【解説】 ロシア混迷はプーチン政権の「カウントダウン」とウクライナ幹部 西側首脳は動揺

ジェレミー・ボウエン、BBC国際編集長(キーウ)

A Ukrainian serviceman of an air defence unit prepares a portable air-defence system for work during his combat shift, amid Russia's attack on Ukraine, in the Kyiv region, 27 June 2023

画像提供, Reuters

画像説明, ワグネルの反乱が戦争にどう影響するか、ウクライナ政府幹部は注視している。写真はウクライナ防空部隊の兵士(27日、キーウ州)

ロシアの雇い兵組織ワグネルとその代表エフゲニー・プリゴジン氏による反乱の推移、そしてそれがウラジーミル・プーチン大統領やウクライナでの戦争遂行にどう影響するのか。ここ数日、ウクライナ政府幹部の関心はそこに集まっていた。

国境を越えたロシアでの劇的な動きを見て、プーチン氏の大統領としての時間は終わりつつある――。ウクライナ政府内ではその見方が強まっている。

「カウントダウンが始まったのだと思う」。ウォロディミル・ゼレンスキー大統領に最も近い側近、アンドリイ・イェルマーク大統領顧問はこう話す。

キーウで開いた記者ブリーフィングで、イェルマーク氏は9年前を振り返った。ロシアが最初にウクライナに侵攻し、クリミア半島を併合した時のことだ。

「ウクライナが2014年から見続けてきたことが、今では世界中にあらわになった」とイェルマーク氏は述べた。

「(ロシアは)テロリスト国家だ。その指導者は、現実を見失った、能力不足の人物だ。あの国とまじめな関係を維持するなど不可能だと、世界は結論しなくてはならない」

キーウでBBCの取材に応じたウクライナ政府幹部は誰もが、今回の反乱未遂でプーチン氏は壊滅的に権威を失墜させたし、そこから立ち直るのは無理だろうという意見だった。

動画説明, プーチン氏は「国民に感謝」、国営テレビは「西側」非難 BBCロシア編集長報告
Presentational white space

ことの発端は昨年2月のことだと、ウクライナ政府幹部は言う。ウクライナに全面侵攻を仕掛けるというプーチン氏の決断が、そもそも壊滅的だったのだと。そこへきて今回のワグネルによる反乱だと。

クレムリン(ロシア大統領府)が公にしている開戦の理由はうそだと、プリゴジン氏は公然と非難した。そのことが、プーチン氏の失脚を決定的にした――と、ウクライナ幹部は言う。もはやプーチン氏がこのまま大統領を続ける可能性は残されていないと。

「プーチン政権はもはや救いようがない」。ウクライナ政府幹部の1人はそう強調した。

ロシア国内の不満勢力に注目

ウクライナ人が、とりわけウクライナの政府を動かしている人たちが、敵国ロシアについて口にすることはすべて、今の戦争のあおりを受けての発言だということは、しっかり念頭に置かなくてはならない。ウクライナの人たちは、自分たちの国の存亡をかけて戦っているのだと思っているし、それは正しい認識だ。

ウクライナはメディアを駆使した情報戦を巧みに戦ってきた。そして、自国民と西側の同盟諸国、さらにはロシアの敵に向けて発信する内容も、見事なほど一貫している。

ウクライナ人がジャーナリストに示す状況判断には、希望的観測も含まれているはずだ。

しかしそれでも、大敵ウラジーミル・プーチンとその政権を巻き込んだ今回の危機について、ウクライナ政府幹部の見方を知るために時間を費やすのは、有用なことだ。

プーチン氏は2000年に最初に大統領になって以来、自分の権威に対する最大の危機に直面している。それは疑いようもない。

ロシア国内で政府に不満を持つインサイダーたちが作る非公式のネットワークが、プーチン氏に対立しているのだと確信するウクライナの政権幹部もいる。

ウクライナ国家安全保障・国防会議のオレクシー・ダニロフ書記は、執務室でBBCの取材に応じ、プーチン氏に対抗する勢力の中で「プリゴジンが一番上というわけではない」と話した。そして、ロシア国内でプーチン氏に対抗している勢力から「次の政治エリートが生まれるのかもしれない」とも述べた。

