【北京冬季五輪】 IOC会長、「ぞっとした」 ワリエワへのコーチ陣の対応に

Eteri Tutberidze and Kamila Valieva

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画像説明, トゥトベリーゼ・コーチ(左)は女子フリーで転倒を重ねたワリエワに、「なぜ戦うことをやめたのか」などと問い詰めた(17日、北京)

国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長は18日、北京冬季五輪フィギュアスケート女子フリースケーティングで複数のジャンプで転倒するなどし、取り乱した様子でリンクサイドに引き揚げたカミラ・ワリエワ(15、ロシア・オリンピック委員会=ROC)に対するコーチ陣の「冷たい」対応に「ぞっとした」と述べた。ワリエワはドーピング検査で陽性と判定されたものの、出場が認められた。

ショートプログラムで首位に立ったワリエワはこの日、最終滑走で登場。冒頭の4回転サルコーで着氷が乱れ、その後のジャンプでも転倒するなど精彩を欠き、合計224.09点で暫定4位(ドーピング問題の調査が終わるまで順位は暫定扱い)に終わった。

ワリエワは演技を終えると涙を見せた。しかし、エテリ・トゥトベリーゼコーチはリンクから引き揚げたワリエワを抱きしめることも、慰めることもしなかった。代わりに、「なぜ戦うことをやめたのか」、「なぜそのままにしたのか。私に説明して」などと問い詰めた。

トゥトベリーゼ氏は、2014年ソチ大会団体戦金メダリストのユリア・リプニツカヤ、2018年平昌大会の女子シングル金銀メダリストのアリーナ・ザギトワ、エフゲニア・メドベージェワらを育てたことで知られる。「鉄の女」の異名を取る同氏の厳しいトレーニング方法は、これまでも注目されてきた。

今季シニアデビューを果たしたワリエワは、短期間で世界最高得点を何度も更新し、今大会の金メダル有力候補と目されていた。

「ぞっとした」

IOCのバッハ会長は、ワリエワのコーチ陣が「彼女を慰めたり、手を差し伸べようとするのではなく、とてつもない冷淡な雰囲気に見えてぞっとした」と語った。

女子フリーをテレビで見ていたというバッハ会長は、「非常に、非常に動揺した」といい、「過去に起きたことについても、未来に関わることについても、カミラ(ワリエワ)の周辺はあまり信頼できないという印象を持った」と付け加えた。

「明らかに精神的ストレスを抱えた15歳の未成年アスリートに、どう対応して、どう接するべきかという話だ」

これに対し、ロシアのドミトリー・チェルニシェンコ副首相は、「IOC会長が選手たちの心情について自分勝手な架空の物語を作り出し、それをIOCの見解として公に発表するのを目にして、深く失望している」と述べた。

「率直に言って、これは不適切で、間違っている」

「勝っても負けても、我々のアスリートたちは世界一だ。アスリートたちもそれを分かっている」

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画像説明, 得点発表を待つ間、ワリエワは振付師(右)とコーチ(左)の間ですすり泣いた

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ドーピング問題

ワリエワは昨年12月25日のドーピング検査で、狭心症を防ぐ薬物トリメタジジンが検出され陽性となった。今月8日にこの結果が通知され、暫定的な資格停止とされたが、異議を申し立てた。翌日、ロシア反ドーピング機関(RUSADA)が資格停止を解除した。

この解除を不服として、国際オリンピック委員会(IOC)、世界反ドーピング機関(WADA)、国際スケート連盟(ISU)がスポーツ仲裁裁判所(CAS)に提訴。CASは14日、ワリエワの年齢や検査結果の通知のタイミングなどの「例外的な状況」を理由に、暫定的な資格停止にすべきではないと決定し、ワリエワの出場が可能になっていた。

これに対しWADAは、「保護対象者」である場合は、強制的な出場停止措置が任意になると、規則を事実上「書き換える」ものだと主張した。

WADAは声明で、「スポーツ競技の高潔性と、公平な競争の場で競っているという選手の確信を損なう恐れがある」とした。

IOCは、ドーピング問題の結論が出ていないとし、ワリエワが3位以内に入った場合、メダル授与式は開かないとしていた。同選手が4位になったことから、授与式は18日夜に予定通り開催された。

