英アカデミー賞授賞式、BBCは別の人種差別用語を放送前に編集で消していたと説明

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スティーヴン・マッキントッシュ記者
22日にロンドンで行われた英映画テレビ芸術アカデミー(BAFTA)賞の授賞式で、人種差別の罵倒語が客席から叫ばれたにもかかわらず、2時間後の放送でBBCが編集対応していなかった問題をめぐり、BBCは24日、放送前に1カ所の差別語を編集で削除したが、別の個所の差別語が誤って放送されたことを明らかにした。
今年のBAFTA授賞式では、イギリスでトゥレット症候群について理解を広めるための活動をしている実在の男性、ジョン・デイヴィッドソンさんを描く映画「「I Swear」から、英俳優ロバート・アラメイヨさんが主演男優賞を受賞した。「I Swear」という映画の原題は、「私は誓う」と「私は罵倒する」の両方の意味にとれる。
会場にいたデイヴィッドソンさんは、ステージに黒人俳優2人が登壇している際に、黒人を激しく罵倒する単語を客席から叫んだ。BBCはこれを2時間後にそのままテレビ放送した上、配信サービス「iPlayer」で翌朝まで長時間にわたり提供していた。BBCはこれについて謝罪した。
トゥレット症のチック症状(本人の意思に関係なく繰り返し出てしまう症状)の一つに、わいせつ語や罵倒語を突発的に口にする「汚言症(コプロラリア)」がある。授賞式の客席にいたデイヴィッドソンさんは、舞台上に米俳優マイケル・B・ジョーダンさんと、英俳優デルロイ・リンドーさんが並んで登壇していた際に、黒人差別の強い罵倒語を叫んだ。ジョーダンさんとリンドーさんは共にアフリカ系。
客席からの差別語の叫び声は放送の音声に入っていたが、多くの視聴者はその言葉をはっきり聞き取れなかった可能性もある。
BBCの広報は、「放送前に、これを編集で削除しなかったことを謝罪する。BBC iPlayer上のバージョンからは削除する」と述べた。
これについてBBCのケイト・フィリップス・コンテンツ責任者は24日、全スタッフへのメールで、この叫び声を事前に編集で削除しなかったことをあらためて謝罪し、「これがいかに不愉快なことだったか、理解しています」と書いた。
フィリップス主任はさらに、「編集チームは、放送から別の人種差別的表現を削除していた」と書いた。
対照的に、リンドーさんとジョーダンさんがステージにいた際に叫ばれた侮辱語は「誤って放送されたもので、知っていたら放送を許可するなど決してしなかった」と主任は説明した。
一般に「Nワード」と呼ばれる黒人に対する激しい差別語が、BBCのテレビ番組で使われることはきわめて異例で、通常は編集幹部の事前許可が必要となる。
授賞式を2時間遅れで放送したBBC Oneは、この場面をそのまま流した。番組プロデューサーたちは、2時間の放送枠に収まるように式典の内容を編集していた。
BBCニュースの取材で、式典のテレビ放送を担当したBBC側のプロデューサーはテレビ中継車の中で作業しており、リンドーさんとジョーダンさんの登壇中に客席から叫ばれた侮辱語を誰も聞いていなかったことが分かった。叫んだデイヴィッドソンさんは当時、マイクをつけておらず、舞台上にもいなかった。
フィリップス主任は社内メールでさらに、「授賞式の出席者は事前に、トゥレット症候群に関係する不随意の発声チックが発せられる可能性について知らされていました。[司会の]アラン・カミングも放送中にそれに言及しました。もちろん、それが事態の影響や、それがもたらした動揺を軽減するわけではありません」と書いた。
「私たちは、今回の出来事について全責任を負います」とフィリップス主任は続け、「iPlayerで音声が確認できると知らされた時、削除するよう伝えました」と書いた。
授賞式は22日午後5時に始まり、それから2時間後にテレビ放送が始まった。授賞式の番組は午後9時に放送が終わると、iPlayerで視聴可能となった。23日の午前11時半ごろ、iPlayerから削除された。
フィリップス主任の社内メールに先立ち、与党・労働党のドーン・バトラー下院議員はBBCのティム・デイヴィー会長に宛てて、今回の件について「緊急の説明」を求める手紙を送っていた。議員は、Nワードは「決して放送されるべきではなかった」と述べ、その放送は「つらく、許しがたい」ものだと批判した。
BAFTAは23日に声明で、今回の件が大勢を「傷つけた」ことを認めるとコメント。「起きたことに向き合い、全員に謝罪する」と述べた。
BAFTAはさらに、「式典の早い段階で、きわめて侮辱的な単語という形の、大きな音のチックを、会場の多くの人が耳にした。その時は、マイケル・B・ジョーダンとデルロイ・リンドーが舞台上にいた。私たちは2人に、そして影響を受けた全員に対して、無条件に謝罪する。マイケルとデルロイには、素晴らしい品位とプロフェッショナリズムに感謝したい」と述べた。
BAFTAは続けて、デイヴィッドソンさんが「本来は自分自身にとって祝いの場だったはずの会場で、品位と他者への思いやり」を見せたことにも感謝した。
授賞式の後にリンドーさんは、米誌ヴァニティ・フェアに対し、自分とジョーダンさんは壇上で特別視覚効果賞のプレゼンターとして「必要なことを」やり続けたものの、「後でBAFTAの誰かから、我々に話があったら良かったのにと思う」とも述べた。

