英下院議員殺害の容疑者、テロリズム法違反で逮捕

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英与党・保守党の下院議員、サー・デイヴィッド・エイメス(69)が地元選挙区で有権者との対話会の最中に男に刺されて死亡した事件で、複数の英政府関係者は16日、逮捕されたのはアリ・ハービ・アリ容疑者(25)だとBBCに明らかにした。
15日正午過ぎに起きた事件についてロンドン警視庁は16日未明、テロ事件と断定し、「イスラム過激主義に関連している可能性がある」とコメントした。容疑者は2000年テロリズム法に違反した疑いで、ロンドン市内の警察署に勾留されているという。事件のあったエセックス州の警察は当初、殺人容疑でアリ容疑者を拘束していた。
ロンドン・ウェストミンスターの治安判事裁判所は捜査当局に対し、今月22日まで容疑者を勾留し取り調べることを認める令状を与えた。
調べによるとアリ容疑者は、ソマリア系のイギリス国籍。警察は、他に共犯者はいなかったとみているという。
ロンドン警視庁は、事件で使用された刃物は現場で押収したと発表した。警察は16日にはロンドン周辺の3カ所を捜索。同日には遺体の検視も行われたという。
BBCの取材で、アリ容疑者は数年前に政府のテロ防止事業「Prevent(防止)」の対象として、名前が挙げられていたことが分かった。同事業は、若者などが過激思想に洗脳されるのを防ぐことを目的としている。一般市民、教師、医療関係者などが、過激化のおそれが懸念される人の存在を、警察や社会福祉士など様々な専門家で構成される各地域の委員会に伝え、委員会はその対象者の生活に介入すべきかどうかを判断するというもの。
アリ容疑者がこの事業の対象だった期間は短く、保安局(MI5)の正式な「興味の対象」として調査対象だったことはないという。
15日の事件では、保守党から1983年以降当選を繰り返していたエイメス議員が、東部エセックス州の選挙区の教会で、有権者との定例の対話会を開いていた。英政治では、下院議員が地元の不特定の有権者と直接会って懇談するこうした対話会を開くのは、長年の慣習となっている。有権者が予約なしで参加できることもある。
議員や、残された妻と子供5人のため、16日夜には現場のあったリー・オン・シー町で参加者がろうそくを手に、追悼集会を開いた。

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エイメス議員の地元だったサウスエンド・オン・シーのイスラム教徒住民たちは合同声明を発表し、「まったく弁護の余地のない、言語道断の行為」だと事件を糾弾。議員の温かい人柄や、自分を顧みない優しさを、自分たちは忘れないと述べた。
議員の安全懸念高まる
イギリスでは2016年6月に労働党のジョー・コックス下院議員が同様に、有権者との対話会を開く予定だった選挙区の図書館前で殺害されている。さらに近年では、下院議員への脅迫や攻撃が急増していると指摘されていた。
それだけに今回のエイメス議員殺害によって、下院議員の身の安全への懸念が高まっている。イギリスでは下院議員が有権者との対話会を開くのが長年の慣習で、会場には誰でも入れることが多い。
プリティ・パテル内相は、下院議員を守るための警護措置を実施すると述べる一方で、下院議員は従来の職務を継続すると強調した。
「私たちは今までのように仕事を続ける。私たちは開かれた社会、民主主義に暮らしている」と、内相は述べた。パテル氏は16日、ボリス・ジョンソン首相、最大野党・労働党のサー・キア・スターマー党首、サー・リンジー・ホイル下院議長と共に、事件現場を訪れた。
「私たちは、どのような個人や動機にもおびえてひるんだりしない。選挙で選ばれた民主体制のために尽くすという職責を果たす」と、パテル氏は述べた。
内相は、下院議員が有権者と対面して、有権者の懸念や関心事について直接話し合うというイギリス政治のあり方を維持しつつ、議員の安全を守ることは可能なはずだと強調した。
一方で、保守党のトバイアス・エルウッド下院議員は、議員たちは当面、有権者との対話は電話やZoomで行ってはどうかと提案した。エルウッド議員は2017年に英議会議事堂が襲撃された際、刺された警官に人工呼吸などを施して助けようとしたことで知られる。
労働党のダイアン・アボット下院議員は、刃物による攻撃を避けるため、自分は端末画面越しに有権者と対話したいと話している。
2016年に対話会の会場近くで殺害されたコックス議員の妹、キム・レッドベター下院議員(労働党)は、エイメス議員の殺害を知った自分のパートナーから、議員を辞めてくれないかと言われたと明らかにした。

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