トランプ前大統領を起訴――ジャック・スミス特別検察官はどんな人物か
サム・カブラル、BBCニュース(ワシントン)
彼がいま担当しているのは、アメリカの前大統領による二つの刑事事件だ。しかし、ジャック・スミス特別検察官(54)が重大事件を取り扱うのは、決して初めてではない。
この20年間というもの、スミス検事はアメリカ内外の政府関係者による犯罪を追及してきた。とはいえ、常に有罪判決を獲得できたわけではない。
米司法省に昨年11月、ドナルド・トランプ前大統領への捜査責任者になるよう任命されて以来、ベテラン検事のスミス氏は、あえて目立たず、水面下で動いていた。
その任命を発表した際、メリック・ガーランド司法長官は、「公明正大に、かつ緊急性をもって、この事案を完了させるために正しい選択」だと、スミス検事を評した。
他方、トランプ前大統領はスミス検事を「狂人」と呼び、自分に対する「政治的魔女狩り」を率いているのだとしている。
スミス氏は特別検察官として、トランプ前大統領を2回起訴した。2020年大統領選の結果を覆そうとしたとされる事件と、機密資料を不正に取り扱ったとされる事件での違法行為40件についてだ。
3日には首都ワシントンの連邦地裁で、前大統領の罪状認否が行われた。スミス氏は、前大統領から約6メートル離れた列に座っていた。2人は目線を交わしたように見えた。
捜査対象の相手と同様、ジョン・ルーマン・スミス検事もニューヨーク出身だ。
米ハーヴァード・ロー・スクールを卒業し、1994年にニューヨーク州マンハッタン地区検察官事務所で、地方検事補として働き始めた。その5年後にはニューヨーク州東部地区の連邦検察官事務所に異動し、ニューヨーク市ブルックリンを拠点に、ギャング事件やホワイトカラー詐欺事件、警察汚職事件などに取り組み頭角を現した。
AP通信によると、かつて家庭内暴力事件で女性の証言を求めるため、その女性を説得しようとアパートの廊下で週末を過ごしたことがあるという。
ニューヨーク連邦地検では、ニューヨーク市警の警官がハイチ移民男性アブナー・ルイーマさんをほうきの持ち手で性的に暴行した、悪名高い事件の捜査に加わった。
この事件捜査での働きが評価されたことがやがて、トランプ前大統領を操作する特別検察官に任命される一因となったのだと、米紙ニューヨーク・タイムズは書いている。

画像提供, Reuters/ Jane Rosenberg
2008年にスミス検事はオランダ・ハーグへ向かった。国際刑事裁判所(ICC)の若手検事として、戦争犯罪の捜査調整を担当した。
その2年後に司法省に戻ると、公職者による汚職や不正選挙といった連邦法違反事件を起訴する「公職健全性部門(PIN)」の責任者となった。
AP通信による2010年のインタビューでスミス検事は、自分のこの転職について「より良い仕事に就くため、夢の仕事」を離れたのだと話している。
しかしスミス氏が加わった当時のPINは、上院議員の汚職裁判で検察が重要証拠を隠していたことが判明して司法省は公訴棄却に追い込まれるという、2009年の大失態からようやく立ち直りつつある状態だった。
スミス検事はPINでまず、長年調べてきたが起訴に至らない複数の連邦議員への捜査を打ち切ることから始めた。他方、精力的に推進した事件もある。
在任中にPINはヴァージニア州のボブ・マクドネル元知事(共和党)を収賄罪で起訴したものの、連邦最高裁は2016年に収賄と便宜供与の定義が広範すぎるなどとして、全員一致で逆転無罪にした。
PINは民主党の副大統領候補にもなったジョン・エドワーズ上院議員を、選挙資金法違反などの疑いで起訴したものの、罪状1件については無罪評決、別の罪状については評決が出ず、結局エドワーズ氏は二度と起訴されなかった。
有罪に至らなかったこうした事例を取り上げて、トランプ前大統領はスミス検事が「大勢の人生を台無しにしてきた」と批判している。さらに、内国歳入庁(IRS)係官が保守派組織を税務調査で狙い撃ちしていたとされる問題で、下院の共和党が調査の一環として2014年にスミス検事に事情を聴いていたことも、トランプ前大統領は攻撃材料にしている。
「本当にひどいことばかりしてきた男だ」、「権力の乱用だ。検察による不法行為だ」と、前大統領は保守派サイトでスミス氏を非難した。
他方でスミス検事は、2015年にニューヨーク州議会のシェルドン・シルヴァー議長(民主党)を汚職の罪で起訴する(2016年に実刑判決、2020年に確定)など、多くの注目事件で政治家や公職者を起訴し、有罪評決も獲得している。
2013年にはアリゾナ州選出のリック・レンジ元下院議員(共和党)も汚職で起訴し、有罪にしている。トランプ前大統領は後にレンジ氏に恩赦を与えた。
2015年になると、スミス氏は家族の近くにいられるようにと、テネシー州ナッシュヴィルにある連邦地検に異動した。
2017年にトランプ政権が発足すると、無期限雇用ポストが得られなかったため、民間の医療サービス会社に転出した。
2018年にはハーグへ戻り、コソヴォ紛争での戦争犯罪を裁く特別法廷の首席検察官となった。
ガーランド司法長官が、ワシントンに戻り特別検察官となるようポストを提示したとき、スミス氏率いるチームはコソヴォのハシム・サチ元大統領の審理を準備していたところだと、ニューヨーク・タイムズは伝えた。
司法省には戻りたかったものの、スミス検事は当時、自転車事故で負傷した左脚の手術から回復している最中だった。そのため、アメリカに帰国したのは2021年1月になってからだった。
スミス氏が自転車に乗っていて大けがをするのは、これが2度目だった。2000年にはトラックにあてられて骨盤を骨折。理学療法のリハビリに通うことになったと話している。
自転車に乗るのと同じくらい走ることもにも熱心で、2002年以来、トライアスロンを100回以上完了している。ワールド・トライアスロンにアメリカ代表として出場したこともある。
友人で元同僚のモー・フォードマン弁護士は昨年、CNNに対してスミス氏について、「とてつもない」トライアスロン選手で、「裁判であれほど優れた弁護士を他にほとんど知らない」と話していた。
「自分が脅されてひるむような人間だったら、『この事件は起訴すべきだ。だれが犯人かわかっているんだし。でも負けるかもしれない。そうしたらみっともない』とか、そんな風に考える人間だったら、そもそもこの仕事をしていない」。スミス氏は2010年のインタビューで、ニューヨーク・タイムズにこう話している。
「自分と同じ仕事をしている人間や、自分と一緒に仕事をしたことのある人間が、そんなことを思うなど、想像もつかないことだ」













