モーリシャスへのチャゴス諸島の主権移譲、イギリスが擁護 「大いなる愚行」とのトランプ氏の批判受け

V字型の環礁と青い海の画像

画像提供, Getty Images

画像説明, チャゴス諸島の一部、ディエゴ・ガルシア島

イギリス政府は20日、インド洋のチャゴス諸島の主権をモーリシャスに移譲するという、昨年5月の合意を擁護した。これは、アメリカのドナルド・トランプ大統領がチャゴス諸島の主権移譲を「大いなる愚行」などと批判したことを受けてのもの。

イギリスは昨年5月、チャゴス諸島の主権をモーリシャスに移譲し、同諸島内の軍事基地を年間1億100万ポンド(約190億円)でリースバックする内容の合意に署名した。キア・スターマー首相は当時、この支出はインフレなどの要因を考慮した「純コスト」として、総額34億ポンドに相当すると説明していた。

この合意では、チャゴス諸島最大のディエゴ・ガルシア島にある英米共同軍事基地の管理権を、イギリスが維持することになっている。

トランプ氏と米政府高官は数カ月前の時点で、この合意への支持を表明していた。しかし、トランプ氏は20日、チャゴス諸島の主権移譲は「大いなる愚行」だと、自身のソーシャルメディア「トゥルース・ソーシャル」に投稿。その後、合意には「反対だ」と述べた。

トランプ氏は投稿で、「驚くべきことに、我々の『素晴らしく優秀な』NATO同盟国のイギリスは、重要な米軍基地があるディエゴ・ガルシア島を、まったく理由もなくモーリシャスに引き渡そうとしている」と述べた(太文字は原文ですべて大文字)。NATOは、英米が共に加盟する北大西洋条約機構の英語の頭文字。

「中国とロシアが、この完全な弱腰対応に気づかないはずがない」とも、トランプ氏は書いた。

さらに、「イギリスが極めて重要な土地を手放すのは大いなる愚行だ。グリーンランドを取得しなければならない国家安全保障上の理由は数多くあるが、それがまた一つ増えた」と付け加えた(太文字は原文ですべて大文字)。

トランプ氏の批判を受け、英政府は自国の「国家安全保障に関して妥協するつもりは決してない」と表明。英首相官邸の報道官も、「(トランプ)大統領は昨年、強固な合意であることを明確に認めていた」とし、アメリカは依然としてこの動きを支持していると強調した。

また、この合意は、諜報協定UKUSA(別名ファイブ・アイズ)を結ぶ国々からも支持されていると付け加えた。UKUSAは5カ国(イギリス、アメリカ、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド)からなる。

チャゴス諸島をめぐる合意については、英議会で現在も審議が進められている。そのような状況の中でも、合意は実施されると断言できるのかとの質問には、「はい。我々の立場は変わっていないと、はっきり言える」と英首相官邸報道官は答えた。

英政府の報道官は合意について以前、「ディエゴ・ガルシア島の基地が、裁判所の判断によって我々の立場が弱体化し、将来的に意図した運用が不可能になるという脅威にさらされたため」イギリスは行動したと述べていた。

さらに、この合意は米英共同基地の運用を「何世代にもわたり」確保するもので、「その独自の能力を維持し、敵対勢力を排除するための強固な条項が含まれている」と付け加えた。アメリカを含む複数の同盟国が合意を歓迎しているとも述べていた。

動画説明, 同盟国の領土を求めるトランプ氏、各国首脳は「力こそ正義」に反発

トランプ氏は20日遅くに米ホワイトハウスで、チャゴス諸島をめぐる合意について質問を受けた。「彼らは当初、所有権に関する構想の話をしていた。しかし今では、実質的にリース契約して売却しようとしている。それには反対だ」と、トランプ氏は答えた。

チャゴス諸島は「地球上でかなり重要な地域」だとし、「イギリスはそれを維持すべきだと思う」と、トランプ氏は付け加えた。

トランプ氏は、「(イギリスが)なぜそんなことをするのか分からない。金が必要なのか?」とも述べた。

モーリシャスのギャヴィン・グローヴァー司法長官は、合意内容は予定通り進められるとの見解を示している。

同司法長官は声明で、この合意が「イギリスとモーリシャス共和国の間でのみ交渉され、締結・署名された」ものだという点を「覚えておくことが重要」だと述べた。

「チャゴス諸島に対するモーリシャスの主権は、国際法によってすでに明確に認められており、もはや議論の対象となるべきではない」

チャゴス諸島とその周辺地域の地図と、イギリス南部からチャゴス諸島までの直線距離(9332キロメートル)を示す地図が並んでいる。チャゴス諸島の南西にモーリシャス、西にセーシェル、北にインドとスリランカがある

