国連、ロシアの人権理事資格を停止 ウクライナは兵器提供を呼びかけ

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国連総会は7日に開かれた緊急特別会合で、ロシアの国連人権理事会における理事国資格を停止する決議案を可決した。ロシアがウクライナ侵攻に際し、戦争犯罪を行った疑惑が浮上したことを受けたもの。
採決に先立ち、ウクライナのセルヒー・キスリツァ国連大使は、首都キーウ(キエフ)近郊のブチャなどで、ロシア軍が民間人を殺害した疑いに触れ、ロシアが「恐ろしい」虐待を行っていると非難した。
これに対し、ロシアのゲンナジー・クズミン国連次席大使は、決議は政治的なものだと批判した。
ウクライナではロシア軍がキーウ周辺から撤退した後、ブチャやボロジャンカといった近郊の村で激しい破壊の様子が明らかになっている。
同国のウォロディミル・ゼレンスキー大統領はフェイスブックに7日夜に投稿した国民に対する演説で、ボロジャンカの破壊はブチャよりもひどい状況だと述べた。
また、ウクライナのドミトロ・クレバ外相は同日、北大西洋条約機構(NATO)本部での記者会見で、向こう数日の軍事支援が重要との見方を示し、加盟国に兵器供与を呼びかけた。
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この決議にはアメリカ、イギリス、ウクライナ、欧州連合(EU)加盟国、日本など93カ国が賛成した。一方、ロシアや中国、北朝鮮、シリア、ベラルーシなど24カ国が反対票を投じた。
また、インド、エジプト、南アフリカなど58カ国が棄権した。残りの18カ国の代表は、「戦略的なコーヒー休憩」を取り、投票前に議場を去った。
ウクライナのクレバ外相は決議を受け、「国連の人権を守る機関に、戦争犯罪人の居場所はない。国連総会で決議を支持し、歴史の正しい側を選んだ国に感謝する」と述べた。
ゼレンスキー大統領もフェイスブックに投稿された動画の中で決議に言及。「ロシアには人権などという概念はない。いつかはそれも変わるかもしれない」と語った。
「だが現時点のロシア政府とその軍隊は、自由や人類の安全保障、人権という概念にとって地球上で最大の脅威となっている」
アメリカは決議を称賛
アメリカのジョー・バイデン大統領は決議を「たたえる」声明を発表し、「プーチンの戦争によってロシアが世界の嫌われ者になっていることを示すため、国際社会が意味のある一歩を踏み出した」と述べた。
また、ロシアが「大規模かつ組織的に人権を侵していることを」発見し、ロシアを人権理事会から排除するのにアメリカが一役買ったと述べた。
「ロシアが撤退した後に撮影された、ブチャを含むウクライナ各地の映像は恐ろしいものだ」
「人々が強姦され、拷問され、処刑された形跡があり、遺体が切断されたケースもあった。我々に共通する人間性に対する残虐行為だ」
「ロシアのうそは、ウクライナで起きていることの動かしがたい証拠の前では無意味だ」
アントニー・ブリンケン米国務長官も、この決議によって「間違いが正された」と述べた。
ロシアは「違法」と非難
これに対しロシア政府は、国連人権理事会での資格停止は、「違法」かつ「政治的動機」であると述べた。
ドミトリー・ペスコフ政府報道官は英スカイニュースの取材で、ロシアはこの決議を残念に思っており、「あらゆる法的手段を用いて」自国の利益を守り続けると語った。
人権理事会での資格停止は、2011年のリビアに続いて史上2例目となる。
BBCのイモージェン・フォルクス記者は、国連総会が、国連安全保障理事会の常任理事国に対しこのような厳しい態度を示したのは初めてだと指摘。
一方で、決議案自体は可決されたものの、実際に賛成票を投じたのは加盟193カ国中93カ国と半分にも満たず、決議をめぐって各国の思惑が分断していると報じた。
倒壊したアパートから26人の遺体=ボロジャンカ

