英警察が王室のアンドリュー元王子を逮捕、のち釈放 公務中の不正行為の疑い 国王は「法に沿って」と声明

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イギリス王室のアンドリュー・マウントバッテン=ウィンザー氏(66)が19日朝、テムズ・ヴァレー警察に逮捕された。同警察は声明で「ノーフォーク在住の60代男性を公務中の不正行為の疑いで逮捕した」と発表。「国の指針に従い、逮捕された男性の氏名は発表しない」とした。元王子の兄、チャールズ国王は同日、「全面的かつ公正で適切な手続きによる捜査」が行われなくてはならず、「法に沿った対応が必要だ」と声明を出した。元王子は同日夜、釈放され、王邸サンドリンガムに戻る姿が確認された。
アンドリュー元王子については、貿易特使としての公式業務で得た機密情報を故ジェフリー・エプスティーン元被告に渡していた疑いが出ていた。アメリカの司法省が1月末に追加公開したエプスティーン元被告の関連資料に、元王子の不正行為をうかがわせる複数のメールが含まれていた。
元王子はこれまで、エプスティーン元被告との関係について一切の不正行為を否定している。2月19日は、元王子の66歳の誕生日にあたる。
テムズ・ヴァレー警察は、イングランド南部バークシャーとイングランド東部ノーフォークの住所を家宅捜索していると発表した。バークシャーには元王子が先月まで長年暮らしていたウィンザー城、ノーフォークには2月初めから生活していた王邸サンドリンガムがある。
同警察は声明で、「捜査の一環として我々は本日、ノーフォーク在住の60代の男性を、公務中の不正行為の疑いで逮捕し、バークシャーとノーフォークにある住所で捜索を実施している」と述べ、「男性は現在も警察の拘束下にある」と明らかにした。
「国の指針に従い、我々は逮捕された男性の氏名を公表しない。また、この事件は現在係争中であるため、法廷侮辱を避けるため、いかなる報道においても注意が必要だと留意してもらいたい」とも、警察は述べた。
オリヴァー・ライト警視長は、「徹底的な検討を経て我々は、公務中における不正行為の疑いについて、捜査を開始した。容疑について関係機関と共に捜査を進める中で、捜査の完全性と客観性を守ることが重要だ」とした上で、「この事件について、国民が多大な関心を寄せていることは承知している。適切な時期に最新情報を提供する」と述べた。
BBCの取材で、元王子が19日午前8時ごろ、ノーフォークにある王邸サンドリンガムの敷地内で逮捕されたことが分かった。警察は、ウィンザー城と合わせてサンドリンガムの捜索を続けている。
アンドリュー元王子は警察の拘束下に置かれ、同日午後7時ごろに釈放された。車の後部座席でシートにもたれかかり、アイルシャムの警察施設を去る姿が撮影された。その後、サンドリンガムに戻ったところも撮影された。
テムズ・ヴァレー警察は、拘束していた男性を釈放したと発表。捜査を継続するとした。また、ノーフォークでの家宅捜索は終了したとした。
アンドリュー元王子の兄、チャールズ国王は国民への声明で、「アンドリュー・マウントバッテン=ウィンザーと、公務における不正行為の疑いに関する知らせを知り、きわめて深く憂慮している。今後は、全面的かつ公正で適切な手続きによる捜査が、適切な当局によって行われなくてはならない。これについて、これまでも私が述べてきたように、私たちは捜査当局に全面的かつ誠心誠意に、支持と協力を提供する」と述べた。
国王はさらに、「はっきり申し上げる。法に沿った対応が必要だ」とも述べた。
「この手続きが進行する間、この件について私がこれ以上コメントすることは適切ではない。他方、私の家族と私は引き続き、みなさんへの義務と奉仕を果たしていく」と、国王は声明を結んだ。
チャールズ国王も、国王夫妻の公務を管理するバッキンガム宮殿も、アンドリュー元王子の逮捕を事前に知らされていなかったと、BBCの取材で分かった。
インド・デリーを訪れているイギリス副首相のデイヴィッド・ラミー法相はBBCに対して、「法務大臣として、そして首相がすでに述べているように、この国では誰も法の上に立つ者はいない」、「これは今や警察の捜査なので、それは通常の方法で行われなくてはならない」と述べた。

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BBCのルーシー・マニング記者によると、アンドリュー元王子が貿易特使だった際の情報提供の疑いに加え、警察はエプスティーン元被告が元王子の性行為の相手として、イギリスに2人目の女性を派遣した疑惑についても捜査しているという。
BBCのショーン・コクラン王室担当編集委員は、「国王の弟が逮捕されるという今回の事態について、前例は思いつかない」と書いている。
アンドリュー元王子は長年、エプスティーン元被告との過去の友人関係について追及され続けてきた。その関係について疑問が増した事態を受け、昨年10月に王室の称号を剥奪された。王位継承権の順位は8位で変わらず、継承権の剥奪には議会がそのための法律を可決する必要がある。
今年2月には、ウィンザー城の敷地内にあった自宅を離れ、ノーフォークにある王室のサンドリンガム邸の敷地内へ移った。
イギリス王室は昨年10月、アンドリュー王子の称号剥奪を発表すると同時に、ウィンザー城内にある「ロイヤル・ロッジ」からの退去を発表していた。
元王子は今月2日夜にロイヤル・ロッジを退去し、サンドリンガム敷地内の新しい住居が改修中の間、同じ敷地内の「ウッド・ファーム」に滞在していた。


