衝撃と安心と……トランプ氏の新関税に各国の企業がさまざまな反応

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マイク・ウェンドリング、BBCニュース
ドナルド・トランプ米大統領が7月31日夜に新たな関税命令を発表したことを受け、世界の企業経営者らは、アメリカ市場への輸出について関税が一段と引き上げられる現実に直面している。
トランプ氏は大統領令により、アメリカと貿易協定を更新できなかった国々に対して新しい関税率を課した。大統領はこれに先立ち、改定条件で合意に至った国々との新しい枠組みを示していた。
今回の措置で、アメリカの貿易関係は世界規模で再編される。90カ国以上に新しい関税が課されることになった。
各国の企業経営者がBBCに、その影響について語った。
メキシコ

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ホワイトハウスはカナダに対する関税を25%から35%に引き上げた。その一方、同じ北米でもう一つの主要な貿易相手国のメキシコには、90日間の猶予を与え、新関税の適用を一時停止した。
アリゾナ州ノガレスにある青果輸入会社「チェンバレン・ディストリビューティング」の社長、ハイメ・チェンバレン氏によると、同社は毎年メキシコから数百万箱の農産物を輸入している。
「メキシコとアメリカの交渉担当者が冷静なのは、とても幸運なことだ」と、チェンバレン氏はBBCラジオに話した。「両国とも本気で、これを失敗させたくないのだ」、正しい合意に至るのにあと90日かかるとしても、それにはかなりの価値があると思う」とチェンバレン氏は述べた。
ただし、合意に至らなかった場合、90日後に何が起きるのかは依然として、非常に不透明だ。
「特に極端なケースでは、多くの農家が単純に、輸出市場向けの農業をやめることになるだろう」とチェンバレン氏は言う。「私のような輸入業者にとっても、あの関税を長いこと払い続けるのは、とても難しい」。
タイ

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タイは当初、36%の関税が課される可能性があったが、交渉の末、19%に引き下げることで合意した。
同国最大級の電子機器受託製造企業「ハナ・マイクロエレクトロニクス」のCEO、リチャード・ハン氏は、トランプ氏が4月に最初の発表をした際は、ショックだったと振り返る。
「朝早く目が覚めたのを覚えている。かなり早い時間で、ホワイトハウスの芝生で彼がボードを持って立っているのを見た。『36%? 見間違いか? どうしてそんなことに?』と思った」とハン氏は言う。
同社はプリント基板、集積回路、価格表示用のRFIDタグなどのハイテク製品を製造しており、新たな低関税の枠組みの下でも事業継続は可能だと見ている。
「この地域の企業がどこも、関税率20%前後になるなら、買い手は他の供給元を探すことはないだろう。アメリカの消費者にとっては付加価値税(VAT)のようなものになる」とハン氏は述べた。
イタリア
ヨーロッパの首脳たちは、ほとんどの製品に対する関税を15%に抑えることで合意した。トランプ氏は当初、この倍の税率を提示していたので、大きく引き下げることに成功したとも言えるが、従来の平均関税率4.8%からは大幅な引き上げとなる。
イタリア国際政治研究所によると、農業、製薬、自動車産業が最も大きな打撃を受けるとみらる。イタリアの国内総生産(GDP)は0.2%減少する見通しだ。
イタリア農業者連盟のクリスティアーノ・フィーニ氏は、アメリカとのこの合意は、合意というより「降伏」のような感覚だと述べた。
すでに複数のイタリアの業界団体が、予想される損失を補填(ほてん)するために欧州連合(EU)に補償を求めている。
ブラジル

