偽装ロシア船舶、北海で妨害活動か 北欧4カ国の共同制作ドキュメンタリー
ゴードン・コレーラ、BBC安全保障担当編集委員

画像提供, Morten Krüger, DR
ロシアが北海の洋上風力発電所や通信ケーブルに対する破壊工作を計画している――。こうした内容のドキュメンタリーを、北欧4カ国の公共放送局が共同制作した。
デンマークのDR、ノルウェーのNRK、スウェーデンのSVT、フィンランドのYleの公共放送各局は19日、ドキュメンタリー・シリーズの放送を開始。それによると、漁船や調査船に偽装したロシアの複数艦船が北海で活動しているという。水中偵察機材を搭載し、破壊工作の対象となり得る標的の海図を作成していると番組は説明した。
この偵察活動の一環として、ロシア艦船がイギリス領海内を航行していると、イギリス政府が把握していることが、BBCの取材で分かった。
デンマークの防諜将校は、ロシアは西側との全面戦争に備えて破壊工作計画を進めているのだと説明。ノルウェー情報機関のトップは取材に対して、ロシアにとってきわめて重要な偵察活動で、ロシア政府が直接指揮しているものだと話した。
番組制作側は、ロシアの通信を傍受・分析した結果、位置情報を明らかにしないよう発信機をオフにした状態で北海を航行するいわゆる「幽霊船」の存在を把握したという。
ドキュメンタリーは、ロシア艦船「アドミラル・ウラジミルスキー」の動きに注目している。これは表向きは、水中調査を専門とする遠征海洋調査船だが、実際にはロシアの偵察艦だと番組は説明する。
番組は、匿名の元イギリス海軍専門技官の協力を得て、「アドミラル・ウラジミルスキー」が1回の航海でイギリスとオランダの沖合にある7カ所の洋上風力発電所の近くを移動する様子を追跡した。


番組によると、「アドミラル・ウラジミルスキー」は洋上風力発電所がある位置に接近すると減速し、周辺をうろうろする。発信器を切ったままの状態で、1カ月にわたり航行を続けていたという。
記者が小型ボートで「アドミラル・ウラジミルスキー」に接近してみると、軍用アサルトライフルを手にして顔を覆った人物が立ちはだかったという。
「アドミラル・ウラジミルスキー」は昨年11月、英スコットランドの東沖でも視認されている。北海に面したモレイ湾に11月10日に入るのを目撃されたのち、イギリス空軍の対潜哨戒機部隊が常駐する基地のあるロシーモスから30海里東でも確認され、その後はゆっくり西へ移動した。

BBCの取材の結果、ロシア艦船がイギリス領海内も航行しなが海底地図を作っていると、イギリス政府が把握していることが分かった。
消息筋は、イギリスに対して何か具体的な脅威があれば、詳しく調査すると述べたものの、具体的に何かを調べたのかは明らかにしなかった。
今年2月にはオランダの情報当局が、海洋インフラに対する妨害もしくは破壊工作の準備が進んでいることを示す活動があると、異例の公式警告を出した。その際、オランダの情報トップは、北海の洋上発電所近くでロシア艦船が海図作成中だと分かったと述べた。
オランダ軍情報保安局(MIVD)のヤン・スウィレンス局長は当時、「北海のエネルギー系統の仕組みを把握しようと、ロシアがここ数カ月、活動している。初めて見る行動だ」と話していた。
重要施設の偵察は異例なことではないし、欧米諸国もロシアに対して同様の活動をしている可能性が高い。その意図はおそらく、現在の紛争がエスカレートした場合の対応として使える、複数の選択肢を確保しておくことだろう。
そうした選択肢の一つとして、通信手段の破壊、あるいは混乱を引き起こすため相手国のエネルギー系統を機能停止に陥れるなどがある。
これまでのところ、そうした展開のため情報を集めてはいるものの、実際の破壊工作となると証拠は限られている。
AFP通信によるとロシア当局は19日、ドキュメンタリー番組による主張は何の根拠もないものだと反論した。
番組制作者は北欧4カ国の駐在ロシア大使にコメントを求めて取材しているが、回答したのは駐ノルウェーのロシア大使だけだった。
ロシアのテイムラズ・ラミシュヴィリ駐ノルウェー大使は番組に対して、ロシアがスパイ活動やハッキング攻撃など様々な諜報活動を繰り広げていると、ノルウェー当局は常日頃から何の証拠提示もないまま主張するのが習慣になっているのだと答えた。
ロシア船舶はノルウェーの規則に沿って行動しており、ノルウェー領海を航行する権利があると、大使は主張した。
ノルウェー・スヴァールバル諸島の南では昨年1月、海中ケーブルが断線した。今回の報道は、ロシアのこうした船が関連していた可能性をうかがわせるものだ。
切れた通信ケーブルは世界最大の衛星通信基地とノルウェー本土を結ぶものだった。ノルウェー警察はケーブル断線は「人間の活動」によるものとの見解を示したが、正式に具体的な誰かを名指しするには至っていない。
今年4月13日にノルウェー政府はロシア政府関係者15人を、スパイ活動の疑いで国外追放した。昨年2月のウクライナ侵攻開始以来、欧州各国は同様にロシア政府関係者を追放している。
昨年10月には、英スコットランド北西にある英シェットランド諸島につながるケーブルが断線。本土との通信が著しく困難になり、警察は重大事件だと発表した。当時は「漁船」のせいだろうと言われていた。
海底ケーブルの切断事故は決して珍しくない。シェットランド諸島のケーブル断線も同様で、何かしらの敵対的行動によるものではないと、BBCも現時点では考えている。
明らかに破壊工作によると言えるのは、昨年9月に起きた海底パイプライン「ノルド・ストリーム」の爆発だ。ロシアからヨーロッパにガスを送るこのパイプラインの部分的な破壊について、発生当時は多くがロシアによるものと非難した。しかしそれ以降、誰による犯行なのか諸説が飛び交っている。親ウクライナ勢力によるとする報道もあり、調査は続いている。
ロシアによる対外工作といえば、軍参謀本部情報総局(GRU)は破壊工作だけでなく、毒物の使用も疑われている。2013年3月に英南部ソールズベリで起きた元ロシア・スパイとその娘を狙った事件では、神経剤「ノヴィチョク」が使用された。この事件にかかわったとされるGRUの同じチームが、2014年10月にチェコ南東部の弾薬庫が爆発し2人が死亡した事件にも関与したとされている。







