アメリカの黒人警官はどう思っているのか……黒人警官5人に殴打された黒人男性死亡で
ブランドン・ドレノン、BBCニュース(ワシントン)

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米テネシー州メンフィスで黒人警官5人に殴打され取り押さえられた29歳の黒人男性が死亡した事件によって、アメリカではまたしても、人種と警察の問題が注目される事態となっている。BBCは、現職と元職の黒人警官たちに話を聞き、事件をどう受け止めているか、どういう変化が必要だと思うかを尋ねた(文中敬称略)。

テランス・ホプキンスさんは30年以上、テキサス州のダラス警察で働いてきた。タイリー・ニコルズさんの逮捕時の動画を見て以来、悲しみと恥ずかしさでいたたまれない気持ちだと言う。1児の父親のニコルズさんは動画の中で、警官たちに取り囲まれ、繰り返し殴られ、 蹴られていた。
ニコルズさんを取り押さえた警官たちについて「とてもがっかりしている」と、ホプキンスさんはにBBCに話した。「あの5人は私たちのレガシーを汚した。この職業において私たちが受け継いできたレガシーとは、黒人に対して偏見のない警察官でいることなのに。それこそ私が警察で働く理由の一つだ。あの5人の行動は、法執行機関で働く私たちの職務に屈辱を与えた」
ダラスとその周辺地域の黒人警官協会の会長を務めるホプキンス氏は、ニコルズさんを取り押さえた警官(後に解職・訴追されている)たちの行為は、他の黒人警察官にとって恥となり、落胆させたと話す。
「私が黒人の人物や容疑者と相対する場合、必ず相手をきちんと扱う。そこに人種差別がかけらほども介在してはならない」
「それなのに、あの連中のしたことで、いきなり暗黒時代に逆戻りだ」
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すでに警察から引退しているドレイシー・デイヴィスさんは1980年代に、ニュージャージー州のイーストオレンジ・ニュージャージー警察に務めていた。後に、民間団体「警察暴力に反対する黒人警官」を立ち上げた。メンフィスで起きたことは、「恥ずべき、非人道的なこと」で、さらに黒人警察官の本来の在り方をゆがめるものだと話す。
「この2日間、自分が国内各地でこれまでかかわってきた黒人警察官と話をしてきた。自分たちが何を支持しないか、主張を明確にするためにも、全国的にまとまった姿勢をとる必要がある。それが第一だ」
デイヴィスさんは、メンフィスでの事件は明らかに現地警察の組織内風土の問題を浮き彫りにしていると話す。「警官の肌の色がなんだろうと同じだ。大事なのは、組織内の習慣だ。警官の人種は今回関係していないので、だとすると組織の慣習の問題ということになる」。
デイヴィスさんはさらに、人種的マイノリティーに対する警察暴力は「組織の一部に組み込まれている」と思うと話した。
「自分たちはプロとして、コミュニティーに対する責任がある。現役の者も、私のように引退した者も、次世代の黒人男性のために道を切り開く責任がある」

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米ハワード大学のレニース・ハーバート教授(法学)は、かつて連邦検事補だった。「その仕事で何より良かったことの一つは、誇りをもって法律の規範に則り警察官と一緒に働くことだった」と、教授はBBCに話した。
通常の警察の活動と、ニコルズさんを取り押さえた警官たちの振る舞いは別物だとハーバート教授は言う。「あれは合法的な警察活動とはまったく異なる。あれは……これまで何のおとがめもなく暴力と虐待を繰り返してきた人間のまねだ」。
「警察活動のふりをした行為かもしれないが、法執行の名をかたり、そのバッジをつけ、その制服を着た者たちによる残酷な暴行だった」
第2級殺人の疑いで訴追された警官5人による罪状認否はまだだが、5人のうち2人を担当する弁護士たちは、無罪を主張する方針だと話している。
教授は、5人の人種よりも、5人が警察官だったことのほうが重要だと言う。「ここで大事な色はただひとつ、青だ」。アメリカで「青」は警察官の制服の色を意味する。ニコルズさんの逮捕にあたり5人の行動を決定したのは「青だった」と教授は指摘する。
一方、ニコルズさんの死が黒人警察官のイメージ全般に、そして警察の多様化推進の取り組みに、悪影響を与えるのではと懸念する警官もいる。
「問題の一部になるな、解決策の一部になれ。私たちはそう考えるべきだ」と、ホプキンス警官は言う。
「自分と同じ黒人が、あらかたの白人警官から不当に扱われるのを見ているなら、自分はそういうことをしない良い警官になればいい。なのに今回のことで、その考え方にケチがついてしまった」
「警察に志願するアフリカ系アメリカ人があまりに少ない。間違った方向に進んでいる」
米紙USAトゥデイの分析によると、アメリカで少なくとも50カ所の中規模都市と大都市では、全警官の間に占める黒人警官の割合は、その都市の黒人の人口比よりも低い。2020年5月にミネソタ州で起きたジョージ・ブロイドさん殺害事件が注目されたのを機に、黒人の警察志願者は急減し、早期退職者は急増したことが、この問題をさらに悪化させたという。
現職のホプキンスさんも退職したデイヴィスさんも、黒人として警官になることの負のイメージには共感するし、自分自身が身をもって経験していると話す。デイヴィスさんは自分の家族からも、否定的なことを言われたという。「警察で働いてるなんて信じられない」と、家族から言われたのだそうだ。
デイヴィスさんは、警官として自らパトロールする地区に住んでいた。そして、自分の近所の人たちは、自分の車の座席にごみを放り込んでいったと話した。「ごみが投げ込まれなくなったのは、地域の人たちとより良い関係が築けたことの証だった」と、デイヴィスさんは語る。
ホプキンスさんも1990年に任官した際、自分と同じ肌の色の人たちから批判されたと言う。「裏切り者と呼ばれた。黒人コミュニティーを裏切ったと。そういう風に見られるのが、しばらく続いた。気にならなかったと言えばうそになる」。
「自分たちの圧倒的多数は、警官として正しく行動している」と、ホプキンスさんは言う。「今回の件が、それ以外の99%を帳消しにしたりしない。自分たちが今後も警察にいてほしいし、黒人警官の数はできる限り高い状態で維持したい。一連の問題で一番苦しんでいるのは、アフリカ系アメリカ人のコミュニティーだからだ」。
「法律の執行機関の中に自分たちがいて、関わっている必要がある」
警察の中の多様性が増せば、有色人種コミュニティーへの暴力の問題が解決するのかどうかについては、異論がある。そして、ニコルズさんの死は、専門家や活動家がかねて繰り返してきたことを指し示す。つまり、警察活動における差別は個人レベルの問題を超えて、組織の在り方そのものに原因がある制度的な問題なのだと。
「警察という制度による訓練に問題があるなら、警察官全員に問題があるということだ」と、デイヴィスさんは言う。「訓練そのものに欠陥があるからだ」。
警察学校や研修コースのトップに黒人警官を、しかも「地域社会と同じように、黒人としての経験をしている」警官を、増やすべきだと、デイヴィスさんは提案する。さらに、訓練内容は責任感や責任説明、誠実性といった価値観を結びついたものでなくてはならないと。そして、そうした価値観に違反する警官は、責任を問われなくてはならないと。
他方でホプキンスさんは、黒人警官の採用を「強化しなくてはならない」と考えている。「警察官としてのキャリアを検討する方向へ人々の頭と心を開くには、社会的な負のイメージが消えなくてはならない」。
明確な態度の変化を、デイヴィスさんは求めている。「これまでとは違う手本を(黒人警官に)見せることだ。それは我々にできる。初めての取り組みになる」。










