イスラエル首相、「ガザ市全域支配」計画表明 治安閣議が承認

茶色い地面に灰色の廃墟と化した建物が並んでいる

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画像説明, 複数の建物が破壊されたガザの空撮写真(6日)

イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は7日夜、パレスチナ・ガザ地区での軍事作戦に関する方針について治安閣議で協議した。閣議は8日未明、ガザ市制圧を含む計画を賛成多数で承認した。ネタニヤフ氏は閣議に先立ち、イスラエルがガザ全域を支配する意向を表明していた。ハマスはこれについて、ネタニヤフ氏がガザに残る人質を「犠牲」にしてでも「個人的利益」を追及しているあらわれだと反発していた。

イスラエル首相府は閣議承認を受けて、ガザ市の占拠計画と「戦争終結のための5原則」を記した声明を発表した。声明によると、これらの原則は閣議で多数決により採択されたという。

声明は、「イスラエル国防軍(IDF)は、戦闘地域外の民間人に人道支援を提供しながら、ガザ地区の掌握に向けた準備を進める」としたうえで、「戦争終結」のための原則として以下の5項目を挙げている。

(1) ハマスの武装解除、(2) 生存者・遺体を含む全ての人質の返還、(3) ガザ地区の非武装化、(4) イスラエルによるガザ地区の安全保障管理、(5) ハマスでもパレスチナ自治政府でもない代替の文民政府の設置

声明は最後に、「閣僚の絶対多数が、閣議に提示された代替案ではハマスの打倒も拉致被害者の返還も達成できないと考えた」と結んでいる。

エルサレムで取材するヒューゴ・バシェーガBBC中東特派員は、ガザ市の完全支配というネタニヤフ政権によるエスカレーションについて、「イスラエル国内では、人質の命を懸念する家族たちを含め、大勢が反対している。さらにパレスチナ人の民間人がますます殺害されるという懸念もある」として、「この動きは、ガザの状況に国際社会が怒っている現状で、おそらくイスラエルをいっそう孤立させる」との見方を示した。

BBCアラビア語のモハメド・タハ記者は、ガザ地区の統治からハマスを排除するのは非常に難しいことだと指摘する。記者によると、イスラエル軍参謀本部は、ハマスをガザ地区から完全に駆逐するには、2年かかると分析しているという。

イスラエルのこの閣議に先立ち、ハマスは7日夕に声明を出し、ネタニヤフ氏が「ジェノサイド(集団虐殺)と(ガザ住民の)強制退去」というアプローチを継続していると主張した。

また、ネタニヤフ氏の行動は「交渉における明確な方向転換であり、(交渉の)最終段階から撤退した本当の動機を明らかにする」ものだと指摘した。

国連は、イスラエルがガザを全面制圧するようなことがあれば、パレスチナの民間人とイスラエル人の人質に「壊滅的な結果」をもたらす恐れがあると警告。イギリスのサイモン・ウォルター駐イスラエル大使は、計画は「大きな間違い」だと主張していた。

一方で、アメリカのマイク・ハッカビー駐イスラエル大使は、BBCがアメリカで提携するCBSのインタビューで、ガザを併合するかどうかはイスラエルが決めることだとしつつ、パレスチナ人は「強制的に追い出されるべきではない」と述べていた。

動画説明, ガザの空撮映像、破壊の様子が明らかに 英紙特派員が撮影

イスラエル軍幹部には異論も?

ネタニヤフ首相は閣議に先立ち7日、米FOXニュースのインタビューに応じた。「イスラエルはガザ全域を支配するつもりなのか」との質問に、「我々はそのつもりだ」と答えていた。

ネタニヤフ氏はさらに、ガザ全域支配は「我々の安全を確保し、(イスラム組織)ハマスを排除し、住民をガザ(ハマス)から解放するため。そしてガザを、ハマスや、イスラエルの破壊を提唱する者以外による文民政権へ引き渡すため」のものだとした。

ネタニヤフ氏はこの数日間で、ガザ全域の支配を決断したと報じられている。イスラエル国内の報道によると、ネタニヤフ氏はハマスとの停戦交渉が決裂したことを受け、ガザの全域支配が、ハマス壊滅と人質解放の唯一の手段だと考えている。

しかし、軍参謀総長や一部の閣僚はこの計画に反対していると報じられ、首相と軍幹部との間で緊張が高まっているとみられる。

IDFのエヤル・ザミール参謀総長は5日のネタニヤフ氏との協議で、ガザ支配は部隊を窮地に追い込み、人質をいっそう危険にさらすことになりかねないと伝えたとされる。そして、ガザの完全占領ではなく、ハマスの残りの拠点を包囲することによる代替案を提示したと報じられている。

