G20共同宣言 インドはどのようにまとめ、各国はどのように合意したのか
ヴィカス・パンデイ、スーティク・ビスワス(G20サミット、デリー)

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9~10日に開催された20カ国・地域首脳会議(G20サミット)の共同宣言は、インドにとって大きな外交的勝利とみなされている。
数日前まで、このG20サミットでの共同宣言の採択は不可能とみられていた。グループはロシアのウクライナ侵攻をめぐり、大きく分断されているからだ。
しかし最終的には G20の全加盟国が全会一致で、反対意見の表明もなく、共同宣言が発表された。
今回のサミットには出席していないウクライナは、この宣言に不満を表明した。一方でアメリカやイギリス、ロシア、中国といった主要国は結果を歓迎している。
インドはどのように、ウクライナをめぐって全く異なる思惑を持つ国々をまとめたのだろうか。
そのヒントは共同宣言を、そしてサミット以前の数週間にわたる地政学的な展開を深く読み込むと見えてくる。
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ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカからなる新興5カ国(BRICS)は8月、新たに6カ国が加盟すると発表した。
新メンバーのアルゼンチン、エチオピア、エジプト、イラン、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)は、いずれも中国と深いつながりがある。
BRICSの拡大は、G20サミットの結果に直接的な影響は与えていないかもしれない。しかし、ここ数年で中国が、特に途上国に対して勢力を広げていることを、西側諸国が懸念しているのは特に秘密でもなんでもない。
コンサルティング会社「ユーラシア・グループ」の南アジア主任を務めるプラミット・パル・チャウデュリ氏は、「直接的な要因ではないが、欧米、特にアメリカは、中国が事実上、反・西側ともいえる、従来の代わりとなる国際秩序を作ろうとしていることを、意識している」と指摘する。
また、西側諸国がインドを中国への対抗軸として見ており、共同宣言なしにG20議長国を終わらせたくないことも周知の事実だった。

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つまり、西側諸国がインドの合意形成に協力する理由は、ひとつに限らなかったのだ。
最大の争点はウクライナでの戦争だった。
昨年のバリでのG20サミットの共同宣言は、この戦争を「ロシアによるウクライナへの侵略」と呼んだ。一方で、その評価についてメンバーから反対意見があったことも記された。
西側諸国が昨年の共同宣言よりも弱い表現を使うことに合意するとは思えなかった。かたやロシアは、戦争について非難される内容の声明は認めないとほのめかしていた。
突破口が必要なこの状況で、ロシアとも西側とも良好な関係にあるインドは、その仲介役を務めるのにうってつけだった。
最終的には、ロシアを満足させるとともに、西側諸国にも受け入れ可能な文言が選ばれた。
コンサルティング会社「コントロール・リスクス」のアジア太平洋主任、アンゲラ・マンチーニ氏は、「インドに外交的勝利を与えたいと、西側が望んでいるのは明らかだった。そのために妥協は不可欠だった。しかしアメリカと西側諸国は、合意できないほどの問題が文言にあるなら、共同宣言に署名しなかったはずだ」と指摘した。
今回の共同宣言は、戦争はロシアのせいだと、ロシアを非難することを避けた。アナリストらはこの点について、バリの宣言より柔らかくなったとみている。それでもなお宣言は、「ウクライナにおける戦争が世界の食料とエネルギーの安全保障に及ぼす人的被害と負の付加的影響」について言及した。
イギリスやアメリカ、フランスの首脳らはロシアと同様、この宣言がサミットの結果にふさわしいものと判断したようだ。ただし、その解釈は異なっている。
イギリスのリシ・スーナク首相は、共同宣言は「戦争が食品価格や食品安全に与える影響を力強い言葉で語った」と評した。一方、ロシアのセルゲイ・ラヴロフ外相は、今回のサミットは「一里塚」だと述べた。
ウクライナは予想外の宣言の内容に憤慨しており、今回のG20には何一つ誇れる点がないと批判した。

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多くの途上国が悩まされている債務危機も、今回のサミットの大きな議題の一つだった。
途上国はこれまで一貫して、富裕国による経済支援の拡大を訴えている。各国経済は新型コロナウイルスのパンデミックによる打撃を受け、ウクライナでの戦争が困難を悪化させている。世界銀行は昨年12月、世界の最貧国の債務返済額は年間620億ド以上に上ると発表した。この債務返済額の66%が中国に対するものと予測されるという。
西側諸国は、中国の融資慣行が利己的で債務国をえじきにするものだと批判している。中国はこの指摘を否定している。
ロシアとしっかり手を結んでいる中国は、今回の共同宣言を否決する可能性もあったが、そうはならなかった。宣言の債務危機の項目には、直接的にも間接的にも中国への言及がなかった。
ユーラシア・グループのパル・チャウデュリ氏は、「債務救済に関しては前進は見られなかった。融資慣行に対する批判をしていれば、それは様々な面から、反・中国の動きだと解釈されただろう」と指摘した。
宣言では債務危機があることを認め、各国に対し、2020年に低所得国の支援で合意した共通枠組み(CF)の実施を加速させるよう要請した。
また、2030年までに再生可能エネルギー容量を世界全体で3倍にする努力を追求し、奨励するとしたが、温室効果ガスの削減については大きな目標を定めなかった。G20は、世界の温暖化ガス排出量の75%以上を占める。
重要なのは、宣言が原油使用量の削減目標に一切触れず、その代わりに石炭使用の段階的削減に重点を置いた点だ。これには、サウジアラビアやロシアといった産油国が満足しているかもしれない。インド自身、そして中国も、西側諸国の設定した排出量削減目標には不満があり、「非現実的」だとしてきた。

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インドが今回、重大な妥協の代償を払ったとしても、全体の合意形成に懸命に取り組んだことは明らかだ。
コントロール・リスクスのマンチーニ氏は、「共同宣言には各国の同意が必要だった。それを思うと、その同意を得るために、特定分野で表現が少し控えめだったとしても、決して不思議ではない」と語った。
一方、G20サミット以前から各国が一致していたのは、アフリカ連合(AU)の常任メンバー入りだった。
インドは、世界的なプラットフォームでのグローバル・サウス(世界の南側に偏っている途上国)の発言権拡大に力を入れているが、この動きによって強化されたかっこうだ。
ロシア政府の交渉担当者は、今回はG20の25年の歴史で「最も難しいサミットの一つ」だったと語った。スヴェトラナ・ルカシュ氏はインターファクス通信の取材で、「共同宣言の合意には、サミットの前に20日間、デリーに来てからさらに5日間かかった」と述べた。
G20が富裕国と発展途上国をひとつにするのか、それとも世界をふたつの陣営に分けるのかは、まだわからない。









