安倍元首相の殺害事件、山上被告に無期懲役の判決 生い立ちの影響認めず

マスクをつけて紺色の服を着た山上被告が移送されている。後ろには水色の制服姿の職員がいる

画像提供, Reuters

画像説明, 事件後に逮捕され移送される山上徹也被告(2022年)

田村栄治(東京)、 ケリー・アン(シンガポール)

2022年に安倍晋三元首相を殺害した罪などに問われた山上徹也被告(45)が、21日午後にあった裁判で、求刑通り無期懲役の判決を言い渡された。判決は、母親による宗教団体への多額の献金で生活が困窮するなどの被告の不遇な生い立ちに言及したが、犯行に大きな影響を及ぼしたとは認められないと断定。一方で、多くの人がいる場での銃撃による犯行は、悪質性や危険性が大きいとした。

判決公判のあった奈良地裁の近くにはこの日午前、傍聴を希望する約700人が列をつくった。

被告が有罪判決を受けることに疑いの余地はなかった。被告自身が昨年の公判で罪を認めていたからだ。

ただ、山上被告が受けるべき刑罰については、日本国内で世論が割れた。多くの人が彼を冷酷な殺人者とみなす一方で、その困難な生い立ちに同情する声もあった。

検察は安倍氏を射殺するという「重大事件」に対し、無期懲役を求刑した。安倍氏は影響力の大きい公人であり、銃による犯罪が非常にまれな日本で起きた同氏の暗殺は国中を震撼(しんかん)させたとした。

山上被告の弁護団は情状酌量を求め、彼が「宗教的虐待」の被害者だったと主張した。母親が世界平和統一家庭連合(旧統一教会)に多額の献金を続けたことが、家庭を経済苦に追い込んだとし、その問題の多い宗教団体と安倍氏に関係があると知って、被告は同氏を恨むようになったとした。

真昼の演説中に起きた衝撃的な殺害事件をきっかけに、旧統一教会と、信者に経済的破綻を招くほどの献金を求めるといった教団の疑わしい慣行に対して、当局の調べが進んだ。

この事件はまた、教団と与党・自民党の政治家とのつながりもあらわにし、閣僚らが辞任に追い込まれるなどした。

山上被告の公判を、1回を除いてすべて取材したジャーナリストの鈴木エイト氏は、裁判を通して、被告とその家族が「絶望を深く感じていた」と話す。

安倍氏殺害事件が起きるはるか前から旧統一教会の問題を追ってきた鈴木氏は、「法廷での山上被告は厭世(えんせい)観や諦めを表に出していた」と振り返る。

山上被告は2025年10月の初公判の罪状認否で、「すべて事実です。私がしたことに間違いありません」と静かに述べた。金属パイプ2本と粘着テープで自作した銃で、2022年7月8日、奈良市で街頭演説中だった安倍氏に向けて2度発砲したとされた。

安倍氏を銃撃した経緯

日本で最も長く首相を務め、事件当時、日本の公人として最も知名度が高かった安倍氏の暗殺は、世界に衝撃を与えた。

山上被告の弁護団は、被告を「宗教的虐待」の被害者だとし、母親が父親の死亡保険金などの資産から合わせて約1億円を教団に寄付したことに被告は憤慨していたと裁判で弁論。量刑は重くても懲役20年までにとどめるべきだと主張した。

山上被告は法廷で、2021年の教団関連のイベントに安倍氏が寄せたビデオメッセージを見て、同氏を恨むようになったと話した。ただ、当初は安倍氏ではなく教団幹部を攻撃することを考えていたと述べた。

鈴木氏は、山上被告が安倍氏は「本筋ではない」と述べた際の、安倍氏の妻・昭恵氏の信じられないという表情が「今もすごく印象に残っている」と話す。

「私の夫は、教団への恨みを果たすために道具に使われたの? そんなことで夫の命を奪ったの?――と、衝撃を受けた感じだった」

安倍昭恵氏は、法廷で読み上げられた感情のこもった上申書で、「夫を失った悲しみを昇華できません」と心境を明らかにした。

そして、「ただ生きていてほしかった」と述べた。

生い立ちと量刑

旧統一教会は、韓国で設立され、1960年代に日本に進出した。政治家とつながりを築き、信者を増やしたと研究者は説明する。

安倍氏は会員ではなかったが、日本の他の政治家らと同様、教団関連のイベントなどで教団側と接点があった。祖父の岸信介元首相も、教団とはその反共姿勢から密接な関係だったとされる。

東京地裁は昨年3月、旧統一教会の宗教法人格を剥奪する解散命令を出した。信者の精神的安寧に対する不安につけ込み、高額物品の購入を強要したと認めた。

この教団はまた、数千組のカップルが参加する合同結婚式でも物議を醸してきた。

裁判では、山上被告の妹が弁護側証人として出廷した。母親の旧統一教会への深い関与によって「きょうだいが受けた宗教的な虐待や、悲惨な状況」について涙ながらに証言していたと、鈴木氏は思い起こす。

「とてもエモーショナルな瞬間で、傍聴席で聴いていたほぼみんなが泣いてるようだった」

一方、検察は、山上被告が教団への恨みを安倍氏に向けたとの主張について、「論理的に飛躍がある」と主張した。裁判官らもこの点について、理解しがたいと示唆する質問をした。

被告の個人的な悲劇が、刑を軽くする正当な理由になるかについても、識者らで見解は分かれた。

「安倍氏が山上被告やその家族に直接危害を加えたわけではないという検察側の主張を突き崩すのは難しい」と鈴木氏は言う。

それでも同氏は、山上被告の事件は「社会問題の被害者がいかにして重大犯罪に追い込まれるか」を示す事例だと考えている。

「この連鎖を断ち切る必要がある。なぜ彼が犯罪に及んだのか、徹底検証しなくてはならない」

英クイーンズ大学ベルファストの社会学者の牛山凛氏は、山上被告への同情は主に、「旧統一教会のような議論を呼ぶ宗教に対する、日本社会に広くある不信感と反感」に起因すると説明する。

「山上被告は確かに(旧統一教会によって)引き起こされた親の育児放棄と経済的困窮の『被害者』だった。だが、このことが彼(の行為)を説明するわけではなく、まして正当化するわけではない」と牛山氏は話す。