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EUが関税による最悪の影響を回避できたとするなら、ブラジルは逆に状況が悪化した。
トランプ氏は当初、10%の関税を発表していたが、7月30日にはこれを50%に引き上げた。トランプ氏は、ブラジルのルイス・イナシオ・ルーラ・ダ・シルヴァ大統領がアメリカのテクノロジー企業を不当に攻撃していると非難したほか、ジャイル・ボルソナロ前大統領がクーデター未遂で起訴されている事態を「魔女狩り」と呼んだ。
オレンジジュースや商用航空機など一部の製品は、高関税から除外されている。しかし、それ以外の製品では価格の急騰が予想される。
ブラジルのコーヒー輸出業者協議会は、ブラジルの焙煎(ばいせん)業者や輸出業者への影響は「重大」だとし、アメリカの消費者に対して価格上昇への備えを呼びかけた。
ブラジルの生産者や輸出業者は代替市場の確保に動いているが、コーヒー輸出業者協議会によると、現在アメリカに輸出しているコーヒー810万トンの全てを吸収できる市場は存在しないという。アジアや中東で新しい市場が開かれつつあるが、アメリカ市場の穴を完全に埋めることはできない見通しだ。
スイス
スイスは当初、10%程度の穏やかな関税率で合意できると楽観視していたものの、実際には39%の関税を課され、欧州で最も高い水準となった。
スイスのカリン・ケラー=ズッター大統領はわずか数週間前には、10%での合意が可能かもしれないとうかがわせる発言をしていた。
しかし突然の税率引き上げに、スイスはショックを受けている。製薬、宝飾品、工作機械などを製造する企業に、深刻な影響が及ぶ可能性があるからだ。
工作機械の業界団体「スイスメカニック」は声明で、「スイスの工業製品に対するアメリカ政府の一方的な関税引き上げは、明確な保護主義的メッセージだ」と述べた。
「政府は今こそ明確に、かつ自信を持って行動し、アメリカとの交渉ですでに存在する機会を、断固として活用すべきだ」

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インド
インドには25%の関税が課された。そこには注釈もひとつ付いている。トランプ大統領は、インドがロシアと商取引を続けていることについて、未定の制裁を科す可能性を示しているのだ。
インドは現在、ロシア産原油の最大級の購入国の一つ。トランプ氏はウクライナでの戦争について、モスクワに圧力をかける手段として、関税を利用しているのだ。
コルカタにある大手紅茶輸出企業「CI」を経営するアウロビンド・ナヤク氏は、最終的に負担を負うのはアメリカの消費者だと述べた。
「もちろん我々も打撃を受ける。しかし、本当に大きな影響を受けるのはアメリカの消費者自身だと思う」と、ナヤック氏はBBCの「ワールド・ビジネス・レポート」で述べた。
「アメリカで紅茶に課税するという選択は、インフレにつながるだけだ。アッサム紅茶には豊かな個性があり、アメリカの消費者に好まれている。ダージリン紅茶は特産品で、他の地域では栽培されていない。アメリカでの消費は増加している」

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ラオス
東南アジアのラオスには、最も高い関税率の一つ、40%が課された。
「この関税を歓迎していない(中略)ラオスはとても小さな国だ」。スポーツマーケティング企業「MKGT」の共同創業者で、ラオス商工会議所副会頭のサイバンディット・ラスフォン氏はこう言う。
「ラオスがアメリカに輸出しているのは、農産物、衣料品、ジュースなどだけだ」
ラスフォン氏はBBCに対して、合わせて約6万人を雇用している各分野の計60社が、影響を受ける可能性があると述べた。
「間接的な雇用にも影響が及ぶ可能性がある」とラスフォン氏は言い、国全体の経済に対する影響は相当な規模になる可能性があると指摘した。
カナダ
前述の通り、カナダには35%の関税が課されたが、既存の北米貿易協定があるため、多くの製品は対象外となっている。
カナダの航空部品メンテナンス企業「ホープ・エアロ」で財務担当副社長を務めるデイヴィッド・ホープ氏は、トランプ氏の最新の関税発表を聞いて、あきれてしまったのだと話した。
同社の顧客の多くはアメリカ国外にいるが、サプライチェーンはその性質上、密接に統合されているため、コスト上昇は避けられないという。
使用する部品の多くはアメリカから調達しており、仕入先は近く価格を引き上げるはずだとホープ氏は述べた。
「主要な仕入先の一つからすでに、10%の一律値上げがあるという話が、ひそひそ話として聞こえている」とホープ氏は語った。
航空機部品は主に、鉄鋼とアルミニウムで作られる。そして鉄鋼とアルミニウムの両方には、50%の関税が課されている。
「アメリカでは鉄鋼とアルミニウムの価格が上昇しており、そのコストは当然転嫁されることになる」とホープ氏は話した。
(取材:ローマのローラ・ゴッツィ、バンコクのジョナサン・ヘッド、サンパウロのアイオニー・ウェルズ、ジュネーヴのイモジェン・フォークス、トロントのアリ・アッバス・アフマディ)