調査は現在も続いており、今後、ワリエワの今大会の成績が取り消される可能性もある。WADAはコーチや同行医師ら、同選手を取り巻く大人についても調べるとしている。

米紙ニューヨーク・タイムズは15日、ワリエワのドーピング検査ではトリメタジジンなど計3種類の薬物が検出されていたと報じた

ドーピング検査の結果が通知される前日(7日)には、フィギュアスケート団体戦でのROCの優勝に貢献した。日本は3位となり、この種目で初のメダルを獲得することとなった。

しかし、ワリエワの陽性判定を受けて順位が暫定的なものとなり、現時点でメダルは授与されていない。

「想像がつかないほどの」プレッシャー

ドーピング検査で陽性となったワリエワの五輪出場は物議を醸し、発覚からロシアへ帰国するまでの10日間もの間、メディアの注目を浴びることとなった。

CASのマチュー・リーブ事務局長は、ワリエワの出場を阻めば「取り返しのつかない損害」を同選手に及ぼすだろうと説明したが、フリーの演技を終えた時点で、同選手を出場させないほうが良かったのではないかと多くの人が疑問を抱く結果となった。

IOCのバッハ会長は、ワリエワが抱えていたプレッシャーは想像もつかないと語った。

1976年モントリオール大会のフェンシング・フルーレ団体で金メダルを獲得したバッハ氏は、「選手時代の経験から、プレッシャーについては少しは分かっている。だが、今回のプレッシャーは私には想像がつかないもの」だとした。

「氷の上でもがく彼女を、彼女がどのように自分を取り戻そうとし、どのようにプログラムを終えようとするのかを目の当たりにし、その体の動き一つ一つから、計り知れない精神的ストレスを抱えていたことがうかがえる。とにかく氷から離れ、この件を過去のものにしたいと思っていたのかもしれない」

しかし、たとえ本人がそう願っていたとしても、WADAの調査は続く。加えて、ワリエワが将来、再びオリンピックに出場できるかどうかは誰にも分からない。

「彼女の家族や友人が彼女を支え、この非常に困難な状況を乗り越えられるよう周りの人々に支えてもらえることをただ願う」と、バッハ氏は付け加えた。

「そして、正しい方法でこの問題が対処され、このような若い女性が劇的な経験をすることがないように願うばかりだ」

10代で金メダリスト、引退も

ワリエワのコーチを務めるトゥトベリーゼ氏は、モスクワにあるアスリート養成施設「サンボ70」で近年、若手スケーターの育成に成功してきた。今大会で女子シングル金メダルを獲得したアンナ・シェルバコワ(17)、2位のアレクサンドラ・トゥルソワ(17)もトゥトベリーゼ氏に師事する。

トゥトベリーゼ氏の教え子で平昌大会金メダリストのザギトワは当時15歳、同大会銀メダリストのメドベージェワは当時18歳だった。ソチ大会では15歳のリプニツカヤが団体金メダルを獲得するなど、10代での活躍が目立つ。

ただ、いずれの選手も10代のうちに引退したり、復帰のめどが立たないまま競技から遠ざかっている。

17日に銀メダルを獲得したトゥルソワも、若くしてリンクを去ることになるかもしれない。同選手はフリー後、「こんなスポーツ大嫌い。こんな競技大嫌い。このすべてが大嫌い。メダル授与式になんて行かない(中略)行きたくない」と、泣きながら怒っていた。

ただし、同じ日のメダリスト会見に出席した際には、落ち着きを取り戻し、「感情的になってしまっただけです。将来どうするかは後で決めたいと思う」と述べた。

ワリエワ、シェルバコワ、トゥルソワの3選手は女子フィギュアスケートでは珍しい4回転(クワッド)ジャンプを跳ぶことから、「クワッド・スクワッド」と呼ばれる。フリーに進出した25選手のうち、4回転ジャンプに挑んだのはこの3人だけだった。

トゥトベリーゼ氏らの指導により、高得点をたたき出せるスケーターが生まれているのは間違いない。ただ、17日に2人の選手が泣きながらリンクを去ったことについて、疑問視する声が今では多く上がっている。

こうした事態に「対処するための手段は非常に限られている」と、バッハ氏は述べた。「我々は警察ではないので、取り調べや正式な起訴手続きはできないし、私たちが行使できる制裁措置も極めて限定的だ」。

「結局のところ、各国政府の支援が必要な問題といえる」

過去の組織的ドーピングに対する制裁措置として、ロシアの選手は国際スポーツイベントで国を代表することはできず、ロシア・オリンピック委員会(ROC)として出場している。今大会も、ロシア選手団はROCの一員として参加している。