【解説】 ゼレンスキー大統領の訪米、ウクライナ支援懐疑派はどう受け止めるのか
アンソニー・ザーカー北米特派員
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、約10カ月前にロシアが侵攻してきて以来、ずっとウクライナの地に縛りつけられたままだった。
外国首脳や各国の議会で何度も演説を行ってきたが、全てビデオリンクを通じたものだった。こうした演説でゼレンスキー氏は、窓のない簡素な部屋に座り、トレードマークとなっているオリーブグリーンの軍服を着ていることが多かった。
しかし今、ゼレンスキー氏は侵攻開始以来、初の外国訪問としてアメリカにわたった。服装は相変わらずだが、演説の場はアメリカの力を象徴する建物だった。
ロシアは戦争に先立ち、アメリカはウクライナを地政学的な駒として使っていると、ウクライナ人を説得しようとしていた。アフガニスタンのように、そのうち捨てられると。
この10カ月で、アメリカは650億ドル(約8兆5700億円)をウクライナ支援に充てた。そしてジョー・バイデン米大統領とゼレンスキー大統領は、ホワイトハウスの大統領執務室で会談した。笑顔で歓談し、ロシアのほのめかしが今までも、そしてこれからもうそだと証明しようとした。
団結を示す
バイデン大統領はホワイトハウスでの共同記者会見で、「ウクライナの人々は今年、多くの不必要な苦しみと損失を味わった」と述べた。
「しかしゼレンスキー大統領、アメリカ人が(ウクライナの)道のりの一歩一歩を共にしていることを分かってほしい。私たちはこれからもそばにいる」
力強い言葉だが、その裏にはもっと複雑な現実が隠されている。

画像提供, Reuters
アメリカの同盟国は、エネルギー価格の高騰と経済的困難を伴う、長くて厳しい冬に直面している。アメリカでも、対ウクライナ支援に対する国民の支持は、依然として高いものの、戦争初期に比べると落ちている。最近の調査では、アメリカ人の3分の1がウクライナ支援の継続を支持しないと回答。半数はウクライナが「できるだけ早く」和平交渉をするべきだとしている。
ゼレンスキー氏とバイデン氏は今回の会談で、アメリカ国民とウクライナ国民、西側の同盟国、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領、そして世界中に、アメリカは力強く、そして長くウクライナを支援することを示そうとしている。
共同記者会見の間、バイデン氏とゼレンスキー氏は、アメリカの支援をより大きな目的のためだと位置づけようとした。バイデン氏はロシアの侵攻を「自由と民主主義、そして主権と領土保全の基本原則に対する」攻撃だと表現。アメリカが強力に対抗するべきだものと示唆した。
一方のゼレンスキー氏は、実直さとユーモアを交えてバイデン氏とアメリカ国民に語り掛けた。視聴者とのつながりを強調するため、時に実用的な英語に切り替えながら、アメリカのウクライナ支援は世界の安全保障を強化する「投資」だと述べた。これは興味深い言葉選びだった。ゼレンスキー氏は、連邦議会での演説でもこの言葉を繰り返した。アメリカの支援は「慈善活動」ではなく、目的のために投じられ、将来見返りのあるものだと。
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懐疑派への宣伝
しかし、アメリカのウクライナへの「投資」の行方はバイデン氏の手だけに委ねられているわけではない。また、ホワイトハウスでの会談はよい撮影の機会だったが、ゼレンスキー氏の本当の仕事は連邦議会での、アメリカの軍事的・経済的援助の財布のひもをにぎる議員に向けた演説だった。
連邦議会は今年、ウクライナ経済と、同国の軍事・経済支援に合わせて670億ドルを承認した。2023年度の予算案は今週にも可決される見通しだが、これにはウクライナ支援に振り向ける450億ドルが含まれている。
それ以上の援助を確保するのは、困難を伴うかもしれない。
5月には435議席の下院で共和党議員57人が、100議席の上院では11人が、ウクライナ支援パッケージに反対票を投じた。世論調査によると、ウクライナへの継続支援を支持する共和党員はそれ以来、減っている。11月に行われた調査では、ウクライナ支援を支持する共和党の有権者は50%をわずかに超えるほどで、3月の80%から減少した。11月の中間選挙でも一部の共和党候補者が、なぜアメリカが遠国にそれほどの大金を投じ、自国境の安全や国内の犯罪に資金を充てないのかと公に疑問を呈していた。
今年の中間選挙では下院で86人、上院で7人が初当選した。ゼレンスキー氏の演説は、新しい議員らへの説明と支援の呼びかけになるともみられていた。米下院からさらなる援助を引き出すのは、より大きな挑戦となるかもしれない。しかしゼレンスキー氏は、議会での演説でそれをやってみようとした。
議会聴衆の一部にある不満の声に対し、ゼレンスキー氏は、「我々には武器がある。十分か? そうではない」と述べた。「ロシア軍を完全撤退させるには、もっと多くの銃と砲弾が必要だ」。
下院議長に就任予定のケヴィン・マカーシー下院院内総務(共和党)は先に、ウクライナにこれ以上「白紙小切手」を渡すことへの懸念を表明している。また、共和党のミッチ・マコネル上院院内総務が20日に、ウクライナ支援は共和党の「最優先事項だ」と述べた際には、一部の共和党議員が公に不信感を示した。
ドナルド・トランプ前大統領の長男であるドナルド・トランプ・ジュニア氏は21日、ゼレンスキー大統領は「基本的に恩知らずな国際福祉のクイーン」だとツイートした。これは、トランプ前大統領の「アメリカ第一主義」を支持する人々が広く持っている感想を端的に表している。
ゼレンスキー氏としては、ウクライナへのさらなる援助を、共和党の新年のToDoリストにする必要はない。しかし今回のワシントン訪問は、ウクライン支援が完全に議題からなくなることがないようにするための、注目を引く努力だった。