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米映画ニュースサイト「デッドライン」は24日、ジョーダンさんとリンドーさんが出演する映画「罪人たち」を製作した米ワーナー・ブラザースの代理人が、差別語が叫ばれた直後にBAFTAに抗議したと伝えた。BAFTAはワーナー・ブラザーズに、懸念は確かにBBCを伝えられると約束したという。これについて「デッドライン」は、BAFTAにコメントを求めたという。
BAFTAは24日に会員に送った手紙で、「関係するスタジオ各社と連絡を取り合っていて、対話を続けている」と説明。「包括的な検証が進行中で、そのことを全会員に知ってもらいたい」とも書いている。

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トゥレット症の特徴的な症状に、チック症と呼ばれる、突然の、不随意で反復的な動作や発声がある。英慈善団体トゥレット・アクションによると、患者の10%~30%に、チック症の一つである、社会生活に不適切な罵倒語やわいせつな言葉を発する「汚言症」の症状がある。
英スコットランド・ガラシールズ出身のデイヴィッドソンさんは、トゥレット症について理解を広めるための啓発活動を行い、2019年には大英帝国勲章団員(MBE)の勲章を授与されている。今回受賞した映画「I Swear」の主人公として取り上げられ、BAFTA授賞式に出席していた。
会場では式典の前と最中に、デイヴィッドソンさんの叫び声が何回か聞こえた。
デイヴィッドソンさんは23日、「もし私の不随意なチックがわざとだとか、あるいは何らかの意味を持つと受け取られたのなら、あまりにもつらく申し訳ないことだと恐縮している」とコメントした。
「私は人生を通じてトゥレットのコミュニティーを支え、力づけてきた。そして他者からの共感、親切、理解を教えようと、取り組んできた。それはこれからも続ける」とも述べた。
さらにデイヴィッドソンさんは、「自分のチックが周りの人たちを動揺させていると気づいたので、式典の早い段階で会場を離れることにした」のだと説明した。
映画「I Swear」は、1980年代のスコットランドで、トゥレット症に苦しみながら成長したデイヴィッドソンさんの葛藤を描いている。
「I Swear」でデイヴィッドソンさんを演じ、主演男優賞に選ばれた英俳優アラメイヨさんはBBCに対して、「あれはチックだ。(デイヴィッドソンさんの)チックが出ているんだ。私たちがトゥレットをどう受け止めるか、それは全員の共同責任なんだと、みんな理解する必要がある」と話した。
「ひわいな暴言を叫んでいるのでも、罵倒しているのでもない。トゥレットであって、チックなんだ」
「もしトゥレット症とチックについて、理解が深まって、自分たちの映画がその会話の一部になるなら、それは本当にものすごいことだ」とも、アラメイヨさんは強調した。
慈善団体トゥレット・アクションのピッパ・マクルーナン広報担当はBBCニュースに対し、「こうした言葉は確かに、人を傷つけ、衝撃を与える。しかし、それと同じくらい、トゥレット症についての根本的な真実を、つまりチックは不随意なもので、その人の思考や信念を反映するものではないと、社会が理解することが本当に不可欠だ」と強調した。
「ジョン(・デイヴィッドソンさん)は毎日、このことに対応しなくてはならない。(中略)映画で描かれたように彼は、自分のチックに対する周囲の強い反発をずっと浴びて生きてきた」のだとも、マクルーナン氏は説明した。






