元英保健相のテキストメッセージ10万件を英紙入手、コロナ対策の内情が明らかに

Matt Hancock

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画像説明, マット・ハンコック元保健相

イギリスで、新型コロナウイルスのパンデミック時に保健相としてロックダウン政策などを主導したマット・ハンコック氏が、この期間にボリス・ジョンソン首相(当時)や政府幹部と交わした10万件以上のメッセージが流出した。英紙デイリー・テレグラフがその内容を掲載し、物議をかもしている。

報道によると、ハンコック氏と閣僚らは、メッセージアプリ「ワッツアップ」のやりとりの中で、ホテルで隔離されている入国者をからかったり、パンデミックの影響を受けた教師を批判したりしていた。

また、2021年にハンコック氏と同僚女性がキスをしている写真が報道された際に、これが新型ウイルス対策の社会的距離の確保に違反したかどうかを40時間以上にわたり話し合っていたことも明らかになった。

ハンコック氏は同僚女性とのキスが報道されたのを受け、2021年6月に保健相を辞任している。

BBCはこれらのやりとりの全文を入手しておらず、独自に確認していない。

しかし、報道された一連のメッセージからは、新型ウイルスの感染拡大を抑えようと取り組む政府の内情が見えてくる。

「ファーストクラスから靴箱のようなホテルに」

2021年2月16日、サイモン・ケイス内閣官房長(当時)はハンコック氏に、「きのうは何人ホテルに閉じ込めたのか」知っているかとメッセージを送った。英イングランドはこの前日、感染リスクの高い33カ国からの入国者に対し、ホテルでの隔離を義務付けていた。

ハンコック氏が「ゼロだ。でも149人が入国を望んで、自由意志でホテルでの隔離を選んだ!」と返すと、ケイス氏は「爆笑だ」と送り返した。

ハンコック氏はさらに、「大きな家族にスイートルームを与えて、ポップスターは箱のような個室に放り込んでる」と述べた。

ケイス氏は、「ファーストクラスから降りてプレミア・インの靴箱に入った人たちの顔が見てみたい」と答えた。プレミア・インは、イギリスで展開する低価格のホテルチェーンで、入国者の隔離に使われていた。

教師労組を批判

Pupils wearing masks

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イギリスではパンデミック中、多くの学校が閉鎖などの影響を受けた。教師労働組合は2020年、Aレベル(大学入学試験に相当)試験の実施を遅らせるよう政府に要請。当時のサー・ギャヴィン・ウィリアムソン教育相は10月1日、労組の要請より短い期間の試験延期を発表した。

ハンコック氏はこの日、サー・ギャヴィンに、「今日の発表は最高だ。教師労組は何て馬鹿げたやつらの集まりなんだ」とメッセージを送った。

これに対してサー・ギャヴィンは、「連中はただひたすら、仕事が嫌いなんだよ」と返信した。

ハンコック氏はその後、笑っている顔と、的が矢で射抜かれた絵文字を送り返している。

校長・学長協会のジェフ・バートン会長は、BBCの番組「ブレックファスト」に対し、非常に不安だった時期に若者たちを学校に戻した教師たちが、「元教育相にこんな悪口を言われているとは」と述べた。

一方、サー・ギャヴィンは、自分のメッセージは教師ではなく労組に向けられたものだとツイート。教師には敬意を払っていると自身を擁護した。

介護施設の検査

2020年4月14日、ハンコック氏は側近らに、イングランド医療主任のクリス・ウィッティー教授が、「介護施設に入所する人全員にCOVID-19検査を受けさせ、結果が出るまでは隔離を行う」べきだという「知見に基づく検証」を行ったと説明した。

ハンコック氏はこれを「良い前向きな段階だ」として、パンデミック中でも介護サービスを提供し続けるための計画書に、入所者検査を「盛り込むべきだ」と指示。側近は「実行に移します」と返答した。

しかし同日、ハンコック氏はこの案を「除外」し、「検査と隔離は病院から介護施設に入所する全員に限る」よう、指示を修正した。この時ハンコック氏は、「地域社会から入所する人への検査を義務づけても、何のメリットもない。事態を混乱させるだけだ」と送信していた。

