【解説】 インドとパキスタンの停戦合意、瀬戸際から引き返し 米の仲介など外交ルートの役割は

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スーティク・ビスワス、ヴィカス・パンディー BBCニュース(デリー)
ドナルド・トランプ米大統領は10日、インドとパキスタンが「全面的かつ即時の停戦」に合意したとソーシャルメディアで発表した。両国は4日間にわたる越境衝突の末、緊張緩和に向けた大きな転機を迎えた。
専門家によると、核保有国同士の対立が激化する中、アメリカの仲介チームや外交的な裏ルート、地域の関係国による働きかけが、両国を衝突の瀬戸際から引き戻す上で決定的な役割を果たしたという。
しかし、停戦合意から数時間後には、インドとパキスタンが互いに新たな停戦違反を非難し合う事態となり、合意の脆弱性が早くも露呈した。インドは合意が「繰り返し侵害された」と。パキスタンは「停戦の忠実な履行に引き続き尽力する」と、それぞれ主張した。
トランプ大統領による停戦発表の直前まで、インドとパキスタンは全面衝突の危機へと急速に進んでいた。
インドとパキスタンが領有権を争うカシミール地方で4月22日、インドが直轄支配するジャンム・カシミールのリゾート地パハルガムを武装勢力が襲撃し、観光客26人が殺された。
この事件を受け、インドはパキスタンおよびパキスタン支配下のカシミール地域に対して空爆を実施。それ以降、両国は数日間にわたって空中戦や砲撃戦を繰り広げ、11日朝には、互いの空軍基地へのミサイル攻撃を非難し合う事態に発展した。両国政府の発言も過激さを増し、それぞれが相手の攻撃を阻止し、大きな損害を与えたと主張した。
パキスタンは、パハルガムの事件への一切の関与を否定している。

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米首都ワシントンにある公共政策シンクタンク、ブルッキングス研究所のタンヴィ・マダン上級研究員は、5月9日にマルコ・ルビオ米国務長官がパキスタン陸軍参謀長のアシム・ムニール司令官で電話会談したことが「決定的な転機だった可能性がある」と述べた。
マダン氏は、「仲介にかかわったさまざまな国際的な関係当事者の役割についてはまだ分からないことが多いが、過去3日間の動きを見る限り、少なくとも3カ国が、緊張緩和に向けて動いていたのは明らかだ。アメリカはもちろん、イギリスとサウジアラビアも動いていた」と話した。
パキスタンのイーシャク・ダール外相は同国メディアに対し、トルコ、サウジアラビア、アメリカを含め「3ダースの国」が外交に関与していたと述べた。
ブルッキングス研究所のマダン氏はまた、「(ルビオ長官との)電話がもっと早く、インドによる最初の空爆の直後、パキスタンがすでにインド側の損害を主張し、出口戦略が存在していた段階で行われていた場合、その後の事態激化を防げたかどうかというのが、疑問として残る」と述べた。
アメリカの仲介がインドとパキスタンの危機を緩和させたのは、今回が初めてではない。
第1次トランプ政権で国務長官を務めていたマイク・ポンペオ氏は回顧録の中で、2019年の対立時に「パキスタンが核攻撃の準備をしているようだ」と懸念する匿名の「インド政府の外交担当者」と話すために、夜に起こされたのだと書いている。
他方、インドの駐パキスタン高等弁務官を務めたアジャイ・ビサリア氏は退任後、ポンペオ氏が2019年の対立にまつわる核戦争のリスクと、アメリカの仲介役としての役割を、誇張していると書いた。

