世界の平均気温「1.5度」目標を超える日数、2023年は過去最多 工業発達以前からの上昇
マット・マグラス、マーク・ポインティング、ベッキー・デイル、ヤナ・タウシンスキ BBCニュース(気候科学チーム、データジャーナリズム・チーム)

画像提供, EPA
世界各国は、気候変動による深刻な影響を回避するため、世界の平均気温の上昇を工業発達以前に比べて摂氏1.5度に抑えようとしている。しかし、今年に入り、この重要な「境界値」を科学者が懸念するような速度で超えていたことが、BBCの分析で明らかになった。
今年に入り、世界の平均気温が工業化以前(1850~1900年)に比べて摂氏1.5度以上高くなった日数は、1年の3分の1ほどだった。
この値を長期的に下回ることが、気候変動による最も有害な影響を回避するうえで重要だと、広く考えらえている。
しかし、2023年は観測史上最も暑い年への「道を進みつつあり」、2024年はさらに暑い年になる可能性がある。
「かつてない水準に達しつつあるという印」だと、英サセックス大学のメリッサ・レイゼンビー博士は言う。
今回の調査結果は、世界各地で極端な暑さによる異常気象が相次いだ夏と、記録的な9月の気温を経てのもの。
2015年12月にパリに集まった各国首脳は、今世紀の長期的な世界的気温上昇を「2度よりかなり低く」抑えることで合意した。そして、その上昇分をできる限り1.5度にとどめるよう、全力を尽くすと約束した。
「1.5度」というのは、世界各国の工業化が本格化する以前、つまり化石燃料の大規模な使用が始まる以前、1850~1900年以前の世界平均気温と比べた気温を意味する。
パリ協定で決まったこの基準値を超えるとは、1日とか1週間とかの単位の話ではなく、20~30年にわたり平均的に超えることを意味する。
この長期的な平均気温の上昇幅は現在、摂氏1.1~1.2度の状態だ。
しかし、個別の日に上昇幅1.5度を越えることが増えれば増えるほど、世界は長期的な意味でこの基準値を突破することになってしまう。

現代においてこの現象が最初に起きたのは、2015年12月だった。各国首脳が「1.5度」について協定に署名していた、まさにその同じ月に数日、世界の平均気温上昇幅が、その基準値を超えた。
それ以来、基準値はたびたび突破された。ただし、それはいずれも短期間のことだった。
2016年には強力なエルニーニョ現象の影響で、「1.5度」の閾値(いきち)を計75日にわたり越えた。エルニーニョとは、世界の気温上昇につながる自然な気候の変化だ。
しかし、欧州連合(EU)の気象情報機関「コペルニクス気候変動サービス」のデータをもとに、2023年についてBBCが分析したところ、10月2日までの間に約86日、世界の工業化が本格化する前の時期の平均気温を1.5度以上越えていた。まだ年末に到っていないが、それでも2016年の記録を上回ってしまっている。
実際に今年、何日が「1.5度」の閾値を越えたのか、正確な数はあいまいだ。世界平均気温のデータには細かい食い違いが、たまにあるからだ。しかし、2023年の日数が2016年をかなり上回ったのは、はっきりしている。つまり、2023年が新記録を立ててしまったのは、かなり確実だ。
「1.5度の異常値が毎日のように出ていること、しかも日数が前より多いことは、とても心配だ」と、前出のレイゼンビー博士は言う。
気温上昇の異常値を引き起こしている要因のひとつが、エルニーニョ現象だ。2016年のピークほどではまだないものの、エルニーニョが発達していることは数カ月前に確認された。
エルニーニョが起きる諸条件によって、太平洋東部から大気へ熱が大量に送り込まれている。「1.5度」の異常値が6月~10月に記録されたのは2023年が初めてだが、長期的な化石燃料の燃焼に加えて、現在のエルニーニョがその要因になっているのかもしれない。
「北半球の夏にこの現象を確認するのは、今回が初めてで、とても特異なことだ」と、英レディング大学のエド・ホーキンズ教授は言う。「かなりショッキングな出来事だ」。
「オーストラリアに夏が迫る今、特にエルニーニョが発達しているだけに、どういう影響が出るのか、現地の研究者たちはとても心配している(たとえば極端な森林火災など)。