チャゴス諸島の領有権は、イギリスとモーリシャスとの間で長年争われてきた。チャゴス諸島は元々、イギリス領だったモーリシャスの一部だった。イギリスは1965年にチャゴス諸島をモーリシャスから分離し、イギリスが300万ポンド(現在の価値で数十億円相当)で購入したとされている。しかし、モーリシャス政府は、独立を得るために同諸島の譲渡を強制されたと主張してきた。

昨年5月の合意によると、イギリスはチャゴス諸島の主権をモーリシャスに譲渡する一方、ディエゴ・ガルシア島にある軍事基地については、アメリカおよびイギリスが引き続き運用を継続することが認められ、99年間の「当初期間」が設定された。

イギリスは、同諸島内の軍事基地を年間1億100万ポンドでリースバックする。スターマー英首相は、「悪影響」から基地を守るために必要な措置だとしている。

イギリスは合意締結前、アメリカの安全保障への影響を考慮し、トランプ氏に事実上の拒否権を与えていた。

トランプ氏の側近らはこの計画に批判的だったが、トランプ氏は昨年2月に米大統領執務室でスターマー氏と会談した際、「我々はイギリスの方針に沿うことになると思う」と述べていた。

同年5月に合意が締結されると、マルコ・ルビオ米国務長官は声明で、米政府はこの合意を「歓迎する」と述べた。

ルビオ氏は当時、「ディエゴ・ガルシア島の英米共同軍事施設の長期的で安定した効果的な運用」が確保されたとし、「地域および世界の安全保障にとって重要な資産」だと述べた。

さらに、「トランプ大統領はホワイトハウスでのスターマー首相との会談の中で、この記念すべき成果に対する支持を表明した」ともしていた。

モーリシャス政府との合意内容を実施するための英法案の審議は現在、最終段階にある。

英最大野党・保守党のケミ・ベイドノック党首は20日、スターマー首相には今、「チャゴス諸島をめぐる方針を転換する機会」が訪れていると、ソーシャルメディアに投稿した。

「金銭を支払ってチャゴス諸島を手放すのは愚行であるだけでなく、完全な自己破壊行為だ」

野党リフォームUKのナイジェル・ファラージ党首は、「トランプ氏がチャゴス諸島の引き渡しを拒否してくれてよかった」と、ソーシャルメディアに投稿した。

野党・自由民主党のエド・デイヴィー党首は、トランプ氏の発言は、スターマー氏の対米アプローチが「失敗した」ことを示していると述べた。

デイヴィー氏は、「政府は彼(トランプ氏)と連携できる証としてチャゴス諸島に関する合意を売り込んだが、それは今や崩壊しつつある」と、ソーシャルメディアに投稿した。

「政府がトランプ氏に立ち向かう時がきた。いじめっ子をなだめても、物事は決してうまくいかない」

英与党・労働党の議員で下院外交委員会委員長のエミリー・ソーンベリー氏はBBCラジオ4の番組「トゥデイ」で、イギリスはトランプ氏のことを「真剣に」扱うべきだが、同氏の発言を「言葉通り」受け取るべきではないと述べた。

ソーンベリー氏は、トランプ氏の20日の発言は「大統領によるトローリング(荒らし行為)」の一例だとし、「冷静さを保って、やり過ごす方がいい」と述べた。

英・モーリシャス間の合意は昨年、一時的に差し止められたものの、最終的に英高等法院が異議申し立てを退けたことで成立に至った。

この異議申し立ては、ディエゴ・ガルシア島で生まれたチャゴス諸島出身の女性2人、ベルナデット・デュガス氏とベルトリス・ポンペ氏によって提起された。両氏は、自らの故郷である島への帰還を望んでおり、合意に関する議論から自分たちは排除されたと訴えている。

ポンペ氏はBBCに対し、トランプ氏が合意を批判したのは「いいこと」だが、「単なる言葉に過ぎない」と述べた。

デュガス氏はメッセージアプリ「ワッツアップ」を通じて、「この合意を止めたい。モーリシャス政府に資金が渡るのはいやだ」と訴えた。

チャゴス諸島の人々が「交渉のテーブルに着き、自分たちの未来を決める」ことが認められるべきだと、デュガス氏は述べた。

(追加取材:アリス・カディ)