【解説】 ミサイル発射実験を繰り返す北朝鮮、金正恩氏は何を望んでいるのか
ルーパート・ウィングフィールド=ヘイズ、BBCニュース(東京)

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北朝鮮は今年に入り、立て続けにミサイル発射実験を行っている。一方でここ東京での反応はというと、皆ほんの少し肩をすくめる程度だ。
2017年8月の早朝、全国瞬時警報システム(Jアラート)の警報音で目を覚ました時とは大違いだ。北朝鮮は何の警告もせず、大陸間弾道ミサイル(ICBM)を太平洋へ向けて発射し、日本上空を通過させた。あれは大胆な行動だった。
今回発射されたのは全て短距離ミサイルで、日本沿岸からかなり離れた海上に落下した。どうやら金正恩氏は今のところ、大胆な行動を思いとどまっているようだ。しかし、彼が望んでいる結果を得られなければ、状況は変わるかもしれない。
では一体、金正恩氏は何を望んでいるのだろうか。
北朝鮮の目的
軍事アナリストに尋ねれば、直近の発射実験は、北朝鮮が完全かつ効果的な核抑止力獲得への道を急速に進んでいることの表れだと答えるだろう。
「私に言わせれば、(発射実験は)予測できたことだ」と、韓国海軍の元士官で慶南大学教授の金東葉(キム・ドンヨプ)氏は言う。
「私たちが驚くのは、北朝鮮の技術を過小評価し、現時点では苦戦しているのだと思い込んでいるからだ。実際には、北朝鮮は私たちの想定よりも速いスピードで確実に軍事力を高めている」
これはなぜ問題なのだろうか。
それは、アメリカと日本がこの地域に配備している高額で複雑なミサイル防衛システムを打ち負かすことができる技術を、北朝鮮が開発していることを意味しているからだ。
「ミサイル防衛を回避して防衛を難しくさせる、機動性が高い兵器を開発することが北朝鮮の目的であることはかなりはっきりしていると思う。アメリカが先手を打つことはおろか、探知することも困難にさせるような兵器だ」と、新アメリカ安全保障センターのドゥヨン・キム氏は言う。
慶南大学の金東葉教授もこの見解に同意する。「北朝鮮が最終的に目指しているのは、敵のミサイル防衛システムを弱体化させることだ」。
「サソリのしっぽのような抑止システムを持ちたいのだろう」
サソリはしっぽの先にある針で身を守るが、獲物を襲って殺すこともある。北朝鮮の場合はどちらだろうか。

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金教授は「北朝鮮の主な目的は攻撃ではなく防御」で、「多様な抑止力を確保しようとしている」と付け加えた。
これは北朝鮮ウォッチャーの間で広くみられる見解だ。
とはいえ、北朝鮮が保有する従来型の兵器や核能力は、韓国やアメリカからの攻撃に対する効果的な抑止力を得るという段階をはるかに超えている。韓国もアメリカも、北朝鮮の政権を攻撃したり破壊したいという野心はないと、繰り返し主張している。
ではなぜ、この貧しい小国の支配者は国内総生産(GDP)の5分の1~4分の1を軍事費に費やし続けているのだろうか。
「不安」か「野心」か
北朝鮮問題に詳しい、米カーネギー国際平和財団のアンキット・パンダ氏は、国外の人たちが感じていることとは裏腹に、北朝鮮は自国について、適切な防衛に十分な兵器を保有していないと考えていることが、理由の一つではないかとみている。
「だから金正恩氏は慢性的に不安を感じているのだろう。彼は中国やロシアを含め、誰も信用していないのだと思う。そのため、我々が十分だと考える以上に能力を高める必要があると感じているのかもしれない」
この見方に猛烈に異論を唱える専門家もいる。
韓国・釜山の東西大学校のブライアン・R・マイヤーズ教授は、北朝鮮は核・ミサイル開発について、もっと野心的な目標を持っていると指摘する。
北朝鮮は、韓国との平和条約締結や米軍の朝鮮半島撤退を交渉するための手段として、核兵器備蓄を利用し、その後、韓国を自由に支配できるようになると考えているのだと、教授は言う。
「重大な危機」の可能性
北朝鮮には短期的な目標もある。
同国が適度に繁栄するには、核・ミサイル開発を理由に国連が科した制裁を解除する必要がある。そして、その望みをつなぐには、米政権を交渉に応じさせなければならない。
歴史的に見て、北朝鮮は危機的状況を生み出すことでアメリカの注意を引いてきた。こうした事態が今まさに再び起こっていると考える専門家もいる。
「非常に皮肉なことだが、私にとってはかなり良い兆候だと言える」と、韓国の国家安全保障諮問委員会メンバーのキム・ヨンジュン教授は話す。
「金正恩氏は平和イニシアチブを始める前に、ミサイル発射実験を極限まで増やしたいと思っている。ジョー・バイデン米大統領に具体的なロードマップのある真剣な交渉を始めるよう迫るためだ」

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もしそうだとすれば、金正恩氏は落胆するかもしれない。そもそも今、ジョー・バイデン大統領はウクライナで起きている別の危機的状況への対応で多忙を極めている。
それに、北朝鮮と関わることへの、前任のドナルド・トランプ氏のような熱意もない。
「北朝鮮は自分たちのことを議題に載せ、優先させるのがとてもうまい」と、パンダ氏は言う。
しかし、「ジョー・バイデン氏は金正恩氏を『暴君』と呼んだことがある。金氏と一緒にいる姿を見せても、バイデン氏が政治的に得をすることはほとんどないだろう。だからこそ、バイデン氏に本気で対応させるには重大な危機が必要なのだと思う」とも付け加えた。
こうしたシナリオに聞き覚えはあるだろうか。私たちは過去に、同様の事態を目の当たりにしている。
2010年3月、北朝鮮は韓国海軍の哨戒艦「天安」を攻撃し、沈没させた。同年11月には、韓国・大延坪島を砲撃した。
そして2017年にはICBMが日本上空を通過。北朝鮮は米領グアムを攻撃すると、アメリカをけん制した。
今後数カ月の間にまた同じようなことが起きるかもしれない。
「危機的状況に逆戻りする可能性は非常に現実味を帯びていると思う」と、パンダ氏は言う。
「率直に言って、北朝鮮はアメリカに真剣に受け止めてもらいたいと思っている。北朝鮮は小さな国かもしれない。リチャード・ニクソン氏がかつて、「四流の取るに足らない国」と呼んだ国かもしれない」
「しかし、彼らには核兵器がある。そしてそのことを、アメリカの大統領に認めてもらいたいと思っている。残念ながら近い将来、北朝鮮がそうした状況を手に入れることはないと思うが」








