習氏を窮地に追い込む新型ウイルスへの怒りと恐怖 「ゼロコロナ」抗議の背景を解説

テッサ・ウォン、BBCニュース

People hold white sheets of paper in protest over coronavirus disease (COVID-19) restrictions, after a vigil for the victims of a fire in Urumqi, as outbreaks of COVID-19 continue, in Beijing, China, November 27, 2022.

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画像説明, 抗議デモでは参加者たちが白紙を掲げて当局の検閲への抵抗を示した(北京、27日)

中国ではこの3年間、新型コロナウイルス対策のロックダウンと集団検査が実施されるたび、国民10億人の我慢がどんどん限界に近づいてきた。

そして今、限界に達している。

何千人もが路上に出て、新型ウイルス対策の規制に抗議している。疲れ果てた国民は、習近平国家主席の「ゼロコロナ」政策にいつまで耐えなければならないのかと問うている。

習氏は過去最大級の政治的試練を迎えている。中国共産党は、パンデミックからの出口を探りながら、高まる怒りと新型ウイルスへの根強い恐怖の両方に対処しなくてはならない状況にある。

国民の怒りに火をつけた火災

西部ウルムチ市で発生した集合住宅の火災は当初、全国的な抗議行動のきっかけになるとは思われなかったかもしれない。

しかし、10人の命を奪ったこの出来事は、高層集合住宅に住む何百万人もの中国人にとって、究極的な悪夢のシナリオとなった。厳しいロックダウンのため、住民は各戸に閉じ込められ、燃え盛る炎から逃げられなかったのだ。

当局はこうした見方に反論している。しかし、国民の怒りと不安は広がり続けている。外に出すよう叫んだり懇願したりする住民たちの様子だとされる動画や音声がネット上で拡散されると、その勢いはいよいよ強まった。

この火災は、新型ウイルス対策の規制に関連した恐ろしいエピソードの最新事例となった。

これ以前にも、全市的なロックダウンで必要な時に医療が受けられず、妊娠中の女性が流産したり、高齢者や病弱な人たちが亡くなったりしているといった話が報じられていた。

ロックダウンが実施された都市の多くでは、食料や医薬品の不足という同じ事態が生じているとされた。地方当局が対応に苦慮していることも明らかになった。

その後、心にさらに深刻な傷を残すような出来事が明らかになり始めた。隔離センター行きのバスの衝突事故で数十人が死亡し、隔離施設で子どもたちが命を失っていることなどが表面化した。

先月の中国共産党大会では、多くの人が緩和策の発表を期待した。しかし、権力を強固にした習氏は、ゼロコロナ政策に変更はないと明言。国民のさらなる落胆を招いた。

この政策が多くの命を救ったのは疑いない。人口当たりの新型ウイルスによる死亡率は、中国は世界最低レベルだ。だが一方で、国民のエネルギーを奪ってきた。

新型ウイルス対策の規制による苦難は、全国民が経験している。大都市から新疆やチベットなどの遠隔地まで、多くの地域で怒りが沸き起こっている。

大学生、工場労働者、中流家庭、エリートなど、社会のあらゆる層が気を荒立てている。

A resident undergoes a nucleic acid test for the Covid-19 coronavirus in Xi'an in China's northern Shaanxi province

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画像説明, 中国では新型ウイルス検査が日常の一部とななっている

北京市内の橋の上で1人の男性が抗議行動を行い、習氏を公然と批判して国内に衝撃を与えた出来事は、中国の内外でより直接的かつ痛烈な反対意見を表明することについて、どこまで大丈夫かの基準の設定し、多くの人を勇気づけることになった。

中部の鄭州市では、数百人の工場労働者が自分たちの権利を訴え、監視カメラや窓ガラスを破壊し、警察ともみ合いになった。南西部の重慶市では、マスクをしていない男性が「自由をよこせ、さもなくば死を!」と叫び、その様子が撮影された。このかけ声は、多くのデモ参加者が取り入れた。