2020年から社会保障担当相を務めているヘレン・ウェイトリー氏は、議会でこのやりとりについて最大野党・労働党から質問された際、「ワッツアップ会話から抜き出した断片からは、事情が限定的にしか理解できないし、時には誤解を招く」ものだと話した。

その上で、「検査の重要性に疑いの余地はなかった」としながらも、可能な検査の優先順位について「厳しい決断」を迫られていたと説明した。

社会的距離のルールを守ったか

Matthew Hancock and Gina Coladangelo

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画像説明, ハンコック氏とジーナ・コラダンジェロ氏

英紙サンは2021年6月、ハンコック氏と同僚女性ジーナ・コラダンジェロ氏がキスしている写真と動画を掲載した。映像は同年5月に保健省内で撮影されたものだという。ハンコック氏とコラダンジェロ氏は当時、共に既婚者で、それぞれ3人の子供がいる。

サンの報道を受け、保健相のハンコック氏が2メートルの社会的距離を確保するという自ら決めた制限を破ったとして、辞任を求める世論が高まった。

ハンコック氏は流出した写真について、側近のデイモン・プール氏にワッツアップで「どれくらいまずいのか?」と質問していた。

流出映像を見た後には、「うわあまいったな。これにニュースバリューがあるとは思えないし、あまり見て楽しいものじゃないな」とメッセージを送っていた。

また、別の閣僚に「ルールは破られていない」と強調してもらうことはできないかとも尋ねていた。

ハンコック氏とプール氏はその後、メディア対応についても話している。

あるやりとりでは、ハンコック氏が「社会的距離のルールを破った」と認める案が出されたが、ハンコック氏自身はルールを破ったとは思っておらず、「ただ医療上の助言に違反しただけかと思った」と述べていた。

また、職場でのルールは「可能な限り社会的距離を置くガイドラインを維持するべき」という内容だとハンコック氏が指摘すると、プール氏は「そうですが、この状況では可能でした。写真から明らかです」と返事していた。

「階段から落ちるのと同じ確率」

流出したメッセージには、ハンコック氏が入っていたグループチャットのやりとりも含まれており、ジョンソン元首相の発言も記録されていた。

ジョンソン氏は2020年、新たなロックダウン制限が必要な場合、65歳以上の高齢者に自宅待機を促すべきなのかと疑問をぶつけた。

8月9日のグループチャットでジョンソン氏はウィッティー教授に対し、「65歳以上の場合、新型ウイルスで死亡する確率は階段から落ちるのと同じ確率ぐらいだろう。我々は高齢者に階段を使うなとは言っていない。どう思うか?」と質問した。

ウィッティー氏はこれに、「国民保健サービス(NHS)を脅かさないのであれば、自宅待機については再考する」と答えた。英政府の首席科学顧問、サー・パトリック・ヴァランスがさらに、「我々は最初の時点で、自宅待機が簡単だったり非常に効果的だとは思っていない」と付け加えた。

このやりとりの数日前、イギリス政府は基礎疾患のある人や高齢者など200万人に対する自宅待機命令を解除していた。北アイルランドを除くイギリスでは2020年3月から、こうした人々の自宅待機が推奨されていた。

「公益に大きく関わるもの」

Matt Hancock and Isabel Oakeshott.

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画像説明, イザベル・オークショット氏(右)は、ハンコック氏の著書執筆に協力していた

デイリー・テレグラフは一連のメッセージを、ハンコック氏の著書「パンデミック・ダイアリーズ」執筆に協力したジャーナリストのイザベル・オークショット氏から入手した。

ロックダウン反対派だったイザベル氏は、執筆協力の際にハンコック氏から渡された一連のやりとりが「公益に大きく関わるもの」だと思ったため、デイリー・テレグラフへの提供と発表を決めたと説明している。また今回の流出に際し、ハンコック氏との法的合意を破っているという。

ハンコック氏は声明で、著書に使用されたすべての資料は、政府の新型コロナウイルス対策について始まっている公的調査に提出されているため、「この大きな違反行為が公益的だという事例は全くない」と述べた。

その上で、閣僚とのやりとりが「反ロックダウンの意図に沿った偏った説明」で公開されたことは「大きな裏切り」だと批判。オークショット氏は流出後にハンコック氏から「脅迫的な」メッセージ受け取ったと主張しているが、ハンコック氏はこれについて否定している。