【検証】 テキサス州の洪水惨事、米政府による人員・予算削減が悪化を招いたのか

テキサス州の川に青色のボートが浮かび、その上に救助隊員4人が乗っている。全員がヘルメットをかぶり、黄色の上着と赤い救命胴衣を着けている

ベン・チュー、ジェイク・ホートン、ケイラ・エプスティーン、マルコ・シルヴァ、BBCヴェリファイ(検証チーム)

米テキサス州で発生した洪水で多数の死者が出ていることを受け、野党・民主党の一部は、ドナルド・トランプ政権が気象専門家などの連邦政府職員を減らした「結果」だと批判している。同党のクリス・マーフィー上院議員は、「正確な天気予報は災害死の回避に役立つ」と主張している。

民主党議員らは、政府職員の削減が、洪水を適切に予測して警報を出すという国立気象局(NWS)の機能を弱めた可能性があるとしている。NWSは天気予報を出す米政府機関。

一方、ホワイトハウスのキャロライン・レヴィット報道官は7日、「(NWSの)支局には十分なスタッフがいた。(中略)これと矛盾する主張は全くの虚偽だ」と述べた。

BBCヴェリファイは、気象予報の分野における、トランプ氏による削減の影響を調べた。その結果、NWSで人員削減があったことが確認できた。しかし、取材した専門家らは、今回の洪水では人員は適切だったとみられると話した。

動画説明, 米テキサス州洪水、被害拡大 ホワイトハウスは政策との関係を否定

どんな削減があったのか

トランプ政権は、NWSの上部組織である海洋大気局(NOAA)の年間予算を、現在の61億ドル(約8800億円)から25%削ることを提案している

この削減は、今年10月に始まる2026会計年度から実施される。そのため、今回のテキサス州での悲劇とは関係ない。

ただ、これとは別にNWSの人員は、今年1月以降のトランプ政権による効率化の推進によって、すでに削減されている。

富豪のイーロン・マスク氏が率いていた政府効率化省(DOGE)は連邦職員に対し、早期退職のほか、割増金などを伴う希望退職(バイアウト)も提案した。また、試用期間中の職員の大半について契約を打ち切った。

NWS労組幹部のトム・フェイ氏によると、この結果、NWS職員の約200人が希望退職し、約300人が早期退職を選んだ。さらに、約100人が解雇されたという。

NWSは全体で約4200人いたスタッフのうち約600人を失った。そのため、国内各地のいくつかの支局は、必要とされるだけの人員がいない状態で運営されているという。

AP通信は4月、NWS職員らがまとめたデータを基に、NWSのオフィスの半分で2割のポストが空席になっており、10年前の2倍に増えていると報じた。

それでも気候の専門家らは、先週テキサスで出されたNWSの予測と洪水警報について、期待し得るものとしては適切だったとBBCヴェリファイに話した。

テキサス州にあるライス大学のアヴァンティカ・ゴリ助教授(土木・環境工学)は、「予測と警告はすべて通常通りに行われた。今回の出来事における難題は、この種の極端かつ局地的な降雨は予測が非常に難しいということだった」と言う。

2月に解雇されるまでNOAAでハリケーンの進路をモデル化していた気候科学者のアンディ・ヘイゼルトン氏は、「人員の問題が今回の出来事に直接関係したとは思わない。注意報と警報は出していた」と話す。

テキサス州の各支局への影響

しかし一部の専門家は、人員削減によって、NWSのテキサス州内の各支局が、地元の緊急サービスと効果的に連携するのが難しくなっていた可能性を指摘している。

カリフォルニア大学ロサンゼルス校の気候科学者ダニエル・スウェイン氏は、「気象情報の通信・伝達が最適に近いレベルでなされていたのか、大いに疑問がある」と言う。

「通信担当の職員がまだ雇われていれば、今回の影響は部分的に回避できたかもしれない。だが、いくつかの現地支局では、そういう人材がいなかった」

今回の洪水が発生した地域を管轄するサンアンジェロとサンアントニオの支局は、欠員があったとされる。

サンアントニオ支局のウェブサイトでは、気象専門家2人を含む複数のポジションが空席とされている。

テキサス州ハントのキャンプ・ミスティックで、捜索・収容作業員ががれきを掘り起こし、鉄砲水に巻き込まれた生存者や遺体を探している。青いゴムボートが川に浮かび、ヘルメットをかぶった隊員らが乗っている。川岸にも当局者とみられる3人がいる

画像提供, Getty Images

画像説明, テキサス州中部のグアダルーペ川沿いでの救助活動(6日)。死者は7日午後までに100人を超えた。40人近くが行方不明となっているが、4日未明の洪水発生から3日以上が過ぎ、生存者発見の希望は薄れつつある

前出のNSW労組のフェイ氏は、サンアンジェロの支局では上級水文学者(洪水などを専門とする科学者)の欠員が出ていると、BBCヴェリファイに話した。

また、サンアントニオの支局でも、地域の予報当局と緊急管理サービスとの連絡を調整する「警報調整気象専門家」が欠けていたと、フェイ氏は述べた。

ただ、同氏によると、両支局は危険な天候を想定し、そうした状況でよくみられるように、一時的な人員増を実施していたという。

NWSの広報担当エリカ・グロー・ケイ氏は、BBCヴェリファイの取材に対し、「テキサス州オースティン/サンアントニオとサンアンジェロのNWS支局では、今回の大洪水が発生した際、追加の予報士が勤務していた」、「すべての予報と警報は適時に出された」との声明を出した。

NWSでサンアントニオ地域を担当する気象専門家ジェイソン・ラニエン氏も、晴天時には通常2人の予報士が勤務するところ、「最大5人が出番となっていた」と声明で説明した。

一方、トランプ氏は6日、政府の削減のせいでNWSの重要なポストの欠員を埋められなかったのかと記者団に問われると、「いや、そういうことはなかった」と答えた。

動画説明, 川が急速に増水……米テキサス州洪水のタイムラプス映像

気象観測の気球は減らされたのか

米気象専門家のジョン・モラレス氏は、ソーシャルメディアで何千回も共有された動画の中で、「気象観測用気球の放出が2割減っている。(中略)気象予報の質の低下が見え始めている」と述べている。

一部のソーシャルメディアのユーザーは、モラレス氏の言葉を根拠に、予算削減によってテキサス州カー郡での洪水のような異常気象を予測する予報士たちの能力が制限されていると訴えている。

気象観測用気球は、気温、湿度、気圧、風速などの気象データを上層大気から収集するため、気象予報士が使う重要なツールだ。

2月以降に発表した一連の公式声明で、NWSは少なくとも全国11カ所で、気象観測用気球の放出を中断または削減したと説明。地域の気象予報支局の職員不足が理由だとした。

とはいえ、こうした変化が、今回の洪水被災地域における気象観測用気球の放出に、直接影響したことを示す証拠はない。

公開されているデータによると、今回の洪水の発生前には、洪水発生地に最も近いデル・リオの気象観測用気球の放出場で予定通り気球が放たれ、考え得る限り適切だったと専門家らが評価する天気予報に役立ったデータを収集していたとされる。