反プーチン勢力には、治安当局、政府関係者、そしてロシアのオリガルヒ(富豪)の代表たちがいるのだとダニロフ氏は話した。いずれも、昨年2月のウクライナ侵攻開始はロシアにとって脅威だというだけでなく、自分たち個人にとっても大惨事だと考えている顔ぶれなのだという。

60歳過ぎのダニロフ氏は黒い軍服風の服を着て、胸には名字を記したバッジをつけていた。あなたのその分析を裏付ける証拠はあるのかと私が質問すると、一瞬いらっとしたのが見て取れた。

「憶測ではない。どういう顔ぶれなのか我々は承知している。どういう経歴なのかも知っている」と、ダニロフ氏は強調した。

Mykhailo Podolyak, adviser to Ukraine's President Volodymyr Zelensky
画像説明, 戦況に影響するほどワグネルの反乱は長続きしなかったと、ポドリャク顧問は言う

ゼレンスキー大統領に近いもう一人の側近、ミハイル・ポドリャク大統領顧問も、「権力を手にしたいグループがロシア国内に複数ある」と同意した。

プーチン氏が作り上げたトップダウンの権威主義的な体制は、今では権力の中枢がほとんどからっぽになりつつあるとポドリャク氏は言う。

匿名を条件に取材に応じた別のウクライナ政府幹部は、さらに踏み込んでこう述べた。次に何か軍事的な失態があれば、それを受けてプーチン氏はセルゲイ・ショイグ国防相とヴァレリー・ゲラシモフ参謀総長を更迭せざるを得ないだろうと。

2人の更迭が、プリゴジン氏とワグネルの反乱兵側の主要な要求だった。

「プリゴジン氏は望みをかなえるはずだ」と、このウクライナ政府幹部はみている。「彼の政治生命は終わっていない。いつまでもベラルーシに亡命したままで終わるはずがない」。

ポドリャク氏はワグネルの反乱について、ウクライナの反転攻勢に影響を与えるほど長くは続かなかったと述べた。ウクライナとロシアの戦線は、1945年以降に起きた戦争では最長の1800キロメートルに及んでいるという。

ウクライナが非常に厳しい戦いを強いられていることは、この戦争をきわめて冷静に観察していれば、明らかだ。ウクライナの兵士も、北大西洋条約機構(NATO)が供与した装甲車両などの装備も、被害を受けている。

私は、匿名を条件に取材に応じた当局者に、ウクライナ東部での最近の戦術的な勝利について尋ねた。ウクライナ軍はいくつかの小さな村を掌握している

すると、彼は手を挙げて、指で空気を挟むようなしぐさを見せた。指と指の間を1センチほど開けて。

ウクライナ軍の前進は遅く、痛みを伴い、そして限定的なものだというメッセージだった。それでも、彼は状況は変わるかもしれないという希望もみせた。

Map showing areas of Russian control in Ukraine

ウクライナ政府幹部は今夏の反転攻勢に対する期待に応えようと、変わらず全力を尽くしている。幹部たちは、西側の一部の同盟国や、支持してくれているメディア関係者が、ウクライナ軍とNATOの装備に過剰に興奮しているとみている。

ウクライナ政府関係者の中には、西側諸国の指導者たちがとあることを恐れて、恐怖に眠れぬ夜を過ごしていることを認める者もいる。とあることとはつまり、プーチン政権が公然と崩壊すれば、世界最大の核兵器保有国でプーチン氏の後継候補たちが権力争いを繰り広げ、本当に危険な事態に陥るかもしれないという恐怖だ。

7月にリトアニアで開催予定のNATO首脳会談(サミット)では、この点が重要議題になることは確実だ。

ゼレンスキー氏とその顧問たちは、このサミットを通じて、NATO加盟へ向けた確かで明確な道筋が示されることを期待している。ロシア国内の不安定に対する最善手は、ロシア政府に鉄の壁を見せることだと、ウクライナ政府幹部は考えている。

しかし、悲惨な戦争が始まってから間もなく1年半となり、ワグネルの反乱に見舞われたプーチン氏とその政権を取り巻く不確実性は、戦場ではなく交渉のテーブルで戦争を終結させることを望むNATO加盟国の不安をあおることになるかもしれない。