【解説】 戦争開始から2年、イスラエルとハマスは終結の好機を生かせるのか 国際編集長

イスラエル軍によるガザ地区の住宅地への空爆後、煙が立ちのぼっている。イスラエル側からガザを2025年10月7日に撮影

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画像説明, ハマスの襲撃に対するイスラエルの圧倒的な軍事攻撃は、ガザの大部分を破壊している(7日)

ジェレミー・ボウエン国際編集長(エルサレム)

パレスチナ・ガザ地区での戦争が始まって2年がたったいま、殺りくと破壊を終わらせ、イスラエル人の人質(生存者と死者の両方)を家族のもとに返す、合意成立の可能性が生まれている。

好機ではある。だが、イスラム組織ハマスとイスラエルがこれを生かすかは、わからない。

合意をめぐる協議が、イスラエル人に今なお残る深刻な傷をハマスが負わせてからちょうど2年後に行われているのは、皮肉な偶然だ。

2023年10月7日のハマスの攻撃では、イスラエルの民間人を中心に約1200人が殺され、251人が人質に取られた。イスラエル側は、人質のうち20人がまだ生存していると推定しており、死んだとみている28人についても遺体の返還を求めている。

イスラエルの軍事力による対応は壊滅的で、ガザの大部分を破壊してきた。殺したパレスチナ人は6万6000人を超えており、その大半は民間人で、子どもが1万8000人以上を占める。

この人数は、ハマスによるガザ統治機構で今も残っている保健当局が発表したものだ。同当局の統計は大方、信頼できるとみなされている。ただ、英医学誌ランセットに掲載された調査は、この人数が過少だと示唆している。

双方が生き残りを図る

イスラエル人もパレスチナ人も、戦争の終結を望んでいる。イスラエル人は戦争に疲れており、世論調査では、人質を取り戻して戦争を終わらせる合意を大半の人が望んでいるとの結果が出ている。イスラエル国防軍(IDF)所属の何十万人もの予備役も、動員が長期にわたっている現在、元の生活に戻ることを願っている。

ガザの200万人を超えるパレスチナ人は、IDFの火力と飢餓のはざまで、人道的大惨事に陥っている。ガザへの支援物資をイスラエルが制限しているため、一部地域では人為的な飢饉(ききん)が発生している。

ハマスは2年前には破壊的な力でイスラエルを攻撃できたが、もうとっくにまとまりのある軍事組織ではなくなっている。廃墟の中でIDFに反撃する都市ゲリラ部隊といった様相だ。

ハマスとしては、パレスチナの技術官僚らに権力を譲ることに同意したとはいえ、生き残る道を見つけたいところだ。残っている重火器の引き渡しまたは解体を受け入れつつも、自分たちの20年近くにわたる残忍な支配とイスラエルへの攻撃が大惨事をもたらしたことに報復しようとするパレスチナ人たちから、わが身を守るための火力は維持したいと考えている。

公には言っていないが、イスラエルを破壊しようとする信奉者と綱領をいまだに持つ組織は、イスラム抵抗運動の頭文字をとったその名に恥じない能力を再構築するために、十分な余力を残しながら浮上したいと考えているはずだ。

イスラエルは、ハマスの降伏条件を自分たちで決めたいだろう。しかし、ハマスが真剣な交渉の機会を得たという事実は、ハマスの可能性を、つい1カ月前に思われていた以上に広げるものだ。1カ月前、イスラエルはカタールの首都ドーハで、ドナルド・トランプ米大統領の和平案を協議していたハマスの指導者らの殺害を狙って空爆を実施し、失敗した。主な標的は、紅海のリゾート地シャルム・エル・シェイク(エジプト)での協議でハマス代表団を率いていた、上級幹部のハリル・アル・ハイヤ氏だった。空爆で同氏の息子は死んだが、指導者らは生き延びた。

一方で、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相も、異なる生き残りを考えている。権力を維持し、自身の汚職疑惑の裁判を延期し続け、来年予定の選挙で勝利し、ユダヤ人にとってナチスのホロコースト以降で最悪の日をもたらした安全保障上の不手際の責任者として歴史に名を残さないことを願っている。

