ウクライナの新国防相に指名されたウメロフ氏とは クリミア・タタール人の中心的存在
カテリナ・ヒンクロヴァ(BBCワールドサービス)、ルース・コマフォード(BBCニュース)

画像提供, Reuters
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領が国防相の解任を決めたのは、汚職対策の一環だと主に受け止められている。しかし、ルステム・ウメロフ氏の登用は、ウクライナがクリミア奪還について真剣だという合図だ。クリミアは2014年にロシアに併合された。そしてウメロフ氏は、クリミア・タタール人のイスラム教徒なのだ。
オレクシー・レズニコウ氏は2021年11月からウクライナの国防相を務め、ロシアによる全面侵攻の初日から、ゼレンスキー氏の隣にいた。その後任は誰になるのか、さまざまな憶測がこの数カ月もの間、飛び交っていた。
レズニコウ氏自身が何かの不正にかかわったとされているわけではないものの、国防省にはびこる汚職を止めることができないと判断された。
軍用品の調達に関する不正疑惑や、募兵センターの担当官に対する収賄疑惑が相次いだことで、ウクライナ社会はレズニコウ国防相に冷ややかな目を向けている。そしてウクライナ社会は現在、反転攻勢の進展ペースが期待されていたよりも遅いという状況で、社会を活気づける何かを必要としている。
そこで、ルステム・ウメロフ氏の登場だ。
41歳のウメロフ氏はこの1年、ウクライナ国有財産基金のトップを務めていたが、ロシアと捕虜交換の交渉を成功させたことで有名になった。
まったくの無名ではなかったものの、特にマスコミの注目を集めていたわけでもない。家族がソヴィエト連邦によって追放された先のウズベク・ソヴィエト社会主義共和国(当時)で生まれたクリミア・タタール人で、自分の同胞の地位と文化的アイデンティティーを世界において再確立しようと、積極的に活動してきた。
ウクライナ人にとっては、汚職や横領や利権誘導などの不正を指摘されたことがない人物だというのが、何より大事だ。
ウメロフ氏の政界入りは2019年7月。改革派政党「ホロス」から最高議会(国会)に当選し、昨年9月に議会から国有財産基金のトップに任命された。
議員になる以前は民間で働いた。最初は通信業界で仕事をし、のちに通信技術やインフラへの出資を専門とする投資会社を創設した。
2013年には自ら立ち上げた基金で、ウクライナの若者を次世代のリーダーとして米スタンフォード大学で訓練を受けさせる慈善プログラムを発足させた。
そうしたなかでウメロフ氏は、クリミア・タタール人だという自分のルーツを重視。クリミア奪還というウクライナの断固たる目標の実現に、クリミア・タタール人が重要な役割を果たせるという姿勢を貫いてきた。
クリミア・タタール人とは
クリミア・タタール人は、クリミアがロシア帝国に併合される以前、クリミア半島を中心に先住していたテュルク系ムスリム住民を起源とする。第2次世界大戦ではナチス・ドイツとの協力を疑われ、ソヴィエト軍によって中央アジアに追放された。
1944年5月18日、計20万人超のクリミア・タタール人がいきなり強制移住を命じられた。荷物をまとめる余裕はほとんど与えられず、列車に押し込まれ、数千キロ離れたソヴィエト連邦領内に送られた。
当時のウズベクやカザフへ移送される最中、あるいはその直後に、数万人以上が死亡したとされている。
最高指導者ヨシフ・スターリン支配下のソ連では、クリミア・タタール人のほかにも、複数の民族グループが同様の扱いを受けた。そしてクリミア・タタール人は、数十年にわたり故郷への帰還を目指した。
ウメロフ氏の家族もスターリン政権によって追放され、同氏は1982年にウズベク・ソヴィエト社会主義共和国で生まれた。1980年代後半になると、ウメロフ氏の家族を含む多くのクリミア・タタール人がクリミア半島への帰郷を許された。
ウメロフ氏は長年にわたり、クリミア・タタール人の民族運動家でウクライナ議員のムスタファ・ジェミレフ氏の顧問を務めた。ジェミレフ議員は、クリミア・タタール人の代表機関「メジリス」の初代代表。ウメロフ氏は現在、民族自治組織クリミア・タタール民族会議「クルルタイ」の議員でもある。
ロシアによるクリミア併合の解消を目指してゼレンスキー大統領が2021年に立ち上げた国際的交渉枠組み「クリミア・プラットフォーム」でも、ウメロフ氏は幹部となった。
「クリミア・タタール人の追放は、ソヴィエト政権による最大の犯罪の一つだ」と、ウメロフ氏は2021年にウクライナのニュースサイト「Liga.net」に書いた。「当時の独裁者たちが、一つの民族をまるごと殲滅(せんめつ)するために始めたことだ」とも、ウメロフ氏は非難した。
ウメロフ氏はロシアによる2014年のクリミア併合を非難し続けると共に、同年クリミアで逮捕されたクリミア・タタール人数人の解放とウクライナ送還を求め、ロシア政府と交渉を続けた。
2022年2月に全面侵攻が始まって間もなく、ウメロフ氏はBBCに対して、「この残虐な侵略について政治的・外交的な解決法を何としても見つける」つもりだと話していた。
ゼレンスキー大統領は3日夜、テレビ中継された動画演説で、国防相交代を発表。国防省には「軍と社会全体との関係において、新しいアプローチやかかわり方が必要だ」として、新しい国防相としてウメロフ氏を承認するよう議会に呼びかけた。
クリミア奪還のための総力戦はまだしばらく先のことかもしれない。ウクライナは2014年以前の国境の回復を目標としているが、クリミア奪還が含まれるこの目標は非現実的だという意見も一部にある。
しかし、ゼレンスキー氏はその目標実現に向けて中心的な役割を果たすことになるポジションに、クリミア・タタール人を据えることにした。そこには明確なメッセージが込められている。つまりウクライナ政府の目指す最終目標は、まさにそこにあるのだと。