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アンドリュー元王子による性被害を訴えていたアメリカ人女性ヴァージニア・ジュフレー氏(故人)の兄スカイ・ロバーツ氏は、BBC番組「ニューズナイト」に対し、元王子逮捕の報道によって、ジュフレー氏の証言が「証明された」と考えていると語った。
ジュフレー氏は、17歳だった2001年にエプスティーン元被告から元王子に人身売買され、元王子との性行為を複数回、強制されたと主張。2022年に元王子と民事和解したが、和解には責任の認定や謝罪は含まれていなかった。
ジュフレー氏は昨年4月に自死している。
ロバーツ氏は、アンドリュー元王子の逮捕の理由が、ジュフレー氏の告発と「直接の関連性はない」と認めつつも、これは「被害者にとっての勝利」だと称賛した。
「もし彼女がいなければ、私たちはここに至っていなかった。ここまで捜査が進むこともなかっただろう」とロバーツ氏は述べた。
ロバーツ氏はまた、テムズ・ヴァレー警察の捜査を支持したチャールズ国王をたたえ、「国王と王室が被害者を支えていることに感謝したい」と語った。
こうしたなか、イギリスのゴードン・ブラウン元首相はBBCに対し、エプスティーン元被告の関連文書から得た新たな追加情報を盛り込んだ5ページの書簡を、複数の警察署に提出したと述べた。
声明の中でブラウン氏は、この新たな情報は、先週、警察当局に提出した内容に追加するものだと説明。その中で自分は「人身売買された少女や女性に対する正義を確保するよう懸念を表明した」と述べた。
他方、アメリカのドナルド・トランプ大統領は、元王子逮捕について記者に質問され、「とても悲しいことだと思う。王室にとってとても悪いことだ」と話した。
貿易特使の守秘義務
米司法省が1月末に公開したメールには、元王子がシンガポールや香港、ヴェトナムへの訪問に関する報告や、投資機会に関する機密情報を、エプスティーン元被告へ伝えていた様子が記されていた。
イギリス政府の公式規定では、貿易特使は訪問先に関する機密性の高い商業・政治情報について守秘義務を負うと定められている。
2001年から2011年まで貿易特使を務めた元王子に、BBCはコメントを求めていたが、回答はなかった。
メールによると、アンドリュー王子(当時)は2010年10月7日、シンガポール、ヴェトナム、中国・深圳、香港への公式訪問予定をエプスティーン元被告へ送っていた。訪問には、元被告とビジネス上の関わりがある人々が同行していた。
アンドリュー王子(当時)は同年11月30日、王子の特別補佐官だったアミト・パテル氏から各国歴訪の報告書を受け取ると、その約5分後に、その報告書をエプスティーン元被告へ転送した様子。

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元王子は2019年11月のBBC番組「ニューズナイト」で、2010年12月初旬に米ニューヨークでエプスティーン元被告と最後に会い、関係を断つと伝えたのだと話していた。
しかし、2010年のクリスマスイブにアンドリュー氏は元被告に対し、アフガニスタンのヘルマンド州復興での投資機会に関する機密説明をメールで送信していた。このプロジェクトは当時、イギリス軍が監督し、イギリス政府が資金面でも支援していた。
この時点で、エプスティーン元被告はすでに性犯罪で有罪判決を受けていた。
当時のビジネス相だったサー・ヴィンス・ケーブルは、「アンドリュー氏が(アフガニスタンの)投資機会について情報を共有していたとは知らなかった。初めて聞いた」と話した。
さらに、2011年2月9日付の別のメールでは、元王子がその1週間前に訪問したプライベート・エクイティー企業に投資してはどうかと、エプスティーン元被告に促している。
貿易特使の職務規定は、「貿易特使は公務員ではない」と定める一方、「しかし、貿易特使の役割には、受領した情報に関する守秘義務が伴う。これには、市場や訪問内容に関する機密性の高い商業・政治情報が含まれる」とも定めている。
「この守秘義務は、任期終了後も継続する。さらに、1911年および1989年の公式機密法が適用される」ともある。
昨年10月に剥奪されるまで「王子」、「ヨーク公爵」の称号や爵位を持っていた元王子は、一貫して不正行為を否定していた。エプスティーン文書に名前が含まれていても、それ自体が不正行為を示すものではない。
【解説】公務中の不正行為とは
ドミニク・カシアーニ内政・法律担当編集委員
アンドリュー元王子にかけられている嫌疑が、犯罪と立証されるにはいくつかの要件を満たす必要がある。
公務中の不正行為は、とても複雑な犯罪だ。本質的には、イギリス国民の代理として公務にあたっていた人物が、不正と承知しながら重大な不正を行ったという犯罪を意味する。
この罪を警察が立件し、検察による起訴を確保するには、まず捜査中に焦点をあてるべき要素が4つある。
警察は第一に、捜査対象の人物が「公職」に就いていたかどうか、そして問題となっている事案がその職務の一環だったと合理的に言えるかどうかを確認しなくてはならない。
それが確認された場合、捜査員は次に、問題の事案について、容疑者が自分の職務を「故意に」果たさなかった、あるいは何かしら別の形で故意に不正行為を行ったと示す、証拠を探すことになる。この長々とした定義はこれまで長年、法的議論の対象になってきた。
次に、容疑者による行為が「国民の信頼の乱用」と言えるほど悪質だったかどうかが問われる。
最後に、この3つの要件を満たす証拠が得られた場合、警察は、捜査対象の人物が「合理的な理由もしくは正当性」のないまま、問題の行為を行ったかどうかを検討する必要がある。
この最後の点が、何より重要だ。刑事司法の基本原則として、不正行為の疑いをかけられた者には、弁明の機会が与えられなくてはならない。これは、警察が容疑者宅ののドアをノックする瞬間から始まる。