世界の平均気温の上昇幅が「1.5度」を越える日々は9月になっても続いた。工業化以前の平均を1.8度も超える日もあった。
「コペルニクス気候変動サービス」によると、9月全体の上昇幅は1.75度だった。そして2023年の世界平均気温はこれまでのところ1.4度、1850~1900年の平均気温を上回っているという。
2023年は記録史上、最も気温の高い年になりつつあるものの、12カ月を通じた世界全体の平均気温が、「1.5度」の閾値を越えるとは予想されていない。
関係する要因
世界の海洋は今年、かつてないほど水温が上昇しており、そのため大量の熱を大気に放出している。
米ウッドウェル気候研究センターのジェニファー・フランシス博士は、「北大西洋の海水温は、記録の上で最高となった。北太平洋については、異常な温水のかたまりが、日本からカリフォルニアまでつながっている」と話す。
温室効果ガスが平均気温を引き上げているのに対して、なぜ海水温が急上昇しているのかについては、正確な原因はまだ完全にはわかっていない。
未確定のひとつの説は、北大西洋を移動する海運が減り、それに伴い大気汚染が減少したため、微小な粒子が減り、温暖化が進んだのではないかと提起している。
空気中に浮遊する微小な液体及び固体粒子、つまり「エアロゾル」はこれまで、太陽エネルギーの一部を反射することで地球表面の冷却に部分的に貢献していた。
もうひとつ、エアロゾルの効果よりさらに知られていないのが、南極での状況だ。
世界で最も寒い大陸では、記録に残る過去のどの冬よりも海氷面積が減少しており、その状態について懸念が高まっている。
一部の専門家によると、南極の気温がここ数カ月で2回、自然変動を機に急上昇したことが、世界平均気温の上昇に寄与したのだという。ただし、長期的な人為活動による温暖化がどのように影響するか、正確に特定するのは難しい。
「7月初めに南極はとても暖かくなった。暖かいと言っても零下20~30度だが、それでも記録的な気温だった」と、独ライプツィヒ大学のカルステン・ハウスタイン教授は言う。
「1.5度や1.8度といった今の異常値は、南極がその要因の一部になっている」

北半球は秋から冬にかけて冷却化するが、工業化以前の平均気温との大きな気温の落差は、その間も続くかもしれないとの見方がある。特に、エルニーニョが年末から年初にかけて、ピークに達するかもしれないだけに。
高気温の異常事態がこうして相次いでいることに、各国首脳は気づいて目覚めてほしいと、多くの研究者が考えている。
11月には国連気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28)のため、多くの世界首脳がアラブ首長国連邦(UAE)のドバイに集まることになっている。
温室効果ガスの排出について、長期的な対策に限らない行動が必要だと研究者たちは言う。
今年3月に国連は、気候変動対策の加速を各国に求めた。再生可能エネルギーから電気自動車に至るまで、温室効果ガスの排出削減につながる効果的な選択肢はすでに、利用可能なのだからと。
「問題は、2050年までにネット・ゼロという最終目標に到達するかどうかの、それだけはなくて、いったいどうやってそこに到達するのかだ」と、前出のホーキンズ教授は言う。
「ネット・ゼロ」とは、温室効果ガスの排出量と吸収量のバランスをとり、正味の排出量をゼロにすること。
「国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、この10年間で温室効果ガスの排出量を半減しなくてはならないと言明している。その上でのネット・ゼロ達成だ。求められているのは、どこかの時点でネット・ゼロになればいいということではない。大事なのは、そこまでの道筋だ」
そして、欧州の熱波からリビアでの極端な豪雨に至るまで、世界各地で今年起きた数々の異常気象現象が示したように、温暖化がほんの少しずつ、摂氏1度の何分の一かごとに進むだけで、気候変動による打撃の程度は増していくのだ。