ガザ支配計画の内容は

イスラエル軍は現在、ガザの約3分の2を支配しており、大半の住民はすでに避難を余儀なくされている。全域支配の計画が実行されれば、残りの地域にイスラエル軍が進軍し、さらに大勢が土地を追われることになる。

イスラエルがガザを支配するには、数万人規模の兵士を派遣する必要があると、イスラエル・メディアは報じている。

報道によると、この計画ではまずガザ市を完全に支配し、住民を南部へ移動させる。イスラエル部隊はガザ中部の難民キャンプや、人質が拘束されているとみられる地域も支配する。

そして、数週間後には、人道支援の強化と並行して、第2段階の攻撃が行われるとされる。

パレスチナ・ガザ地区で、イスラエル軍の占領下にあるか避難命令が出ている地域を示した地図。出典は国連人権問題調整事務所(2025年7月30日時点)。国連によるとガザ地区の87%が軍事化されているか避難命令が出ている

GHFの規模拡大と米大使

アメリカのハッカビー駐イスラエル大使はFOXニュースに対し、イスラエルとアメリカが支援する「ガザ人道財団(GHF)」の物資配給所の規模も大幅に拡大される予定だと語った。

5月下旬から、ガザにおける物資配給活動を行っているGHFをめぐっては、同団体が混乱を招き、食料を得るために飢えたパレスチナ人に危険な状況下での長距離移動を強いていると、国連や援助機関が強く批判している。

GHFが運営する4カ所の配給所やその周辺では、これまでに数百人が銃で撃たれて死亡している。ハマス運営のガザ保健省や目撃者たちは、イスラエル国防軍(IDF)に責任があると非難している。一方でIDFは、民間人を標的にはしていないと主張。群衆を後退させたり、脅威に対処するためにIDF兵が警告射撃を行ったのだと説明している。

動画説明, 元米特殊部隊将校、ガザの食料配給拠点で戦争犯罪を目撃したとBBCに話す

国境なき医師団(MSF)は7日、配給所周辺での暴力行為は体系的かつ組織的なものだと指摘。イスラエル当局に対し、GHFの活動を停止させ、商業品と人道援助物資の両方をガザへ輸送できるようにすべての検問所を開くよう求めた。

2023年10月から続く戦争により、ガザは人道危機に直面している。国連が支援する専門家グループは、食料消費の観点から、ガザは飢饉(ききん)の瀬戸際にあると指摘している。イスラエルがガザへの物資流入を厳しく制限していることから、深刻な物資不足にも陥っている。イスラエルは、ハマスを弱体化させるために物資を制限していると主張している。

世界保健機関(WHO)のテドロス・アダノム・ゲブレイエスス事務局長によると、7月に報告されたガザの子供の急性栄養不良の件数は、1カ月あたりの件数としては過去最悪だった。5歳未満の子供約1万2000人が影響を受けているという。

黒いスカーフを頭に巻いたパレスチナ人女性がガザ市で、水が入った容器を運んでいる。女性の右側にはがれきの山が、背後には廃墟と化した建物がある

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画像説明, ガザ市で水が入った容器を運ぶパレスチナ人女性(7月3日)

人質の家族は懸念

国連政治局の欧州担当事務次長ミロスラフ・イェンチャ氏は今週、ガザを支配するような動きは国際法に反しており、「深く憂慮すべき」事態だと述べていた。

ハマスに拘束されている人質の家族らは、こうした動きが、ハマスに人質を殺害させるきっかけになるかもしれないと、深い懸念を示している。

イスラエル首相官邸の外で、大勢の男女が夜間に抗議している。抗議者はたいまつを持ち、人質の顔写真を掲げて声を上げている

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アメリカのドナルド・トランプ大統領は5日、ガザを支配するかどうかは「イスラエル次第」だと述べた。

アメリカは数カ月にわたり、イスラエルとハマスの間接的な停戦交渉を仲介してきたが、2週間前に交渉は決裂した。トランプ氏は、ハマスは「本気で合意を望んでいない」などと非難している。

ハマスは2023年10月7日、境界を越えてイスラエルを攻撃し、約1200人を殺害、251人を人質に取った。イスラエルはこれを受け、ガザで軍事作戦を開始した。

ハマス運営のガザ保健省によると、それ以来、ガザでは少なくとも6万1158人が殺害されている。