【解説】アジアの原動力だったハイテク製造業、今はトランプ関税の犠牲者

スランジャナ・テワリ・アジアビジネス担当編集委員

サングラスをかけた女性2人が廃線となった線路に座り、写真を撮るためにポーズを取っている。手前にはスマートフォンが三脚に載せられている

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画像説明, 韓国・昌原市の鎮海軍港祭

ドナルド・トランプ米大統領は自分の貿易戦争を始めた当時、その目的について、雇用と製造業をアメリカ国内に取り戻し、貿易赤字を減らし、そして世界市場で競争するアメリカ企業にとって公平な競争環境を作ることだと説明していた。

しかし、交渉が数カ月にわたり、各国がアメリカの要求を拒む状況で、トランプ氏の戦略はより制裁的な性質を強めている。

アメリカ企業にとって、この状況は初めてではない。

トランプ氏の第1期政権下で中国製品に関税が導入された際、多くの企業は中国への依存を懸命に減らし、高関税を回避するため、生産拠点をヴェトナム、タイ、インドなどに移した。

しかし、今回の一連の新関税では、こうした経済圏も対象から外れていない。今月1日には、台湾と韓国の株式市場で主要株価指数が下落し、売りが広がった。

両国は、アジアに広がる電子機器製造ネットワークの中核を担っている。

詳細はまだあいまいだが、アップルからエヌビディアまで多くの米企業ではおそらく、サプライチェーンの費用負担が増える。こうした各社は、アジア諸国から重要な部品を調達し、同地域で製品を組み立てている。

そして、iPhone、半導体、バッテリー、そして現代生活を支える数多くの小型部品が、高関税の対象となる。

これは、日本の自動車、韓国の電子機器、台湾の半導体など、輸出と外国投資によって成長し豊かになってきたアジア諸国にとって、好ましい状況ではない。

こうした製品に対する需要の高まりが、長年にわたり対米貿易黒字を生み出してきた。トランプ大統領は、アジアの製造業がアメリカの雇用を奪っていると主張している。

トランプ氏は5月、アップルのティム・クック最高経営責任者(CEO)に対し、「君たちが中国に工場を建て続けるのを、我々は何年も我慢してきた(中略)君たちがインドに工場を建てるのは、我々にはどうでもいい。インドは自分たちで何とかすればいい」と告げた。

コンテナが積まれた港湾施設。大型のクレーンやタンカーが見える

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画像説明, 台湾の基隆港(2025年4月)

アップルはその売上高の約半分を、iPhoneの販売で得ている。iPhoneは、中国やヴェトナム、インドで製造されている。

同社は、トランプ氏が7月31日夜に新しい関税を発表する何時間も前に、4月~6月期決算で業績が好調だったと報告した。それが今や、今後の見通しには不透明感が広がっている。

クックCEOはアナリストとの電話会議で、前四半期にすでに関税によって8億ドル(約1200億円)のコストが発生したと説明。さらに、次の四半期には11億ドルの追加負担が生じる可能性があると警告した。

テクノロジー企業は通常、数年先を見据えて計画を立てるが、トランプ氏の予測困難な関税政策によって、企業活動が停滞している。

例えば、アマゾンのオンラインマーケットプレイスも、アメリカ国内で販売される商品の多くを中国に依存している。

ただし、現時点では中国からの輸入品に対する関税率は明らかになっていない。中国政府は8月12日までにアメリカとの合意を結ぶ必要がある

両国が緊張緩和に合意する前には、報復関税の応酬が続き、一部の品目では関税率が145%に達する事態となっていた

iPhone 16の販売初日に、新しいiPhone 16を持って自撮りする2人の男性

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画像説明, アップルは現在、アメリカ市場向け携帯電話の大半をインドで生産している(2024年9月、ムンバイ)

しかしもはや、中国だけが問題だという事態ではなくなっている。

アップルのクックCEOは7月31日、現在アメリカで販売されているiPhoneの大半がインド製だと明かした。しかし、インド政府が期限内に合意を成立させられなかったため、トランプ氏はインドからの輸入品に25%の関税を課した

他の企業は、トランプ氏の第1期政権下で導入された関税を回避するため、アメリカ向け製品をヴェトナムやタイ経由で輸送する「チャイナ・プラス・ワン」戦略を採用していた。しかし今回は、こうした迂回(うかい)輸送品も対象となっている。

実際、迂回輸送はアメリカとアジア諸国とのこれまでの交渉で、重要な争点となっていた。トランプ氏によると、ヴェトナムからの通常輸入品には20%の関税が課されるが、迂回輸送品には40%の関税が適用されるという。

特に半導体のような高度な製造業にとっては、状況はさらに厳しい。世界の半導体の半数以上、そして最先端の製品のほとんどは台湾で生産されいる。台湾には現在、アメリカから20%の関税がかけられている。

半導体は台湾経済の基盤であると同時に、アメリカが中国に対して技術的優位を確保するための中核でもある。そのため、台湾積体電路製造(TSMC)のチップを人工知能(AI)製品に搭載している米エヌビディアも、高額な関税を負担することになる。

男女が並んで工場の作業台に座り、ミシンで赤い布を裁断し、縫製している

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画像説明, 中国にある「Shein」の工場

トランプ氏による関税政策の影響を最も受けるのは、アジアの電子商取引大手、そして中国の販売業者やマーケットプレイスに依存するアメリカ企業かもしれない。

トランプ氏は今週、アメリカに輸入される800ドル以下の品物について、関税支払いなどを免除する「デ・ミニミス規則」を撤廃するという、予想外の決定をした。

トランプ氏はこの規則を5月に初めて撤廃し、中国および香港からの小包を対象とした。これは、欧米でのオンライン販売で急成長を遂げた中国の通販大手「SHEIN(シーイン)」や「Temu(テム)」にとって大きな打撃となった。

現在では、アメリカのオークションサイト「イーベイ」や、通販サイト「Etsy(エッツィー)」といったサイトも、「デ・ミニミス規則」の対象でなくなっている。アメリカの消費者にとっては、中古品やヴィンテージ品、手作り品の価格が上昇する見通しだ。

トランプ氏は、これらの関税がアメリカ国民の利益を守るための措置だと主張しているが、深くグローバル化した世界においては、アメリカ企業や消費者自身も犠牲になる可能性がある。

不確実性が今なおあまりにも高いため、誰が真の勝者なのかを見極めるのは困難な状況だ。