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しかし、今回の危機でアメリカが重要な役割を果たしたことについては、外交官の間でほとんど異論はない。
ビサリア氏は10日、BBCの取材に対し、「アメリカは第三者として、最も目立った形で交渉にかかわっていた。前回はポンペオ氏が、自分たちのおかげで核戦争を回避したと主張した。今回も誇張するだろうが、アメリカが主要な外交的役割を果たした可能性は高い。インド政府の立場をパキスタン政府に強く伝える、その役割を担ったのかもしれない」と述べた。
しかしアメリカは当初、あくまでも距離を置くつもりのような姿勢をはっきりと見せていた。
インドとパキスタンの間で緊張が高まる中、J・D・ヴァンス米副大統領は8日、「この戦争は本質的に、私たちとは関係のないことだ」と述べ、アメリカが介入する意思がないことを明言した。
ヴァンス氏はテレビでのインタビューで、「この国々を我々はコントロールできない。インドは基本的に、パキスタンに不満を抱えている(中略)アメリカがインドに武器を置けと言うことはできないし、パキスタンに対しても同じだ。なので我々は引き続き、外交ルートを通じて取り組み続ける」と話した。
一方、トランプ大統領は先週初め、「私はインドとパキスタンの両首脳をよく知っている。お互いで何とかしてもらいたい(中略)二人には立ち止まってほしいし、できれば今すぐにでも止まってほしい」と述べていた。
三つの主要な和平ルート

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パキスタン北部ラホールを拠点とする防衛アナリスト、イジャーズ・ハイデル氏はBBCに対し、過去と比べて今回の展開には一つだけ違いがあったと話した。
「アメリカの役割は過去のパターンの延長だったが、一つ大きな違いがあった。今回は最初は手を出さずにいた。いきなり飛び込むのではなく、危機の展開を見守っていた。事態の進行を見極めて初めて、事態を仕切るために入ってきた」と、ハイデル氏は述べた。
パキスタンの専門家らによると、緊張関係が激化する中、パキスタンは「二重のシグナル」を発していたという。軍事的に報復する一方で、国家指揮権限会議(NCA)の開催を発表し、核兵器の存在を暗に示した。
NCAは、パキスタンの核兵器に関する運用上の意思決定を担う機関だ。
ルビオ米国務長官が介入に乗り出したのは、このタイミングだった。
カーネギー国際平和基金のアシュリー・J・テリス上級研究員はBBCに、「アメリカは不可欠だった。この結果は、ルビオ長官の尽力なしには実現しなかった」と語った。
米印両政府の関係が深まっていたことも、事態の収束に寄与した。
インドのナレンドラ・モディ首相とトランプ大統領の個人的な信頼関係に加え、アメリカがインドとの間に持つ広範な戦略的・経済的利害関係が、アメリカに外交的な影響力を与えていた。そのためアメリカは、双方の核保有国に緊張緩和を促すことができた。
インドの外交関係者は、今回の危機について、(1) 米英による圧力、(2) サウジアラビアの仲介、(3) インドとパキスタンの国家安全保障担当補佐官の直接対話という、三つの主要な和平ルートが機能したと見ている。これは、2019年の危機後とも類似しているという。
アメリカにとって国際的な優先課題が変化していることに加え、アメリカは当初は静観の構えを見せていた。しかし、アメリカは最終的には、南アジアの核保有国間の仲介役として不可欠な存在となった。
その役割をアメリカ当局者が誇張しているにせよ、あるいはインドとパキスタンの両政府があえて実際より過小評価してみせているにせよ、危機管理を手掛ける存在としてアメリカの役割はいまだに不可欠で、同時に相変わらず複雑なことに変わりはない。複数の専門家は、こう見ている。
とはいえ、10日の出来事を受け、今回の停戦がどこまでもつのか、疑問は依然として残る。インドの一部メディアは、この停戦は結局のところ両国の軍高官レベルが仲介したもので、アメリカによるものではないと報じている。
外交政策アナリストのマイケル・クーゲルマン氏は、「この停戦は非常にもろいなものになるはずだ。極度の緊張の中で、非常に急速に成立したものだからだ。インドはこの合意内容を、アメリカやパキスタンとは違う形で解釈しているようだ」と、BBCに話した。
「また、あまりに急いでまとめられたため、この合意には、これほど緊迫した状況で本来必要とされる保証や確約が欠けている可能性がある」ともクーゲルマン氏は指摘した。