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ウクライナのゼレンスキー大統領は7日、フェイスブックに投稿した動画演説で、ボロジャンカの破壊の様子はブチャよりも「さらにひどい状況」だと語った。
キーウで撮影された動画でゼレンスキー氏は、「ボロジャンカの崩壊を検分し始めている」、「さらにひどい状況だ。ロシア占領軍の犠牲者もさらに多い」と述べた。
キーウにほど近いブチャやボロジャンカでは、首都を狙うロシア軍との激しい戦闘が行われていた。
ウクライナのイリーナ・ヴェネジクトヴァ検事総長によると、ボロジャンカの倒壊したアパート2棟から、これまでに26人の遺体が発見されている。
検事総長は、ロシア軍が意図的に市民のいる地域を攻撃したと非難。
「ここには軍事施設はない。ロシア軍は市民が家にいる夕方を狙って住宅インフラを爆撃した」と述べ、「ロシア軍の戦争犯罪の証拠だ」と話した。
「ロシア軍は遺体をプロパガンダに」

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ゼレンスキー大統領は動画演説で、ロシア軍に占領されている南部マリウポリの状況にも言及。「ロシア軍がマリウポリで行ったことの真実を世界が知ったらどうなるか?」と問いかけた。
「ブチャを含むキーウ地域からロシア軍が撤退した時に世界が見た光景が、マリウポリではほぼ全ての道路で起こっている。同じ残虐性、同じ恐ろしい犯罪だ」
ゼレンスキー氏はその上で、ブチャでの民間人殺害に世界から非難の声が上がる中、ロシアはマリウポリでも「同じような措置」を取るだろうと指摘した。
「ロシアはマリウポリの犠牲者をロシア軍によるものではなく、街を守るウクライナによるものだと言うだろう。そのために、占領軍は道端の遺体を集めて運び出している」
さらに、これらの遺体が別の場所でプロパガンダに使われる可能性もあると述べた。
ゼレンスキー氏は動画の最後に、「勇敢であることはウクライナのブランドだ」と述べ、「もし世界中の人々がウクライナ人の1割でも勇気があれば、国際法に対する危険も、自由な国への脅威もなくなるだろう。私たちはこの勇気を広めたい」と語った。
さらに各国首脳に対し、ロシアへのさらなる制裁強化を要請。「最も厳しい制裁になり得る」のは、ウクライナへの兵器供給だと強調した。
残虐行為の証言
ロシア軍がキーウ周辺で行った殺人については、人権団体アムネスティ・インターナショナルも目撃者の証言などから確認を取っている。
同団体のアニエス・カラマール事務局長は、「ここ数週間、我々はロシア軍が超法規的な処刑や違法な殺人を犯した証拠を集めてきた。これらは戦争犯罪として調査されるべきだ」と述べた。
「証言からは、武器を持たないウクライナ市民が自宅や街中で殺されたことが明らかになった。言葉にならないほど残虐で、衝撃的な暴力だ」
キーウ東郊の村に住むある女性は、3月9日に家に入ってきたロシア兵2人に夫を殺され、銃を突きつけられて何度も強姦されたと証言した。その間、幼い息子は近くのボイラー室に隠れていたという。
ロシア軍が撤退した地域を取材しているBBCのジェレミー・ボウエン中東特派員の取材では、ウクライナ軍の反撃に備え、ロシア軍が市民を「人間の盾」にしたと話す住民もいた。
ロシア政府は一連の批判を一貫して否定しており、暴力行為の犯人は別にいると主張している。
NATOもロシアを糾弾、ウクライナ支援を確認

