ハマスに解放されたイギリス人、スターマー英首相によるパレスチナ国家承認の発表を批判 「テロを報いる危険」

画像提供, Reuters
ルーシー・マニング、スザンヌ・リー
イスラム組織ハマスに拘束されていたイギリスとイスラエル二重国籍の女性エミリー・ダマリさんは、キア・スターマー英首相が発表したパレスチナ国家承認の方針について、「歴史の正しい側に立っていない」と批判した。
ダマリさんは、ハマスに15カ月以上拘束された後、今年1月に解放された。そして今、スターマー首相の決定は「テロを報いる危険がある」と述べている。
スターマー首相は29日、イスラエルが停戦に合意し、2国家解決に向けた和平プロセスを再開するなどの条件を満たさなければ、今年9月の国連総会でパレスチナ国家を承認すると発表した。
これに対してイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、「ハマスの凶悪なテロ行為に報いるものだ」と非難した。
イギリス以外にも複数の国がガザの状況に懸念を示しており、その数は増え続けている。国連の支援を受けた専門家らは、ガザですでに飢饉のシナリオが進行中だと警告している。
スターマー首相は29日に開いた緊急閣議後の記者会見で、ガザの「耐え難い状況」と「2国家解決の可能性が失われつつある」ことへの懸念から、パレスチナ国家承認の方針を発表するのだと説明した。
首相は、自分の「一番の目的」はガザの現状改善だと述べつつ、同時にハマスに対しては、すべての人質を即時に解放し、停戦に応じ、武装を解除し、ガザの統治に一切関与しないことを受け入れるよう求めた。
ロンドン南部出身のマンディーさんを母に持つダマリさんは、2023年10月7日にガザ境界近くのキブツ・クファル・アザの自宅から連れ去られた際、脚と手を撃たれた。ハマスは彼女の飼い犬も射殺した。
ダマリさんは自宅の安全室から、友人のジヴ・ベルマンさんとガリ・ベルマンさん(27歳の双子)と共に連行された。ベルマン兄弟は現在もハマスに拘束されている。ダマリさんは、ベルマン兄弟と他の約50人の人質(全員が生存しているわけではない)をイスラエルの家族のもとに戻すため、あらゆる手段を尽くしていると話す。
ダマリさんの反応とは別に、複数の著名な法曹関係者が政府に書簡を送り、スターマー首相による決定が、国家の成立要件を定めた1933年のモンテヴィデオ条約に違反する可能性があると警告している。
英紙タイムズによると、7人の勅選弁護士が書簡に署名し、法務長官リチャード・ハーマー卿に提出した。
ダマリさんはソーシャルメディアに、「スターマー首相は歴史の正しい側に立っていない。もし彼が第2次世界大戦中に政権を握っていたら、オランダ、フランス、ポーランドのような占領下の国々におけるナチス支配を承認していたのだろうか」と投稿した。
ダマリさんはさらに、「この措置は平和を前進させない。むしろ、テロを報いる危険がある。暴力で正当性を得られるという、危険なメッセージを発している。ハマスがまだガザを支配し、テロ作戦を続けている状況で、国家を承認するなど、首相は解決策を促すのではなく、紛争を長引かせている。こうした条件下での承認は過激派を勢いづかせ、真の平和への希望を損なう。恥を知れ!」と投稿した。
この投稿に先立ち、ガザで人質にされた、あるいは今なお拘束されているイギリス人の家族を代表する弁護団も声明を出し、首相の発言が人質解放を遅らせるリスクがあると警告していた。
家族たちを代表する弁護団は、「イギリスの提案は、人質解放を遅らせる危険があると懸念している」と述べた。「なぜならイギリスは、イスラエルが停戦に合意しなければパレスチナ国家を承認すると述べているからだ。しかし、ハマスにしてみると、今回の停戦に賛成すればイギリスの承認が遠のくため、今後も停戦を拒み続ける恐れがある」。
「このため家族たちは、イギリスの姿勢によってハマスが人質解放に後ろ向きになるリスクがあると、深く懸念している。首相の声明では、イギリスはハマスの凶悪かつ違法な行為に報いたりしないと述べているが、実際にはまさにその通りのことになりかねない」
「イギリス人の人質の家族たちは、幅広い政治状況について何か立場を取ってはいない。家族たちが求めるのは愛する人々の帰還であって、時間は急速に失われつつある」
「だからこそ家族たちは首相に対し、ハマスに報いることはないと疑う余地のない形で明確にし、すべての人質が解放されるまではイギリスがいかなる実質的な措置も取らないことを、明確に確認するよう懇願している」