ウルムチでの火災が発生した時には、デモが各地で発生する下地ができていた。ウルムチで数百人が路上に立って抗議をすると、上海、北京、武漢、南京、成都でさらに多くの人々が続いた。習氏と中国共産党の退場を求める声まで上がった。

党や指導層に批判的な人を厳しく罰するこの国では、以前は考えられなかったことだ。

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Presentational white space

中国情勢を注視している人たちは、今回の抗議について、ゼロコロナ政策への反対における転換点だと指摘。中国政府にとってすでに困難だった状況が、複雑化しているとみている。

米ジョンズ・ホプキンス大学の社会学者の孔诰烽氏は、「切迫した状況」だとし、習氏が初めて深刻な試練を迎えていると述べた。

「この2年間、習氏はゼロコロナ政策で自らを窮地に追い込んできた。抗議行動が拡大し続けた場合、彼にとって最も合理的な対処法は、現地当局に圧力をかけて厳しく取り締まらせ、自分は距離を置くことだ」

「しかし、現地当局が指示に従わない恐れはある。ゼロコロナの厳格さに当局も疲弊しているからだ」

新型ウイルスへの恐怖と嫌悪

では、政府は抗議の声に耳を傾け、ゼロコロナを緩めるだろうか?

今すぐそうするのは難しいだろう。高齢者のワクチン接種率が低く、有効性の高い国産ワクチンに欠け、外国製ワクチンの使用を政府が拒み続けている状況で、死者や感染者を最小限に抑えながら規制を緩めるのは困難だ。

「政府はジレンマを抱えている」と、英オックスフォード大学のラナ・ミッター教授(中国現代史)はBBCに話した。

「国として恥ずかしく見られるかもしれないこと(外国製ワクチンの輸入)をするか、この政策の終了時期を示さずに国境を閉鎖し続けようとするかだ」

中国は最近、対策をわずかに緩和して様子をみているようだ。隔離期間を短縮し、2次接触者の記録をやめた。

しかし、対策を緩めれば、感染者と死亡者は必然的に急増する。これは、シンガポールやオーストラリアなど、ゼロコロナから新型ウイルスとの共存に移行した国々で見られたことだ。

中国当局はまだ、そうした状況を受け入れるつもりはなさそうだ。

北京や広州など多くの都市は、新たな流行に対処するため、再び規制を実施している。新型ウイルスの急速な進化と、政府の資源の限界を考えれば、ゼロコロナを長期的に維持するのは困難だと専門家が警告しているにもかかわらずだ。

「政府が今すぐ軌道修正したいと思っても、全国で急増する感染者に対処しなければならない。問題は、ウイルスの拡散を食い止められるだけの国家としての能力や国民の支持が、政府にはもはやないことだ」と、米シンクタンクの外交問題評議会のグローバルヘルス担当シニアフェロー黄延中氏は話した。

当局者の間では、新型ウイルスによる死者の発生が制御不能となり、社会不安を引き起こすのではないかとの不安が渦巻いており、それも問題の一部となっている。

中国の国民には、新型ウイルスに対する恐怖心が残っている。この3年間、国からウイルスを恐ろしい敵とみなすように仕向けられた結果だ。有効なワクチンがない状態が続いていることも、不安材料となっている。

ここ数週間、石家荘市や、鄭州市の鴻海科技集団(フォックスコン)の工場では、新型ウイルスの拡散を放っておいたらどうなるか、住民を「モルモット」にして観察するようだとのうわさが広まった。

このため、両地ではパニックが広がった。鄭州市では労働者による集団脱走騒ぎまで起きた

しかし、この恐怖が怒りに変わっている人もいる。最近の抗議デモでは、大勢の参加者が密集し、挑戦的にマスクを外して自由と規制撤廃を訴える人も出ている。

それがいつ、どのように実現されるかは、まだ不明だ。

習氏と中国共産党は、新型ウイルスの「ゴルディアスの結び目」を作った。今やそれをほどくのは極めて困難になっている。

動画説明, BBC記者、中国当局に暴行受け一時拘束 上海でコロナ対策への抗議デモ取材中