英政府、就労でのデジタルID義務化を撤回 方針転換に批判の声

緑色のシャツを着た人物の手元のアップ写真。左手にスマートフォンとメモ帳とペンを持ち、右手でスマートフォンを操作している

画像提供, Getty Images

ケイト・ワンネル政治記者、ヘンリー・ゼフマン政治担当主任編集委員

イギリス政府は14日までに、同国での就労資格を証明するためにデジタル身分証(ID)を持つことを義務付ける計画を撤回した。

労働党政権は代わりに、生体認証機能のついたパスポートなどの書類を用いた既存の確認手続きが、2029年までに完全にオンライン化されるとしている。

最大野党・保守党のケミ・ベイドノック党首は、キア・スターマー首相を「全く見識がない」と非難。「何の方向性も全く」示していないとした。

ピーター・カイル・ビジネス担当相は計画撤回を受け、労働党の閣僚らは今後、新たな措置について、より適切に説明する必要があると語った。

カイル氏はBBC2の「ポリティクス・ライブ」に出演した際、「私が懸念しているのは、我々が政策の説明をよりうまく行い、その関連性をより明確に示すことだ」と述べた。

スターマー政権はここ数週間で、農地の相続税やパブの事業税など、さまざまな分野で政策を変更している。

毎週水曜日の首相質疑でベイドノック氏は、政府の譲歩を歓迎。当初のデジタルID計画を「くだらない政策」と批判した。

また、この方針変更はスターマー氏が「風に舞うビニール袋のように漂っている」ことを示していると述べ、やはり物議を醸している陪審裁判の縮小計画でも、労働党は方針転換するだろうと予測した。

首相はこれに反論し、前保守党政権下での政策転換や閣僚の入れ替わりを指摘。保守党が政権時代に「経済を崩壊させた」と非難した。

「私は、この国での不法就労をさらに難しくする決意だ。そのための確認手続きであり、いずれデジタル化され、義務化される」と、スターマー氏は付け加えた。

スターマー政権の度重なる方針転換

デジタルIDの計画が発表された当初、スターマー首相はこの制度について、「国内での不法就労を困難にし、国境をより安全にする」と説明していた。

しかし政府は今後、移民に限定した対応を弱める代わりに、デジタルIDが公共サービスを利用する際に有用な手段になり得るという主張に重点を置く方針だとされている。

BBCラジオ4の「トゥデイ」に出演したハイディ・アレクサンダー運輸相は、政府は依然として、生体認証パスポートを含むデジタルによる就労資格確認の義務化に「絶対的にコミットしている」と述べ、制度のデジタル化は不法就労の取り締まりに役立つと語った。

「デジタルIDは、デジタルによる就労資格確認を通じて、あなたが働く資格を証明する一つの方法になり得る」とアレクサンダー氏は述べた。

「現時点では紙ベースの制度であり、適切な記録は保持されていない。そのため、不法労働者を雇用している企業に対して、合理的に取り締まりを行うことが非常に難しくなっている」

世論調査によると、デジタルIDに対する国民の支持は、スターマー氏の発表後に急落。昨年6月には人口の半数強が支持していたのが、9月の演説直後には3分の1未満にまで落ち込んだ。

デジタルID導入に反対する議会請願には、約300万人が署名している。

また、当初の提案に含まれていた義務化の側面については、一部の労働党議員の間で不安が広がっていた。

さらに、今回の政策変更に対する意見とは別に、労働党議員の間では、政府の方針転換に対するいら立ちが高まっている。

一部の議員はすでに、政策がいずれ撤回されると懸念し、自身の選挙区で物議を醸す政府方針を擁護することに慎重になっていた。

ある労働党議員はBBCの取材に、今回の方針転換は「完全な大失敗」だと怒りをあらわにした。

「首相官邸の連中は何も考えずに飛び込み、PLP(労働党議員団)を山の上まで引き上げた挙げ句、腰砕けになり、痛みだけを受けて何の功績も得なかった」

野党・自由民主党は、この政策は「最初から失敗する運命にあった」と述べ、「義務的なデジタルID制度に割り当てられた数十億ポンドを、代わりに国民保健サービス(NHS)や前線の警察活動に使うべきだ」と主張した。

同党のリサ・スマート内閣担当報道官は「このペースでは、首相官邸はすべての方針転換に対応するために、乗り物酔いの薬を大量注文しなければならないだろう」と語った。

野党・リフォームUKのナイジェル・ファラージ党首はXへの投稿で「これは、恐ろしい権威主義的な政府に対する個人の自由の勝利だ。リフォームUKはこれを完全に撤廃する」と述べた。

緑の党のザック・ポランスキー党首も、「政府がIDカードに関して方針転換した。良いことだ」と歓迎の言葉を投稿した。

一方、政府報道官は、「我々はデジタルによる就労資格確認の義務化にコミットしている」と述べた。

「現在の就労資格確認は、紙ベースの制度が寄せ集められたもので、確認の記録は一切残っていない。この状況は詐欺や悪用の温床になっている」

「デジタルIDは、人々の日常生活をより便利にし、公共サービスをより個別化し、連携させ、効果的にする一方で、包摂性も維持する」

イギリスでは雇用主はすでに、採用候補者がイギリスで就労する権利を持っているかを確認する義務を負っている。

雇用主は2022年以降、政府認定のデジタル認証サービスを使って、パスポートを保有するイギリスおよびアイルランド市民の就労資格を確認できるようになっている。

また、内務省のオンライン制度もあり、デジタルで移民ステータスが管理されている一部の非イギリス・非アイルランド市民の資格が確認できる。

デジタルIDの仕組みの詳細はまだ示されていないが、政府が構築した「Gov.uk One Login」と「Gov.uk Wallet」の2システムに基づくとみられている。

現在、1200万人以上が「Gov.uk One Login」に登録しており、退役軍人カードの申請、紛失したパスポートの取り消し、任意後見の管理などのサービスに利用できる。

「Gov.uk Wallet」はまだ開始されていないが、人々がスマートフォンにデジタルIDを保存できるようになる予定だ。

デジタルIDには、氏名、生年月日、国籍または居住資格、写真が含まれる見込み。