【解説】 イスラエルとパレスチナ 長年のわだかまりが新しい対立へ
ジェレミー・ボウエン、BBC中東編集長

画像提供, Reuters
イスラエル人とパレスチナ人が今あらためて対立を強め実力行使に出ているのは、双方の長い紛争による深い傷がまたしても悪化してしまったからだ。中東地域の中心にぱっくり開いた生傷ゆえに、人と人が面と向き合う激しい衝突が、ロケット弾の発砲や空爆へと発展し、死者が出るに至っている。
中東和平問題が近年、前ほど目立つニュースにならなかったからといって、問題が終わったわけではない。課題は変わっていないし、数年どころか数世代にわたる対立と殺害が生み出す憎悪とわだかまりも変わっていない。
もう100年以上にわたり、ユダヤ人とアラブ人は、ヨルダン川から地中海の間に広がる土地を支配しようと争ってきた。イスラエルが1948年に建国して以来、パレスチナ人は繰り返し手痛い敗北を味わってきた。しかしそれでも、イスラエルは勝ててはいない。
紛争が続く限り、どちらの側も安全ではいられない。少なくとも数年ごとに何かしら、深刻で激しく暴力的な危機が起きる。確かなのはそれだけだ。このところ約15年の間、繰り返されてきた対立はもっぱら、イスラエルとガザ地区の境界に関するものだった。
ところが今回の対立は、エルサレムで起きた。エルサレムの聖地で起きる出来事はほかに例をみないほど、暴力を引き起こす凄まじい発火力があるのだと、あらためて思い知らされた。
<関連記事>
エルサレムは、キリスト教徒にとってもユダヤ教徒にとってもイスラム教徒にとっても、神聖な街だ。これは宗教上の問題というだけでなく、エルサレムにあるユダヤ教の聖地とイスラム教の聖地は共に、国民的な、民族的な象徴なのだ。地図上では文字通り、石を投げれば当たるほど近い距離にある。加えて、パレスチナのキリスト教徒が信仰する聖墳墓教会も近い。イスラエル当局の検問所の反対側にある。
今回の対立激化のきっかけはいくつかあったが、そのひとつは、シェイク・ジャラー地区のパレスチナ人を強制的に立ち退かせるという動きだった。シェイク・ジャラーは旧市街の壁の外にあるパレスチナ人の居住区だが、イスラエル人の入植者たちがイスラエルの裁判所で土地や家屋の所有権を主張している。
この紛争は、いくつかの家屋をめぐるもめごとにとどまらない。イスラエル政府はもう長いこと、たとえ政権がたびたび交代しても一貫して、エルサレムの「ユダヤ化」という戦略目標を追求してきたからだ。エルサレムをぐるりと取り囲む形で、占領地にイスラエル人がどんどん入植し、家を建て、広大な入植地を作り、国際法に違反してきた。
近年では政府と入植者グループが、壁で囲まれた旧市街に近いパレスチナ人居住区に、ユダヤ教徒のイスラエル人を住まわせようと取り組んでいる。しかも、一軒一軒。

画像提供, Reuters
それに加えてここ数週間では、イスラム教の重要な行事ラマダン(断食月)の間、イスラエル警察が強硬姿勢でパレスチナ人を取り締まっていた。それが頂点に達したのが、エルサレムの聖地アル・アクサ・モスクでの衝突だった。イスラム教徒にとってメッカとメディアに次いで神聖な聖地の寺院の中で、イスラエル治安当局は催涙ガスや閃光(せんこう)弾を使ったのだ。
イスラム組織ハマスは異例の対応をした。イスラエル政府に対して、アル・アクサとシェイク・ジャラーから治安当局を撤退させるよう要求した後、エルサレムに向けてロケット弾を発射した。
これを受けてイスラエルのベンヤミン・ネタミヤフ首相はツイッターで、「ガザのテロ組織は超えてはならない一線を超えた(中略)イスラエルは強大な力で応酬する」と書いた。
同じような結果は、ほかの展開でもあり得た。ほかの出来事が今回とは違う形で重なっても、今回のような実力行使に至った可能性はある。イスラエルとパレスチナの紛争が解決されない限り、暴力沙汰は繰り返し繰り返し起きる。
危機が悪化する中で10日、BBCのニュース番組司会者に聞かれた。エルサレムで双方が平和的に共存できるかもしれないと、わずかな希望のかけらでも最後に抱いたのはいつのことかと。私は1995年から2000年にかけてエルサレムに住んでいたし、その後も何度も何度も訪れている。
答えにくい質問だった。1990年代にオスロ和平交渉が最高潮だった当時はいっとき、希望が感じられることもあった。しかし、エルサレムの住民といえども40歳以上でなければ、当時のあの感覚などほとんど覚えていないはずだ。
イスラエルとパレスチナ双方の指導者は、それぞれ身内の政治闘争に取り組み、自分たちの立場の温存に集中してきた。双方の指導者にとって最大の課題は、和平実現だったはずなのに。しかし和平実現に双方が真剣に取り組んだのは、もう何年も前のことだ。
この間、新しい考えがいくつか出現している。世界的に評価されている2つのシンクタンク、「カーネギー国際平和基金」と「アメリカ・中東計画」は4月19日に、最優先されるべきはパレスチナ人とイスラエル人の権利の平等と安全の平等だと主張する合同報告書を発表したばかりだ。
報告書は、アメリカ政府が「イスラエル支配下の領土に住む全員に対する全面的な平等と支援」を支持すべきで、「2つの異なる不平等な体制を支持すべきではない」と提言している。
新しい発想は良いことだ。しかし今週は昔ながらの現実とおなじみのレトリック、そして100年前から続く紛争が否応なしに再燃した音が、新しい発想も何もかも、かき消してしまっている。