そのためには、ネタニヤフ氏がよく使う「完全勝利」という言葉を宣言できる環境が必要だ。彼はそれを、人質の帰還、ハマスの壊滅、ガザの非武装化だとしている。完全勝利が宣言できないのであれば、いくらレバノンやイランにいる敵に対してこの2年間でイスラエルが与えた非常に現実的な損害をアピールしたところで、十分とは言えないだろう。

和平協議では、ハマスとイスラエルの交渉担当者らが顔を合わせることはないだろう。エジプトとカタールの当局者らが仲介役となり、大きな影響力――おそらくは決定的な影響力――をもつ、アメリカの当局者らも加わることになる。

動画説明, 【検証】 ガザに残る人質はいま……ハマス襲撃から2年

トランプ氏の和平案に欠けているもの

協議の基礎となるのは、トランプ氏の20項目からなるガザ和平案だ。同氏はソーシャルメディアで、永続的な和平についてしつこく投稿しているが、その和平案は、イスラエル人とパレスチナ人の間で長く続く、ヨルダン川と地中海に挟まれた土地の支配をめぐる紛争を終わらせるものではない。彼の和平案はまた、イギリスなどの国々がパレスチナ国家として承認しているヨルダン川西岸の将来について言及していない。

シャルム・エル・シェイクで行われている協議は、極めて大きな意味をもつ。アラブ人とユダヤ人が100年以上続けてきた、とてつもなく破壊的で血なまぐさい戦争の集結につながるかもしれない、停戦のチャンスなのだ。

最初の課題は、イスラエル人の人質解放の条件をまとめることだ。イスラエルの刑務所で終身刑に服しているパレスチナ人や、戦争が始まってから裁判にかけられることなく拘束されているガザ出身者らとの交換が検討されている。ただ、簡単なことではない。

トランプ氏は、ともかく早く結果を得たいと思っている。彼は、イスラエルとサウジアラビアの和解を中心に据えた、中東の大型取引を仲介するという、自らの野望の復活を考えている。ただそれは、ガザでイスラエルがものすごい数のパレスチナ民間人を殺害し、人道支援を制限し多大な苦痛を与えたり、ハマスがイスラエルの人質を拘束したりしている状況では、あり得ない。サウジアラビアも、パレスチナ独立国家への明確かつ不可逆的な道筋なしにそうした取引は実現しないと、一連の公式声明で明言している。

トランプ氏はネタニヤフ氏に、パレスチナ独立の可能性に関してあいまいで不確定に言及している文書に署名させた。だが、ネタニヤフ氏はその後の声明で、パレスチナ人は決して国家を得られないと繰り返し宣言し、文書の関係部分について無視する姿勢を示した。一方でトランプ氏の文書には、ハマスの権力の消滅と、ガザの将来の統治という点で、イスラエルにとって望ましいものも多数含まれている。

ネタニヤフ氏は、米大統領執務室で自分の言い分を通すことに慣れている。トランプ氏はその代わり、ハマス指導者らを一掃できなかったイスラエルのドーハでの空爆について、ネタニヤフ氏にカタール首相に対して正式に謝罪をさせた。トランプ氏は、中東改造という自らの野望を推し進めるために、カタールを味方につける必要がある。

ひとつ疑問なのは、なぜハマスは、イスラエルのガザ撤退と戦争終結の厳格なタイムテーブルが示されていない中で、人質を差し出そうとしているのかということだ。可能性としてあるのは、イスラエル人の人質全員を送還し、トランプ氏に勝利を主張するチャンスを与えれば、トランプ氏は必ずやイスラエルのガザ撤退と戦争終結を実現させる――と、カタールがハマスを説得したことだ。

トランプ氏は、ネタニヤフ氏がイスラエル国民に聞かせたい言葉を使い続けている。たとえば、ハマスが合意を拒否した場合は、イスラエルがハマス壊滅に向けて進むことを「全面支援する」と約束。ハマスに脅しをかけた。

マルコ・ルビオ米国務長官は、ハマスが本気であれば、合意は数日のうちにまとまるとしている。だが、複雑な合意を確実にするうえでの重要点の検討には、もう少し時間がかかるだろう。当事者らには今のところ、トランプ氏が示した枠組みしかない。

