊も儀仗兵も、両国の友好を称えるために入念に用意されたメニューもなかった。その代わりに両首脳と側近たちは、釜山国際空港の滑走路脇にある、何の変哲もない軍施設で、白いクロスで覆われた長方形の交渉テーブルに向かい合って座った。
釜山で習氏と握手するトランプ氏は、緊張しているように見えた。この会談の重要性の表れだったのだろう。前日に私に対して、いい会談になると思うと楽観的に語っていた時のリラックスした様子とはかけ離れていた。
「我々は彼らと話をしてきたから、状況については多少は把握している」とトランプ氏は述べていた。「何も知らずに会談に臨むわけじゃない」と。
この数カ月、トランプ氏は中国製品への関税を引き上げると脅し続けてきた。これは米政府の収入源を確保するだけでなく、中国に市場開放や、合成オピオイド(麻薬性鎮痛剤)の一種、フェンタニルの製造に使われる化学物質の輸出規制を迫るためでもあった。
しかし中国は、アメリカの多くの貿易相手国とは異なる対応を取った。譲歩するのではなく、事態を激化させたのだ。
関税措置が中国経済を苦しめるためのものなら、中国はアメリカの弱点を突く。これが中国政府の答えだった。アメリカ産農産物の輸入を停止し、重要鉱物資源の輸出を規制すると表明した。中国から供給される大量の鉱物資源は、アメリカをはじめ世界の大半の国々のハイテク産業に欠かせないからだ。
会談を終えたトランプ氏は機嫌が良かった。「驚くべき」成果が得られたとし、10点満点中12点だと自己評価した。韓国を離陸したエアフォース・ワンが乱気流に揺られても、上機嫌だった。
だが、米中首脳会談は互いの意志同士の闘いだったのは間違いない。経済的苦痛が最終的に両国を30日の会談へと導き、双方が事態を和らげるという合意にたどり着いた。
アメリカが対中追加関税を引き下げ、中国は重要鉱物へのアクセスを緩和し、アメリカの農産物の輸入再開と米国産石油・ガスの輸入拡大を、それぞれ約束した。
貿易戦争を解消する突破口とはならなかったかもしれないが、今の状況は持続可能ではないという認識を、双方が共有することとなった。

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しかし、それに取って代わる国際秩序がどういうものなのかは、まったく不透明だ。習氏が会談の冒頭で認めたように、中国とアメリカは「常に意見が一致するわけではない」のだから。
習氏はこうも述べた。「世界を代表する二つの経済大国が、時に摩擦を起こすのは当然のこと」だと。
この発言は、数カ月にわたる緊張関係が改善されるという見通しを示すものかもしれないが、同時に、「摩擦」が今後も続くことをも示唆している。
地域レベルの、そして世界規模の野心を抱く中国は、影響力拡大への意欲を高めている。
一方のトランプ氏は、アメリカの経済力を武器に同盟国や敵対国に圧力をかけ、アメリカの対外優先順位を再構築しようとしている。そして、アメリカの政治・経済・軍事の面での支援に長年依存してきた日本や韓国のような同盟国は、この新たな現実に適応すべく奔走している。
こうした駆け引きの一部は、大小さまざまなかたちで、トランプ氏に対する過剰な配慮として表れている。贈り物や夕食会を用意するのはたやすいことだが、数十億ドル規模の拠出や防衛費の増額、恒久的な関税措置は負担になる。
そしてそれは、アメリカとの関係、ひいては中国との関係の再評価を促す可能性がある。
トランプ氏は韓国で王のように歓迎された。しかし、いささかこれみよがしに象徴的だったとも言えるのは、トランプ氏が韓国を去るタイミングで習氏が韓国入りしたことだった。韓国側は中国の指導者に対し、アメリカが受けたのと同等の外交的待遇を約束していた。
習氏はAPEC首脳会議に全面的に参加している。トランプ氏が出席を見送った会合に参加しているのだ。アメリカの国際的な動きによって生じた空白があるとするなら、中国は進んでその空白を埋めようとするだろう。
トランプ氏は今回の訪問で、望んでいたものをすべて手に入れて帰国するかもしれない。しかし、トランプ氏がかつて選挙集会で流していたローリング・ストーンズの曲をもじって言うと、アメリカが必要としているものを手に入れられたかどうかは、まだわからない。