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NATOではこの日、外相会合が開かれた。ウクライナのクレバ外相も出席し、早急な支援が必要だと訴えた。
クレバ外相は、ウクライナが必要とする支援を西側が続けることが、NATO加盟国をロシアから守ることにもつながると指摘。NATO加盟国とウクライナの安全保障を守るには「とにかく兵器が必要だ」と訴えた。
「あなた方が今すぐ、数週間ではなく数日のうちにウクライナを助けなければ、多くの人が死ぬ。支援が遅れれば、多くの市民が家を失い、村が破壊される」
「ブチャの惨劇を防ぐには、どうやってこの戦争を終わらせるか話し合わなければならない」
NATOのイエンス・ストルテンベルグ事務総長も記者会見で、ロシアの戦争犯罪疑惑に触れ、「ブチャを含む、最近ロシアの占領から解放された地域での恐ろしい民間人殺害を強く非難する」と述べた。
また、責任者を法で裁く必要があるとし、NATO加盟国は国際的な調査を支援すると話した。
外相会合については、「軍事兵器をもっと供給する準備がある」と明確に表明し、「その緊急性を認識した」と説明した。
兵器の詳細には触れなかったものの、旧ソヴィエト連邦時代のものから現代の兵器まで、幅広くウクライナに供給していくと語った。
また、サイバーセキュリティー方面の支援も拡大していくほか、化学兵器や生物兵器での攻撃に対する防衛設備も供給する方針を示した。
一方で、ウクライナでの戦争が数カ月から数年にわたる可能性があると警告し、「長期戦」の準備が必要だと述べた。
NATOはこれとは別に、ジョージアやボスニアヘルツェゴヴィナといった同盟国の「耐久力と自衛能力を高める」ための支援も発表している。
ロシア政府報道官、「部隊を大幅に失った」と認める
ロシアのドミトリー・ペスコフ報道官は7日、同国軍がウクライナ侵攻で「部隊を大幅に失った」と認めた。
英スカイニュースの取材でペスコフ報道官は、ロシアが軍隊をキーウから撤退させ、多くの部隊を失ったこと、ゼレンスキー氏がなおウクライナ大統領にとどまっていることなどは、ロシアにとって「屈辱」に当たるのかと質問されると、そうした見解は「間違っている」と答えた。
しかし再度、部隊を失ったことについて聞かれると、「そうだ、我々は部隊を大幅に失った。大きな悲劇だ」と語った。
一方で、キーウ地域やチェルニヒウからの撤退は、和平交渉中の「緊張緩和」に向けた「善意の印」だと述べた。
インタビューの中でペスコフ氏は、ロシアが「特別軍事作戦」を行っているのは、ウクライナの「反ロシア」化や、NATOが「我々の国境を越えることへの深い憂慮」からだと繰り返した。
ロシアはこれまで、ウクライナ侵攻で兵士1351人が亡くなったと発表していた。実際の死者数は明らかになっていないが、米メディアは、NATO関係者の見方として7000~1万5000人の死者が出ていると報じた。アメリカ政府も同様の推測をしている。
和平案に「受け入れられない要素」=ロシア外相
こうした中、ロシアのセルゲイ・ラヴロフ外相は、ウクライナが提示した和平協定案に「受け入れられない要素」が含まれていると述べた。
ラヴロフ外相は、イスタンブールで3月末に行われたロシアとウクライナの和平交渉で提示された協定案を、ウクライナ側が修正したと説明。「この交渉能力のなさこそ、ウクライナの本当の意図を示している」と語った。
また、アメリカ政府がウクライナ政府をコントロールし、「ゼレンスキーに敵対行為を続けさせている」と主張。ロシアは交渉を続けるものの、自国の要求を強く求めていくと述べた。
ウクライナは、ラヴロフ氏の発言はプロパガンダだと反論。ラヴロフ氏は交渉に直接参加しておらず、ブチャでの出来事から世間の関心をそらそうとしていると指摘した。
ドニプロでは市民に避難を要請

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ロシア軍のキーウからの撤退に伴い、東部での戦闘が激化する懸念が高まっている。ドニプロのボリス・フィラトフ市長は、女性や子供、高齢者は今すぐ避難するべきだと呼びかけた。
動画での演説でフィラトフ市長は、「東部ドンバスの状況が悪化」しているため、市内の主要インフラに直接関わっていない市民は、西部の安全な場所に避難すべきだと説明した。
ウクライナ中部に位置するドニプロには現在、東部から避難してきた人々が大量に流入している。
ドンバスのルハンスクやドネツクでも、当局が同様の警告を発している。
東部ドンバスは今後どうなる?
ウクライナのクレバ外相は、今後予想されるドンバスでの戦いは、「第2次世界大戦の名残り」のようなものになるだろうと話している。
これについて英王立防衛安全保障研究所(RUSI)のニック・レイノルズ陸戦アナリストは、「正しい予想だ」と述べている。
「ウクライナ北部から部隊が全て解放され(中略)、欧州の地で何十年も起きていなかった、軍隊と軍隊のぶつかり合いが起こることになるだろう」
また、ロシア軍は北部からは撤退したものの、南部と東部では「ゆっくりとロシアの占領地域が増えている」と指摘し、この地域ではロシア側がなお勢いを持っていると解説した。
西側諸国からの武器提供については、ウクライナの状況を変えていることは確かだが、NATOは「備蓄している兵器の相当量を供給しており、その数は有限だ」と指摘。
今後数週間についても、西側の武器が「非常に重要になる」としつつ、どこから調達し、どうやって必要な場所に届けるかは分からないと述べた。
特に、対空ミサイル「スティンガー」や対戦車ミサイル「ジャヴェリン」は複雑なサプライチェーンを持つことから製造が難しいため、レイノルズ氏は、西側各国は需要への対応に苦慮しているとみている。









