感染抑制してきたアジア・太平洋地域、出口戦略に苦戦

アンドレアス・イルマー、フランシス・マオ

Closed shops in Asakusa district in Tokyo

画像提供, Reuters

画像説明, 日本はパンデミックが始まって以降、感染者を低く抑えることに成功してきた

オーストラリア、ニュージーランド、シンガポール、ヴェトナム、日本、香港、韓国、台湾。

アジア・太平洋のこれらの地域はかつて、新型コロナウイルスのパンデミック対応で称賛されていた。中には、世界最高峰の対応と言われているところもある。

この地域では大なり小なり、厳しいロックダウンや感染者の追跡調査といった積極的な政策を通じて、2020年のうちに感染抑制に成功した。その手法は後に、世界中が真似るようになった。

しかしパンデミックが2年目に入った今、この地域は新たな問題に直面している。強力な変異株が防壁を破り、いくつかの国・地域ではパンデミック以降で最悪のアウトブレイクが起きている。

一方、世界のその他の地域はワクチン接種事業によって一気に前進しているようで、ロックダウンからの脱却を徐々に始めている。新型ウイルス封じ込めに成功していたアジア・太平洋地域は現在、感染者ゼロ政策からの確実な出口戦略がないと批判を受けている。

当初の成功

まず、これらの国・地域がパンデミック初期にどのような成功を収めていたのかを見てみよう。下の地図では、他の大半の国々に比べて感染者数が非常に低いことが見て取れる。

Map of region graphic
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この8カ所では、新型ウイルスが最初に侵入してきた際にとった入国・入域禁止が、手段として最も効果的だった。多くの地域が島にあり、管理が比較的簡単だったのもある。

多くの地域は入国・入域をほぼ全面的に禁止するか、長いホテルでの隔離を求め、ウイルスが世間に広がらないようにしている。

最も厳しかったのはオーストラリアだった。インドで流行の第2波が起きていた時は、ウイルスの侵入を恐れて自国民の帰国すら禁止していた。

それでも国内で感染が報告された時には、迅速かつ念入りに濃厚接触者の追跡を行い、感染拡大を食い止めた。

パンデミック以前から有効な警察監視システムが威力を発揮していたシンガポールも、感染の流れを素早く断ち切ることがいかに効果的かという好例だった。

オーストラリアは、州都でたった1件でも感染報告が出れば短期間のロックダウンに踏み切った。こうしたロックダウンは6都市で計8回行われた。

こうした政策はやりすぎのように見えるかもしれないが、実際に奏功し、感染者のいない安全圏を作り出した。流行の第1波による大規模なロックダウンの後、これらの都市はほとんどこれまで通りの生活に戻ることができた。

ニュージーランドはどこよりも早くロックダウンに踏み切った国のひとつで、感染者ゼロを達成した最初の国でもある。2020年6月には、社会的距離を保つ施策のほぼ全てを解除している。

その他の地域も感染者数は低く推移し、国内での封じ込め政策を緩和していた。

そして2021年のアウトブレイクへ

しかし強力な変異株の登場に、気の緩みや制限の緩和が加わり、5月以降はこれらの地域でも感染がわずかに拡大した。

図表2
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最も感染が拡大したのは台湾とヴェトナムで、新型ウイルスの流行の波をまともに受けてしまっている。

台湾では、旅客機のパイロットに対する隔離ルールを緩和したところ、急激なクラスター感染が発生した。ヴェトナムでは、感染力の強い変異株がクラスター感染を複数発生させ、集会などでさらに悪化した。

韓国と日本は、その数カ月前から新たな流行の波に見舞われ、危機感が募った。日本では特に、7月末から開催予定のオリンピックへの懸念が高まっている

People stage a demonstration against Tokyo Olympics in front of the Tokyo Metropolitan Government

