スターマー英首相、エプスティーン元被告の被害者らに謝罪 マンデルソン卿の任命めぐり辞任求める声も

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ベッキー・モートン政治記者
イギリスのキア・スターマー首相は5日、アメリカで性犯罪で有罪とされた富豪ジェフリー・エプスティーン元被告(故人)の被害者に対し、マンデルソン卿の「うそ」を信じ、同卿を駐米大使に任命したことを謝罪した。
スターマー氏はこの日、政府の地域再生プログラム「プライド・イン・プレイス(地域への誇り)」の資金繰りについて演説する予定だった。その冒頭で、この問題への対応をめぐる世論の怒りに言及した。
演説の中でスターマー氏は、マンデルソン卿がエプスティーン元被告と面識があったことは以前から公になっていたと認めつつ、「誰一人として、その関係の深さと暗さを把握していなかった」と述べた。
これに対し最大野党・保守党のケミ・ベイドノック党首は、スターマー氏の立場は「維持不可能だ」と非難。野党・自由民主党は、労働党議員がスターマー氏を支持するかを確認するため、首相に対する信任投票を求めた。
スターマー氏は、一部の労働党議員からも辞任を求められている。
公に声を上げているのは、首相への批判を繰り返してきた少数の議員だが、より多くの議員が非公式に懸念を示している。
5日の演説でスターマー氏は、エプスティーン元被告の被害者に向ける形でこう述べた。
「私はおわびします。あなたが受けた被害についておわびします。多くの権力者たちがあなたを裏切ったことをおわびします。マンデルソンのうそを信じ彼を任命したことをおわびします。そしてこの問題が今もなお公の場で再び語られ、あなたがそれを見ざるを得ない状況をおわびします」
エプスティーン元被告の被害者の一人、マリナ・ラセルダ氏はこの発言を受け、「全国放送に出演し、自らの誤りを認め、私たちに謝罪した点は評価しなければならない」と述べた。
「ニューズナイト」の取材に対しラセルダ氏は、「これは大きな一歩だと思う。アメリカには、私たちに謝罪しようとすらしない人々もいる。だからこそ、スターマー氏を評価しなければならない」と語った。

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スターマー氏は4日の議会での質疑で、マンデルソン卿の大使任命を後悔していると述べ、現在得ている情報を当時知っていれば任命しなかっただろうとした。
また、マンデルソン卿が大使職の審査を受けていた際、エプスティーン元被告との友好関係についてどの程度うそを述べていたかを証明する資料を公開すると約束している。
イギリス政府は当初、国家安全保障や外交関係を損なう可能性のある資料の公開に消極的だったが、労働党議員が大きく反発した。
その後、下院での採決を経て、安全保障などに関する機密性の高い文書は議会の情報安全保障委員会(ISC)に回付することで、政府は同意した。
ISCは、どの文書を公開しどれを公開しないかは政府が決めるべきだと述べている。こうした決定は内閣官房長によって行われ、文書は「近く」議会に提出される見込みだという。
2024年12月に駐米大使に任命された当時、マンデルソン卿が未成年者に対する売春の勧誘で有罪となった後のエプスティーン元被告と交友関係を維持していたことは公に知られていた。
2023年には英紙フィナンシャル・タイムズが、元被告が拘束されていた2009年に、マンデルソン卿が元被告の米マンハッタンの邸宅に滞在したことを示す電子メールの存在について報じていた。
スターマー氏によると、マンデルソン卿は大使に任命される前、エプスティーン元被告との関係の性質や、有罪判決後に元被告の自宅に滞在したことがあるか、贈り物や接待を受けたかなどについて直接質問されたという。
「現在得られている情報から、彼の回答がうそだったことは明らかだ」と、スターマー氏は述べた。
