ウクライナへの欧米の支援にかげり ゼレンスキー氏、「ロシアの望むこと」と警鐘
ジェシカ・パーカー、BBCニュース(キーウ)

画像提供, Ukrainian Presidency via Reuters
ウクライナは現在、ロシアの全面侵攻開始以来、最も苦しい日々に直面している。
大きな期待がかかっていた反転攻勢は膠着(こうちゃく)したようだ。アメリカと欧州連合(EU)は、新たな財政・軍事支援の合意に苦慮している。そして世界の注目は、イスラエル・ガザ戦争によって逸らされてしまった。
アメリカの支援パッケージが同国議会で論争に巻き込まれた後、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、ロシア政府は欧米が弱さを見せるのを待っているのだと警告した。
主要7カ国(G7)の会合にバーチャルで参加したゼレンスキー氏は、「ロシアの望むことはただ一つ。来年、自由世界の結束が壊れることだ」と述べた。
アメリカのジョー・バイデン大統領は連邦議会に、「正しいことをしてほしい」と訴えた。「(支援法案の成立を)待っている余裕はない」とも述べた。
一方、ウクライナ政府高官は一見、前向きだ。国民の反抗心も残っている。しかし、やはりそこには暗い空気がうかがえる。
首都キーウのコントラクトワ広場で取材したイリナさんは、「1年前に比べて勝つという自信は少し薄まった」と話した。
夫のオレクサンドルさんと一緒にいたイリナさんは、侵攻前の暮らしを思い出して泣き始めた。

「今この広場を歩きながら、数年前にここで新年を祝った時のことを思い出している。交響楽団が演奏していて、とても美しかった」
「そういうことが自分たちの暮らしに戻ってきてほしいと本当に思うし、ウクライナに勝ってもらいたい。私たちはとてもつらい思いをしているので、外国からの助けが本当に必要だ」
「得するのはプーチン氏だけ」
ゼレンスキー大統領は5日、米連邦議員とのバーチャル会議を、直前にキャンセルした。理由は明らかになっていない。
翌6日に米上院は、ウクライナへの支援を含む大型支出法案を否決した。
1060億ドル(約15兆6000億円)の支出案のうち610億ドルはウクライナ支援に振り向けられる予定だった。このほか、イスラエルと台湾への軍事支援と、アメリカの南部国境の強化が含まれていた。
しかし、ゼレンスキー氏がビデオ会議で登場する予定だった会議は、国境措置をめぐって口論に発展。数十人の共和党議員が退席した。6日の採決では、共和党議員全員が反対票を投じた。
駐米ウクライナ大使のオクサナ・マカロワ氏は、慎重な楽観主義の根拠はまだあると述べた一方で、「私たちはまだ、望んでいるような状況にはない」と認めた。
こうした中でバイデン政権は、ウクライナに対して1億7500万ドル規模の新たな安全保障支援を行うと発表。これには、すでに承認されている資金が使われる。
一方のEUは、500億ユーロ(約7兆9000億円)の経済支援を計画しているほか、ウクライナのEU加盟に向けた正式協議も始めようとしているが、その見通しも不透明だ。
ハンガリーのオルバン・ヴィクトル首相は、来週始まるEU首脳会議を前に、これらの提案を否決すると脅している。あるEU外交官はこれを受け、「全てが危険にさらされている」と話した。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領との関係を維持しているオルバン首相は、欧州が追加支援を提供ても、ウクライナがロシアに勝つ見込みは「非常に疑わしい」と発言した。

こうした状況に、BBCがウクライナで取材したタチアナさんは、涙ながらに「もちろん支援が必要だ。私たちは欧州全体を守っている」と話した。タチアナさんの息子は現在、前線で兵役についているという。
「もっと武器が必要だ。私たちの子供が死んでいるのだから」
駆け引きやトレードオフはどんな政治システムにもつきものだが、欧米の支持を得るのは「ますます難しくなっている」と、ウクライナの野党議員オレクシイ・ゴンチャレンコ氏は認めている。
ゴンチャレンコ議員は、米・ウクライナ両議会が作る友好グループに参加しており、アメリカの議員や政府高官との協議のためにワシントンを訪れたこともある。
ウクライナへの支援は依然として強いと考える一方で、新たな援助が来るのか苦悩しながら待つことダメージは大きいと、ゴンチャレンコ氏は警告した。
「西側が、必要とされる限りずっとウクライナと共にいると言う時、それは本当にたった2年なのか? 『ずっと』とは2年のことなのか?」
「今の展開で得をするのはプーチンただ一人だ」
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今年6月にやっと始まったウクライナの反転攻勢には大きな期待がかかっていた。
しかし、この取り組みがなぜ失敗したのかについては、すでにアナリストらが事細かに事後分析を重ね、制空権の欠如、戦略的誤算、ロシアの厳重な防衛網といった問題を指摘している。
キーウにある軍事・司法研究センターの防衛アナリスト、オレクサンドル・ムジイエンコ氏は、「どんなに優れた計画も実際の作戦行動が始まれば、話は変わってしまう」と話した。
反攻が終わりに近づいているとムジイエンコ氏は考えているが、この冬、ロシア軍を「休ませない」ことが重要だろうと指摘した。
占領地への長距離攻撃と局地的な攻撃作戦は続けなければならないが、ウクライナは来年の新たな攻撃に備えられると同氏は考えている。
さらに武器が到着すれば、「こうした困難な時期にあっても、我々にはチャンスがある」と、ムジイエンコ氏は述べた。
ロシアには常に時間の余裕があり、ウクライナには決してかなわない膨大な人的資源がある。
ウクライナでは、ゼレンスキー大統領と、11月に英誌エコノミストに「戦争は膠着状態にある」と語ったヴァレリー・ザルジニー総司令官との間に緊張が走っていると報じられている。
しかし、ウクライナにはまだ戦う意志がある。これは存在をかけた戦争であり、また、武器の国内生産を強化しようとする動きがあるからだ。
しかし、国外のパートナーからの武器や資金が重要であることに疑いの余地はない。
ウクライナ与党のオレクサンドル・ワシウク議員は、「決定的な勝利のためには、包括的かつ緊急の支援が必要だ!」と宣言した。
ワシウク議員はBBCに対し、「アメリカとEUが明確に状況を判断し、相違を乗り越えられると確信している」と述べた。
キーウで取材した年金生活者のウォロディミルさんも、「悪は打ち負かされなければならない」と、強い口調で話した。
「アメリカも、EUも、世界中がこれを理解しないといけない」








