英首相の補佐官が辞任 エプスティーン元被告と親しかった前駐米大使の任命めぐり

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ポール・セドン 政治記者
イギリスのキア・スターマー政権(労働党)が、アメリカで性犯罪で有罪とされた富豪ジェフリー・エプスティーン元被告(故人)と親しかった労働党重鎮を駐米大使に任命した問題で、首相官邸のモーガン・マクスウィーニー首席補佐官が8日、辞任した。
スターマー氏の党首就任や2024年の政権交代実現の立役者とされるマクスウィーニー氏については、エプスティーン元被告との関係が当時すでに公になっていた労働党重鎮のピーター・マンデルソン卿を駐米大使に推薦した当事者として、批判が高まっていた。
マクスウィーニー氏は、マンデルソン卿の大使任命にあたり身辺調査を自分が担当していたわけではないとしつつ、その任命を自分が首相に進言したことについて「全面的な責任」を負うと述べた。
マクスウィーニー氏は、2020年の労働党党首選や2024年の総選挙を通じてスターマー氏を支えてきただけに、その辞任はスターマー氏にとって大きな打撃になる。
マクスウィーニー氏は8日の声明で、2024年12月にマンデルソン卿を駐米大使に任命したことは「誤りだった」と認め、「私たちの党と国と政治への信頼を損ねた」と述べた。
「意見を求められた際、私は首相に(マンデルソン卿を)任命するよう助言した。その助言について全責任を負う」、「身辺調査の審査プロセスを自分が監督したわけではないが、今はそのプロセスを抜本的に見直す必要があると考えている」とも、マクスウィーニー氏は述べた。
そのうえで、「この状況では、身を引くことが唯一の名誉ある選択だ」と辞任を発表した。
この辞任発表については、首相とマクスウィーニー氏が共に、今が最適のタイミングだと判断したものとされる。
スターマー氏は、マクスウィーニー氏と働くことは「光栄だった」と述べ、2019年の総選挙大敗後に「党を立て直した」功績をたたえた。
マンデルソン卿の大使任命をめぐり、与党・労働党内ではスターマー首相の任命責任を問う声が高まっている。マクスウィーニー氏が辞任した今、スターマー首相は政権の立て直しを迫られている。
複数の労働党政権で閣僚ポストを経験したマンデルソン卿については、アメリカの司法省が1月に新しく公開した元被告の関連資料から、かつて閣僚だった当時に政府のさまざまな情報を元被告に提供した疑いが浮上したほか、金銭などの便宜を元被告から受けていたとされている。これを受けてマンデルソン卿は労働党を離党し、イギリス議会の上院議員を辞任した。
マンデルソン卿は2024年12月、キア・スターマー首相によって駐米英大使に任命されたが、1年もたたないうちに、有罪とされた元被告を応援するメッセージを送っていたことが明らかになり解任された。
エプスティーン元被告は2008年、未成年者に対する売春の勧誘で有罪判決を受け、性犯罪者として登録された。2019年には、性的人身取引の罪で訴追され、裁判を迎える前に同年、拘置施設で死亡した。
マンデルソン卿がゴードン・ブラウン政権の閣僚時代にエプスティーン元被告に機密情報を提供していたとされる疑いについては、ロンドン警視庁が捜査に着手している。
スターマー首相は、任命時の身辺調査でマンデルソン卿が元被告と交流を続けていたことは知っていたものの、その関係の深さと幅広さについてマンデルソン卿がうそを繰り返したのだと議会答弁で述べた。
スターマー氏はさらに、エプスティーン元被告の被害者たちに謝罪している。
しかし、首相のこうした対応は事態の収拾につながらず、労働党議員の一部は今や公然と、スターマー氏の党首辞任を求めている。
イングランド北部の選挙区ヨーク・セントラル選出のレイチェル・マスケル議員は、BBCラジオの番組で、首相が「私たちを前進させる力が自分にあると証明するには、ごく短い時間しか残されていない」と述べた。
英スコットランド中部の選挙区アロア・アンド・グレインジマス選出のブライアン・レイシュマン議員は、スターマー氏に「自身の立場を見つめ直し」、「国と労働党のために辞任すべきか考えるべきだ」と述べた。
一方で、首相を支持する議員たちもいる。
イングランド北東部キングストン・アポン・ハルイースト選出のカール・ターナー議員は、BBCラジオに対し、スターマー氏はマンデルソン卿の任命が「壊滅的な誤り」だったと認識しており、「過ちを償おうとしている」と述べた。
イングランド中部ラグビー選出のジョン・スリンガー議員は、労働党が「首相の下で結集すべきだ」と述べ、「大変な状況になったからといって指導者を見捨てるべきではない」と強調した。
スターマー氏は9日夜に、労働党議員たちとの非公開会合に臨む。事態を説明し、自分の指導力によって事態収拾が可能だとアピールするとみられる。
当初は同日に、国民に向けて事態を説明するとの見方もあったが、現時点では予定されていない。
同じタイミングで、消防組合のスティーヴ・ライト書記長が首相辞任を求めた。労働党系の労働組合は11あり、その一つのトップが首相辞任を求めるのは初めて。
最大野党・保守党のケミ・ベイドノック党首は、マクスウィーニー氏の辞任は「当然だ」と述べたが、首相自身が「自分自身のひどく誤った判断の責任を取らなくてはならない」と主張した。
野党・自由民主党は、スターマー氏が「側近をいくら替えても、最終責任は首相にある」と述べた。野党・リフォームUKは、労働党は「保守党政権時代と同じ混乱を続けているだけだ」と批判した。
前大使に退職金の返還要求
マクスウィーニー氏の辞任発表に先立ち、スターマー氏を支える閣僚のパット・マクファデン労働年金相は、首席補佐官が辞めたところで事態は「何も変わらない」として、首相が補佐官を解任する必要はないと話していた。
マクファデン氏はさらに、マンデルソン卿が大使解任時に受け取った最大4万ポンドの退職金について、返還するか慈善団体に寄付するべきだと述べた。
BBCが得た情報では、マンデルソン卿は大使任命前の審査にあたり、エプスティーン元被告との関係について自分は正確に答えたとの立場をとっている。
米司法省が公開したエプスティーン文書には、マンデルソン卿がブラウン政権下の閣僚時代に送っていた複数のメールが含まれる。欧州連合(EU)が2010年にユーロ救済のために実施した5000億ユーロ規模の資金支援について、元被告に事前に知らせた可能性を示す内容もある。
また、2009年の金融危機後、政府資産売却に関する首相官邸の内部メモをエプスティーン元被告へ転送したとみられるメールもあった。
マンデルソン卿はコメントを求める取材に応じていないが、BBCは、彼が犯罪行為や金銭的利益目的の行為を否定しているとの情報を得ている。
祖父も労働党アトリー内閣の閣僚だったピーター・マンデルソン氏は、1980年代から労働党員として頭角を現し、1992年に下院に初当選。トニー・ブレア元首相とゴードン・ブラウン元首相の歴代内閣で複数の閣僚ポストを務めた。2008年に一代貴族の「マンデルソン卿」として叙勲され、上院(貴族院)議員となった。
マンデルソン卿はすでに上院議員をすでに辞任しているが、その一代男爵の爵位を剥奪するには個別の立法措置が必要なため、政府は必要な法案を提出すると約束している。













