ガザめぐる「ジェノサイド」訴訟、南アとイスラエルの主張と今後の見通し
ポール・アダムズ、BBCニュース

画像提供, Reuters
国連の最高司法機関である国際司法裁判所(ICJ)では11日から12日にかけ、「犯罪の中の犯罪」とされるジェノサイド(集団虐殺)をめぐり、力強い主張が飛び交った。
訴えを起こした南アフリカは、イスラエルがパレスチナ自治区ガザ地区の「破壊」を計画しており、「国家の最高レベル」が立案に当たったと述べた。
一方のイスラエルは、南アの主張には「根拠がない」と述べ、ジェノサイドを行った者がいるなら、それはイスラム組織ハマスだと主張した。
ICJの判事は今後、イスラエルがガザ地区での戦争において、「国民的、人種的、民族的、または宗教的な集団の全体または一部を破壊」しようとしたかを判断する。これは、1948年採択のジェノサイド条約での定義だ。
これほど深刻な問題も、そうはない。
昨年10月7日に始まった紛争をめぐり、両国は聞く者の強い感情をあおる主張を展開した。
イスラエル南部を襲ったハマスの攻撃では、民間人を中心に約1200人が殺害され、約240人が人質として連れ去られた。一方、ハマスが運営するガザ地区の保健省は、イスラエルの報復攻撃によって2万3350人以上が殺され、その大半が子供と女性だとしている。
南アが提出した訴状には、パレスチナ人の無差別殺戮(さつりく)からガザのインフラ破壊に至るまで、イスラエルが犯したとされる数々の容疑が含まれていた。
南ア側の弁護士の一人、アディラ・ハシム氏は、「この殺害は、パレスチナ人の生活の破壊以外の何物でもない」と述べた。
南ア側はまた、ガザ地区でのイスラエルの戦争はこれ以上続けてはならないと訴えた。
ブリナ・ニ・グラーリー弁護士は、「数世代にわたる家族がまるごと、消滅させられる」と警告。「そして、さらに多くのパレスチナの子供たちがWCNSF(生き残った家族のいない負傷した子供)になる。イスラエルの集団虐殺的な攻撃によって生まれた、ひどい新しい略語だ」と語った。

これに対しイスラエル弁護団は、南アの訴えを微細にわたり否定すると共に、強い感情を交えて反論した。
イスラエルは、行方不明となっているイスラエル人132人の写真を提示。そのほとんどは今も、ガザ地区で人質となっている。
「この画面に映っている人々には、保護されるべき価値がないなどという、何か理由はあるのか」と、イスラエル外務省のベテラン法務顧問、タル・ベッカー弁護士は述べた。
ベッカー氏らは、南アの提訴内容にも批判を向け、ジェノサイドを行った者がいるとするなら、それはハマスだと主張した。
「イスラエルに対するジェノサイドの申し立てという名目で、この裁判所は、実際にジェノサイドを企図している組織の現在進行中の攻撃に対する作戦の中止を要求している」と、ベッカー氏は述べた。
その上でイスラエル側は、アメリカや欧州連合(EU)、イギリスを含む41の国・組織からテロ組織として指定されているハマスを、南アフリカは支援していると非難した。
イスラエル弁護団のマルコム・ショー教授は、イスラエルを提訴した国そのものが、ハマスの共犯だと示唆するような陳述を展開。「南アフリカは、少なくともハマスに援助と支持を与えている」と述べた。
ICJがジェノサイドについて判決に至るには、数年かかるだろう。
南ア側は、自分たちの訴えを法律的に立証するのは、大変な作業だと承知しているはずだ。
ジェノサイドの証明は非常に難しい。ガザにおけるイスラエルの軍事作戦を実際に指揮していた者たちにその意図があったとする、説得力のある証拠を提示する必要がある。また、イスラエル国防軍の行動パターンについて、集団虐殺以外の理由では合理的に説明できないと示さなくてはならない。
覚えておかなければならないのは、この裁判はジェノサイドについてのみ取り扱うという点だ。ガザ地区で戦争犯罪があったのかどうか、さらに一部の人が疑っているような、イスラエルが民族浄化に関わったのかどうかは、審理の対象ではない。
パレスチナ人に加えられた苦しみをとらえた無数の映像に、大勢が恐怖を覚え、激怒さえしている。
だが、ガザ地区の人口の1%を殺害したことが、たとえ気の遠くなるほどの人数だとしても、イスラエルが「全体的あるいは部分的に」パレスチナ人を滅ぼそうとしたことを表すものだと結論づけるのとは、まったく別のことだ。
9項目の「暫定措置」
イスラエルは、「犯罪中の犯罪」とされるジェノサイドに関しては、自分たちは安全圏にいると感じているかもしれない。しかしイスラエルには、より差し迫った懸念がある。
南アはICJに対し、9項目の「暫定措置」を策定するよう訴えている。84ページに及ぶ提出書類の文言によると、「パレスチナの人々の権利に対する、これ以上の、深刻で回復不可能な被害から守るため」の措置を意味する。
暫定措置の最初の項目は、イスラエルに「ガザ地区内での、ガザ地区を標的とした軍事作戦の即時停止」を求めている。
これに従えば、イスラエルの軍事作戦を停止させることができる。
暫定措置についての判断は、数週間以内に出る可能性がある。ガザの政治的・軍事的勢力としてのハマスを壊滅させるという軍事目標を達成したとイスラエルが感じるよりも、はるかに前にのことになるだろう。
このためイスラエル弁護団は、「暫定措置」には法的根拠がないと主張した。イスラエルの手を縛る一方で、ハマスには行動の自由が残されているとし、南アフリカの「暫定措置」申請を取り下げようとした。
イスラエルはICJを嫌っている。また、国連全体が本質的にユダヤ国家に偏見を持っていると感じている。
しかし、イスラエルにガザでの大規模な暴力を止めるよう国際的な圧力が高まっている今、もしICJが暫定措置の発動に同意すれば、その圧力は増すばかりだとも理解している。
イスラエルは、必要だと思えばICJを無視する用意はある(そして、ICJには強制力はない)。しかしイスラエルはできることなら、法的議論に勝つ方がずっといいとも思っているのだ。