「彼は自分を、エプスティーンをほとんど知らない人物として描写した」
「そしてその描写が真実ではないと判明したため、私は彼を解任した」
BBCは取材の結果、マンデルソン卿が、審査過程でエプスティーン元被告との関係について正確に回答したとの見解をもっていると把握している。
エプスティーン元被告は2008年、未成年者に対する売春の勧誘で有罪判決を受け、性犯罪者として登録された。2019年に性的人身取引の罪で訴追されたが、裁判を迎える前に同年、拘置施設で死亡した。
労働党内からも首相の辞任求める声
演説後、首相を辞任すべきではないかと問われたスターマー氏は、この件をめぐって「労働党議員の間に怒りや不満がある」ことは理解していると述べた。
しかし、「自分は2024年に、この国をより良く変えるという公約で選ばれた。(中略)それが私がやろうとしていることだ」とも話した。
労働党のレイチェル・マスケル下院議員はBBCラジオ・ヨークに対し、スターマー氏の立場は「維持不可能」なもので、「辞任する以外の選択肢はない」と述べた。
一方、同党のポーラ・バーカー議員は、首相が「判断力に疑問を抱かせる対応を示した」と語った。
バーカー氏はBBCラジオ4に出演し、「首相が国民との信頼と自信、そして党内の信頼と自信を取り戻すには、相当長い道のりを経なくてはならないと思う」と述べた。
ジョナサン・ヒンダー議員は、スターマー氏のマンデルソン卿任命は、「政治的かつ倫理的判断の大惨事」だと指摘。労働党議員と直接対面し、この点を認めるべきだと語った。
スターマー氏の元側近のルーク・サリヴァン氏は、スターマー氏が「自らの首相職を守るために闘っている」と述べた。
BBCの番組「ニュースキャスト」に出演したサリヴァン氏は、「首相が置かれている状況と危機の深刻さは、いくら強調しても足りないと思う」と語った。
スターマー氏はまた、モーガン・マクスウィーニー首席補佐官を解任すべきだとの声にも直面している。同補佐官はマンデルソン卿と近く、その任命を強く後押ししたと広くみられている。
英首相官邸は、スターマー氏はマクスウィーニー氏を全面的に信頼していると強調した。
マンデルソン卿とは
マンデルソン卿はトニー・ブレア元首相とゴードン・ブラウン元首相の労働党内閣で複数の閣僚ポストを務めた。2008年に叙勲されて一代貴族の「マンデルソン卿」となり、上院議員となった。
2024年12月にスターマー政権の駐米大使に任命されたが、昨年9月、エプスティーン元被告との関係の詳細が判明したことで解任された。今月1日には、40年にわたり重要な役割を担ってきた労働党から離党した。
米司法省が公開した元被告関連の資料に含まれたメールには、2008年に未成年者への売春勧誘で収監されるエプスティーン元被告に対し、マンデルソン卿が支援的なメッセージを送っていたことが示されている。
ここ数日、アメリカ司法省が追加公開した文書によって、両者の関係の深さがさらに明らかになっている。
マンデルソン卿は、労働党のブラウン政権で閣僚を務めていた際、市場に影響を与える政府情報をエプスティーン元被告に送ったとの疑惑をめぐり公職在任中の不正行為を捜査されている。
ある電子メールでは、イギリス政府資産の売却可能性を議論する首相官邸内部のメモをマンデルソン卿が2009年にエプスティーン元被告へ転送していた可能性を示している。
別の電子メールには、2010年に欧州連合(EU)がユーロ救済のために5000億ユーロの支援を行うとする情報を、マンデルソン卿が事前にエプスティーン元被告に知らせていたように見えるものもある。
さらに、エプスティーン元被告が2003年と2004年に、それぞれ2万5000ドルの3回の取引を通じて計7万5000ドルをマンデルソン卿に支払ったことを示唆する電子―メールも公開された。
マンデルソン卿はコメント依頼の取材に応じていないが、BBCが得た情報によると、犯罪行為や金銭的利益を目的とした行為を否定しているという。