イスラエル人とパレスチナ人の長く未解決の紛争がガザでの戦争へと発展してから2年がたち、殺りくを終わらせ、パレスチナ人とイスラエル人の当面の未来を確保することが、大きな課題となっている。これには、巧みな外交と、細部に対する長期的な関与が必要だ。トランプ氏の20項目からなる和平案には、そうしたことはほとんど盛り込まれていない。そのギャップを埋める正確な文言を見つけようとすれば、和平を妨げる恐れのある障害がたくさん出てくるだろう。

ノヴァ・フェスティバルの会場で、イスラエル軍兵士が、2023年10月7日のハマス襲撃の犠牲者の追悼碑の前に立っている

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画像説明, ハマスによる2023年10月7日の攻撃では、イスラエルの民間人を中心に約1200人が殺害された

トランプ氏は、自分の交渉能力を誰よりも高く評価している。だが、外交においては、自信に満ちた言葉に見合う成果はこれまで出していない。彼は多くの戦争を終結させてはいない。終結させたと主張する戦争の数は、彼がどう語るかで異なっている。最も明白なのはロシアとウクライナの戦争で、トランプ氏は大統領就任後1日で終わらせると予告していたが、そうはならなかった。それでも、トランプ氏は確かにもっている技術もある。不動産業で生涯を過ごしてきたことで、欲しいものを手に入れるためにはどう圧力をかければいいのか、特有の直感を身につけているのだ。

エジプトでの間接協議が実現しているのは、トランプ氏が双方に圧力をかけたからだ。ハマスに対しては、合意への関与を拒否すれば絶滅することになると、容易に脅すことができた。歴代の米大統領は、ハマスが2006年のパレスチナ総選挙で勝利し、その翌年に武力行使によってパレスチナでのライバルのファタハからガザを奪取して以来、ハマスに対し国際的な圧力をかけるのを主導してきた。

トランプ氏がビル・クリントン、バラク・オバマ、ジョー・バイデンの各大統領経験者と大きく違うのは、自分を操ろうとするネタニヤフ氏に対し、断固としてやり返すことだ。民主党の前任者らは、そうしようとしなかったか、そうすることができなかった。

トランプ氏は、自分の案にハマスが「わかった、だが……」と答えたことを、和平に向けた確固たるイエスと受け止めた。彼が前に進むには、それで十分だった。米ニュースサイトのアクシオスによると、ネタニヤフ氏がハマスは時間稼ぎをしているとトランプ氏を説得しようとしたとき、トランプ氏は、「なぜあなたはそんなに否定的なんだ」と、強意の卑語を交じえて返した。

イスラエルはアメリカに依存している。今回の戦争において、アメリカは完全なパートナーだ。アメリカの支援がなければ、イスラエルはこれほど冷酷かつ長期にわたってガザを武力攻撃できなかった。アメリカは、イスラエルの兵器のほとんどを供給している。政治的・外交的な保護も提供している。国連安全保障理事会では、イスラエルに武力行使の停止を迫る決議案に、何度も拒否権を発動している。

アイルランド系シオニストを自称していたバイデン前大統領は、イスラエルのアメリカ依存から得られる影響力を利用することはなかった。トランプ氏は、アメリカ第一主義を前面に出し、アメリカのイスラエルに対する潜在的な力を利用して、ネタニヤフ氏を自分の意向に従わせた。その圧力が続くのかは、まだわからない。トランプ氏は気が変わりやすい。

ハマスとイスラエルの代表団はともに、戦争の継続を望む強力な批判者らを自分たちの領土内に抱えている。ハマスの情報筋がBBCに話したところでは、ガザに残っている司令官たちは、最後まで戦い、できるだけ多くのイスラエル人を道連れにする用意があるという。ネタニヤフ氏の連立政権は、ガザからパレスチナ人を追放し、代わりにユダヤ人入植者を住まわせるという夢に近づいていると考える、ウルトラナショナリスト的な過激主義者らの支持に依存している。

もしエジプトでの協議が失敗すれば、そのどちらの結末もあり得る。