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画像説明, 東京では、五輪中止を求めるデモも行われている
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しかしいずれの地域でも、この感染の波は半減している。これまで厳格なロックダウンに踏み切ったことのない韓国では、徹底的な追跡と一般市民の努力が感染を再び抑えたと専門家が指摘している。

図表3
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シンガポールや香港、オーストラリアでも小規模なアウトブレイクが確認され、当局が即座に対応している。メルボルンは2週間のロックダウンに踏み切ったほか、シンガポールでも4週間の部分的なロックダウンが行われた。

ワクチンでつまずく

しかし、最近のアウトブレイクを従来の信頼できる方法で押さえ込んだものの、れらの地域は厳しい現実を突きつけられた。

ウイルスの侵入を防ぐことには成功していても、ワクチン確保では成功したとは言えないからだ。

世界中がワクチン確保に苦労しているが、パンデミックで大きな被害を受けた国ほど、経済に余裕があればワクチン事業を迅速に進めた。一方で、感染率を低く抑えていた国は、市民に行き渡るだけのワクチン確保について、のんびりしていて対応が遅いように見える。

AstraZeneca vaccine

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画像説明, これらの国々は欧米諸国と比べ、ワクチン接種で大きく遅れを取っている
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たとえばアメリカや欧州では、すでに人口の半分近くがワクチンを接種した。南米諸国も数百万回分がすでに使用された。これらの国のワクチン接種率は徐々に、ウイルスが出回っていても行動制限を解除できるレベルにまで達しつつある。

感染の押さえ込みに成功していたアジア・太平洋地域では、様子が違う。

ワクチンを接種した人数はどこも、人口の4分の1以下に留まっている。オーストラリアや日本、ニュージーランド、そして台湾といった裕福な国でも。ワクチンの確保しやすさ、あるいは確保しにくさという意味では、欧米と事情がそう違わなさそうなのだが。

各国の住民の一部には、ワクチンを忌避する人たちもいる。香港や台湾では保健当局を信頼しなかったり、ワクチンの安全性を疑問視する声があり、接種事業をさらに遅らせている。

ワクチン接種率
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シンガポールだけが例外で、これまでに人口の42%が少なくとも1度の接種を終えている。

しかし同国の人口はたった500万人なので、インドの2億5000万回分に比べれば、実際に使用されたワクチンは少ない。

出口戦略とは?

COVID-19が風土病となりつつある中、そこから抜け出すにはワクチンしかない。

しかし集団免疫が獲得されるまで、これまで感染を抑え込んできたアジアのスターたちは、国境封鎖、ロックダウン、社会的距離といった厳しい制限の緩和をためらっている。

オーストラリア政府が2022年半ばまで国境を封鎖し続ける可能性があると述べたとき、市民の間ではいつまで「隠者の王国」でいるのかと議論が巻き起こった。

国境開放のめどは立っていないものの、慎重に段階を踏んで制限を解除していくという話は出ている。「安全な」国々と「旅行安全圏」を形成する議論も行われている。

A plane carrying mask-wearing passengers between Sydney and Adelaide in 2020

画像提供, Getty Images

画像説明, アジアでは、安全な国々と「旅行安全圏」を形成するアイデアも出ている。写真はシドニー・アデレード間を運航している飛行機の様子
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香港とシンガポールは、直近のアウトブレイクが起こる前まで、旅行安全圏を作る計画について協議していた。

共にほとんど感染報告がないオーストラリアとニュージーランド間では、すでにこうした航路が開かれている。ただし、感染が多発した場合にはいつでも、行き来を禁止するとしている。

専門家からは、世界中に新型ウイルスが蔓延(まんえん)している中で本当に国境を開くには、「感染者ゼロ」という非現実的な考え方を捨て、ウイルスと「共存する」方向に向かうべきだという警告も出ている。

市民は明確な出口戦略を望んでいる。段階的な目標設定と迅速なワクチン接種事業の両輪だ。しかし今やそれこそが、この地域では欠けている。