【寄稿】中国の極超音速ミサイル試験、新たな軍拡競争なのか

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中国が核弾頭を搭載できる極超音速ミサイルを試験発射していたとのニュースは、世界の軍事情勢を一変させるもので、アメリカ当局に衝撃を与えたとも言われている。いったいどれほど大きな影響があるのか。英エクセター大学戦略・安全保障研究所のジョナサン・マーカス名誉教授が検討した。

中国軍は今年夏に2回、ロケットを宇宙に打ち上げた。地球を周回し、目標へと高速で降下した。
打ち上げについて、英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)が今月16日、最初に報じた。打ち上げの報告を受け、同紙の取材に応じた複数の関係者によると、1回目は目標から約40キロ外れたところに落下したという。
アメリカの政治家やコメンテーターらの一部は、中国の技術力の進歩に警戒感を示した。ただ中国は報道内容を否定。再利用可能な宇宙船の試験だったと主張している。
中国がこうやって否定したことについて、米カリフォルニア州モントレーにあるミドルベリー国際問題研究所の東アジア不拡散プログラムディレクター、ジェフリー・ルイス氏は、「ごまかし行為」だと言う。米当局がFTの報道内容は正しいと、他メディアの取材に対して認めているからだ。
ルイス氏はまた、中国が部分軌道爆撃(FOB)システムの試験をしたとする見方について、「中国にとっては技術的に妥当で、戦略的に合理的なものだ」とする。
FT報道と中国の否定のどちらも正しいということもあり得ると、米フィラデルフィアにある外交政策研究所のリサーチディレクター、アーロン・スタイン氏は話す。
「再利用可能な宇宙船は極超音速滑空体だ。それが着陸した。何らかの滑空体で運ばれたFOBシステムは、再利用可能な宇宙船とほぼ同じ役割を果たす。つまり、両者の言っていることはほとんど違わない」
確かに、米当局の高官らはここ数カ月、中国の今回のような技術開発についてほのめかしていた。


FOBシステムは、決して新しいものではない。
冷戦時代、ソヴィエト連邦が開発に取り組んでいたもので、それを中国が現在、復活させている様子だ。地球の部分軌道(低軌道)に兵器を投入し、相手が予期せぬ方向から標的を攻撃するというものだ。
中国は今回、FOBシステムの技術と極超音速滑空体を組み合わせ、新たなシステムにしたと思われる。極超音速滑空体は、大気圏の外縁を滑空し、レーダーやミサイル防衛を避けるのが特徴だ。
しかし、どういう理由からなのか。
「アメリカが現代化した核兵器とミサイル防衛を組み合わせ、中国の核抑止力を骨抜きにするのではないかと、中国は恐れている」とルイス氏はみる。
「アメリカが選択肢の1つとしている中国への先制攻撃を実施するとしたら、中国に残る少量の核兵器は、アラスカのミサイル防衛システムで対応できるだろう」
主な核保有国はすべて、極超音速システムの開発を進めているが、考え方は異なると、前出のスタイン氏は話す。そうした観点の違いが、他国の疑心暗鬼を強め、軍拡競争をあおっていると、同氏は主張する。
中国とロシアは共に、極超音速システムについて、ミサイル防衛を打倒するものだと考えていると、スタイン氏はみている。それに対してアメリカは、核兵器司令系統などのいわゆるハードターゲット攻撃に、極超音速システムで通常弾頭、つまり非核弾頭を使うことを計画している。

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アメリカは急いで核兵器を現代化すべきだと訴える人たちの何人かは、中国が試験を実施している最近状況を「スプートニク的瞬間」だとしている。1950年代後半にソ連が最初の人工衛星を軌道に飛ばし、アメリカが驚きと警戒を覚えたことに触れたものだ。
しかし、専門家の中にはそうした見方に異を唱え、中国の今回の試験は脅威を生み出してはいないと考える人もいる。米カーネギー国際平和財団のジェイムズ・アクトン氏は、アメリカが中国の核攻撃にもろい状態は、遅くとも1980年代から続いていると述べる。
そして、中国、ロシア、北朝鮮が、アメリカのミサイル防衛に勝とうと熱心に取り組む中、ミサイル防衛を制限する現在の条約体制が果たして国益にかなっているのか、アメリカが再検討するきっかになるだろうと話す。
ミドルベリー国際問題研究所のルイス氏は、いま大事なのはアメリカが正しい結論に至ることだと強調する。
「今回は9/11にかなり似ていると感じる。当時アメリカは衝撃を受け、自分たちの弱点への気づきと恐怖が入り混じった状態で、大きく揺らいでしまい、その状態で一連の破滅的な外交を推し進めた。当時そうやって突き進んだ外交のせいで、アメリカの安全はいっそう脅かされてしまった」
「当時アメリカがしたことの1つが、弾道弾迎撃ミサイル制限(ABM)条約からの脱退だった。そして中国は何よりそれが原因となって、今回のシステム開発に臨んだ」
アメリカの仮想敵各国は、核兵器を現代化させ、性能をアップさせようとしている。
中国の兵器はアメリカと比較すると、まだかなり小規模だ。だが中国は、アメリカのミサイル防衛と、従来型の長距離精密攻撃システムに対して懸念を抱いており、より大規模かつ多様な核兵器の開発を進めている。
北朝鮮も核攻撃能力を現代化させ、洗練させようとしている。カーネギー財団のアンキット・パンダ氏は、特に将来の外交においてより大きな力を得る目的が、北朝鮮側にあると説明する。
「ここ数年、北朝鮮はアメリカに対等な扱いを求めている。そして、アメリカから尊敬を獲得する手段のひとつが、先進的な核兵器とミサイル能力の確保だと考えている」

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こうしたことから、ジョー・バイデン米政権にとって、核兵器をめぐる頭痛の種は増え続けている。
冷戦時代の遺物となっていた各種の軍縮協定が崩壊したことも、状況を悪化させている。ロシアと中国の両方との間で緊張が高まっていることも、同様にマイナスに働いている。
パンダ氏は、現在の軍拡競争緩和のためにアメリカが打てる最も有効な一手は、冷戦下でそうしたように、戦略ミサイル防衛の制限について協議することだと言う。
「ミサイル防衛を協議の対象とすることで、アメリカはロシアと中国から有意義な譲歩を引き出せるようになる。さらに、費用がかかり複雑で危険な、核兵器発射手段の開発から手を引くよう、ロシアと中国を説得できるようにもなる」