画像提供, Reuters
スティーヴ・ブリズリーさんの姉リアンさん(イギリス・イスラエルの二重国籍)と、姪のノイヤさん、ヤヘル・シャラビさんは、2023年10月7日に殺害された。義理の兄エリ・シャラビさんは今年初めにハマスに解放されたが、衰弱しきった姿だった。エリさんの兄の遺体は、今もハマスのもとにある。
英ウェールズでBBCの取材に応じたブリズリーさんは、首相の声明に「がっかりしている」と述べ、人質が解放されない限りパレスチナ国家を承認するべきではないと主張した。
「ハマスが人質を拘束し続ける動機になりかねないので、首相の声明が気がかりだ。イギリスがパレスチナ国家を承認する9月まで待ち続ければいいと、ハマスはそう受け止めるかもしれない」、「イスラエルに対しては期限が設けられているが、ハマスに対しては同様の期限が設定されていない」とブリズリーさんは指摘した。
さらに、「人質を解放すれば今の事態は終わると、明確にする必要があると思う」とも述べた。

画像提供, Reuters
ノーム・サギさんの母アダさんは2023年10月7日にハマスに拘束された時、75歳だった。53日後に解放された。
ロンドン北部に住むサギさんは、スターマー首相の発表について「いろいろなことを見落としている。労働党内の政治的判断だ」と述べた。
「我々はとてもデリケートな、難しい状況にある。停戦と人質全員の解放実現のため、いかに適切なバランスを取るかが毎日求められている。人質が全員解放されない限り、停戦は成立しない。それは誰にとっても明らかだ」とサギさんは話した。
「首相はハマスに巨大なほうびを与えたようなものだ」とも述べた。
イギリス政府報道官は30日に声明を発表し、「ハマスに対する我々の要求は変わっていない。平和実現の可能性を得るには、人質は解放されなくてはならない。ハマスは武器を放棄し、ガザの統治に今後関与しないことを約束しなくてはならない」と述べた。
報道官はさらに、「国連総会を前に、我々の提示した条件をイスラエルとハマスがどこまで満たしているかを評価する。どちらの側も、何らかの行動や不作為によって、承認の拒否権を持ったりしない」と付け加えた。

画像提供, Ali Jadallah/Anadolu via Getty Images
イスラエルは3月上旬、ガザへの支援物資および商業輸送を全面的に封鎖し、2週間後にハマスへの軍事攻撃を再開。それまで2カ月間続いていた停戦はこれで崩壊した。イスラエルは、人質解放への圧力をかけるための措置だとしている。
封鎖は11週間後に一部緩和されたが、食料、医薬品、燃料の不足はさらに深刻化している。
統合食料安全保障分類(IPC)が発表した警告では、ガザを正式に「飢饉(ききん)状態」とは認定していないものの、最新のデータに基づき「ガザ地区の大部分で食料消費が飢饉の基準に達しており、ガザ市では急性栄養不良がその水準に達している」としている。
国連機関は、この人道危機の原因が、物資搬入を管理するイスラエルと、5月下旬から支援物資を配布しているアメリカ・イスラエル支援の団体「ガザ人道財団(GHF)」にあると指摘している。
イギリスのデイヴィッド・ラミー外相は、世界がガザで「最も悲惨な光景」を目にしており、「パレスチナ人の苦しみをやわらげる時が来た」と述べた。
ラミー外相はニューヨークの国連本部でBBCのトム・ベイトマン記者に対し、政府の29日の発表でイギリスは「(パレスチナ国家)承認の道に着いた」と述べた。
スターマー首相の決定は、パレスチナ国家の承認を求める一部議員の声が高まる中でのものだった。
一方、最大野党・保守党のプリティ・パテル影の外相は、政府の決定は「労働党議員をなだめるための政治的判断だ」と批判した。
「これは明らかに宥和政策で、労働党内の一般議員に対するキア・スターマーの政治的対応だ」、「彼は、パレスチナ国家承認をいま約束しても、持続的な平和の確保につながらないことを理解しているはずだ」と、パテル氏は批判した。













