【解説】ネタニヤフ氏のガザ完全占領計画、イスラエル国民や友好国を分断

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ヒューゴ・バシェーガ中東特派員(エルサレム)
イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相が計画し、安全保障内閣が閣議で承認したパレスチナ・ガザ地区への新たな軍事作戦が、イスラエル軍上層部からの警告、人質の家族からの反発、そしてパレスチナ人の犠牲者増加への懸念へと広がっている。この計画については、イスラエルの国際的孤立を一層深める可能性があるとも指摘されている。
イスラエル内閣は8日未明、ガザ市制圧を承認した。これに先駆けてネタニヤフ首相は7日、米FOXニュースのインタビューで、イスラエルの安全保障確保のために。ガザ地区を完全に掌握すると発言していた。首相はこのインタビューでは、イスラム組織ハマスを排除した上で、文民統治を別の主体に移行させる考えを示したが、詳細については明らかにしなかった。
ネタニヤフ氏はFOXニュースに対し、「我々はガザを統治したいわけではない」と英語で述べ、「我々は統治機関としてそこにとどまりたいわけではない。アラブ諸国の部隊に引き渡したい」と語った。
ただし、どのような体制が想定されているのか、またどの国が関与する可能性があるのかについては言及を避けた。それでもこうした発言は、戦後のガザに関するネタニヤフ氏の構想を示唆する異例のものだ。
しかし現時点では、ネタニヤフ首相は軍事作戦の拡大を求めている。イスラエル軍がガザ地区の約75%を掌握していると主張する中、北部のガザ市や中部の難民キャンプでの作戦が想定されている。これらの地域には、約100万人のパレスチナ人が居住しており、人質もこの地域に拘束されているとみられている。
この作戦は数カ月に及ぶ可能性があり、大規模な住民の強制移動を伴うことで、現地の人道危機をさらに悪化させる恐れがある。
こうした動きに対し、ガザの状況に強い懸念を示し、イスラエルに対して約2年にわたる戦争の終結を求めてきた各国から、新たな非難が巻き起こる可能性がある。この戦争は、2023年10月7日に発生したハマスによるイスラエル攻撃を発端としている。
イスラエルの政治指導部と軍上層部の間にも、深刻な意見の相違があるようだ。イスラエルの複数メディアは、イスラエル軍参謀総長のエヤル・ザミール中将がネタニヤフ首相に対し、ガザの完全占領は「自らわなに向かって歩いて行き、わなにはまるようなものだ」と警告したと報じている。
報道によると、ザミール中将はこの軍事作戦が、生存しているとされる20人の人質や、疲弊したイスラエル兵の命を危険にさらすと警告したという。
人質の家族の多くも同じように懸念し、人質解放を確実にする唯一の方法は、ハマスとの交渉による合意だと主張している。
イスラエル紙マーリヴによると、全域支配作戦が実施されれば、人質を拘束している側が人質を殺すか、あるいはイスラエル軍の誤射が原因で、「生きている人質の大半、あるいは全員が死亡する可能性が高い」との見方が広がっているという。
イスラエルによるガザ地区での軍事作戦拡大をめぐる議論は、イスラエルに友好的な各国間の相違も浮き彫りにしている。
イギリスのサイモン・ウォルター駐イスラエル大使は、ガザ地区の完全占領は「重大な過ち」になるだろうと述べた。さらに、イギリスによるパレスチナ国家承認はハマスへの報酬だというイスラエルとアメリカの批判に、反論した。
一方、アメリカのマイク・ハッカビー駐イスラエル大使は、イスラエルがガザ地区を完全に掌握するかどうかはイスラエル自身が決めるべきことだと発言。BBCがアメリカで提携するCBSニュースに対し、「我々は、イスラエルに何をすべきか、すべきでないかを指示する立場にはない」と語った。
ネタニヤフ首相はこれまで、戦後のガザ地区に関する明確な構想を示していなかった。一方で、ヨルダン川西岸地区を統治し、イスラエルを承認しているパレスチナ自治政府による統治案も拒否している。
世論調査によると、イスラエル国民の大半は、人質の解放と戦争終結のためにハマスとの交渉による合意を支持している。
イスラエルの指導者らは、現時点でハマスが交渉に関心を示していないと述べている。その背景には、国際社会からイスラエルへの圧力が強まっていることにより、ハマスが勢いづいているとの見方がある。
ガザ地区の完全占領という脅威は、停滞する交渉においてハマスに譲歩を迫るための戦略の一環だという可能性がある。
しかしイスラエル国内では、ネタニヤフ首相が自身の連立政権の維持を目的として、意図的に紛争を長引かせているとの見方も広がっている。ネタニヤフ政権は、ハマスとのいかなる合意にも反対する極右閣僚の支持に依存している。極右閣僚たちは、ハマスとの一切の合意に反対し、合意するならば政権を離脱すると脅している。
極右政党「ユダヤの力」のイタマル・ベン・グヴィル国家安全保障相と、「宗教シオニズム党」のベザレル・スモトリッチ財務相は、ガザ地区からのパレスチナ人追放を公然と擁護しているが、これは民間人の強制移動に該当し、戦争犯罪にあたる可能性がある。また、両氏はガザ地区へのユダヤ人の再定住を主張している。
2023年10月7日にハマスがイスラエルに対して行った攻撃では、約1200人が殺され、251人が人質としてガザ地区に連れ去られた。
これを受けたイスラエルの軍事作戦により、ガザ地区ではこれまでに6万1000人以上のパレスチナ人が殺害されたと、ハマスが運営する保健省が発表している。













