【米大統領選2020】 勝者は裁判で決まるのか

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米大統領選では、民主党候補のジョー・バイデン前副大統領が勝利する道筋がいくつかあるが、共和党候補のドナルド・トランプ大統領は開票結果をめぐり主要4州で裁判を起こし、これに対抗している。これからどうなるのか?
トランプ陣営は根拠を示すことなく、投票で不正があったと主張。ペンシルヴェニア、ウィスコンシン、ジョージア、ミシガンの各州で続いている開票作業の打ち切りを望んでいる。
これは何を意味するのか? 法廷闘争が長引く場合は何が起こるのか? 法律の専門家に聞いた。

もう結果が出ているはずでは?
どちらとも言えない。通常は、各種データから候補者の1人が逆転不可能なリードを確保したみられる場合、米主要メディアがその候補者の勝利を宣言する。投票日翌日の早い時間に行われることが多い。
これは公式の最終結果ではなく予測だ。公式の最終集計が出るまでには常に、何日かかかる。
今回は大量の郵便投票により、開票作業が長引いている。激戦州のいくつかが投票日前の開票を認めなかったことが、事態に拍車をかけた。
そうした州では、投票日に開票を開始した。郵便投票には開封と認証作業が必要なため、投票所で直接入れた票よりも集計に時間がかかる。
あまりに僅差で勝者が決まらず、どの候補者も負けを認めない場合は、開票作業が続行するのが通常のことだと、超党派政策調査センターの選挙プロジェクト担当、マシュー・ワイル氏は話す。

投票前から障害が
今回の選挙については、投票日前からは大量の訴訟が相次いでいた。
3日の投票日までに、郵便投票や期日前投票に関して、44州で300件以上の訴訟が提起された。
争点は、郵便投票の投函や受け付けの締め切り日や、証人の署名、封筒などさまざまだ。
共和党が州政府や州議会で主導権を握る州では、投票の不正を抑制するために、こうした規制は必要だと主張。
この一環で、郵送票などの開票を投票日前に開始できるよう州法の改正が持ち上がった複数の州で、これが却下された。一部の州で出ている開票作業の遅れには、これが関係している。
民主党は、共和党側の一連の動きは公民権行使を妨害する動きだと批判している。

トランプ陣営の提訴
○ウィスコンシン州
トランプ陣営は3日に「異常事態が見られた」として、ウィスコンシン州で再集計を求めている。
再集計がいつ行われるのかは明確ではない。通常は、郡当局が票の確認を終えてからとなっている。同州はこの作業を17日までに終えるよう定めている。
コロンビア大学法科大学院のリチャード・ブリフォルト教授は、2016年にもウィスコンシン州で再集計があった際には「約100票が変わった」と話す。
「再集計は、投票の合法性を争うための手段ではない」と同教授は言う。「文字通り、集計が正しいことを確認するための手段だ」。
○ミシガン州
トランプ氏は前回大統領選で、ミシガン州をわずか1万700票の僅差で制した。トランプ陣営は4日、同州の開票作業の打ち切りを求めて提訴すると発表した。ただ、地元選挙当局はすでに、96%の集計を非公式に終えている。
数千票が未開票だが、その多くは伝統的に民主党が強い地域の票とされる。米メディアとBBCは、同州ではバイデン氏が勝利すると予想している。
○ペンシルヴェニア州
ペンシルヴェニア州では、投票日の消印が押されていれば、最大3日後に届いた郵便投票を集計するとした同州の決定が主な問題となっている。共和党はこれを不服としている。
超党派政策調査センターのワイル氏は、連邦最高裁が選挙前にこの問題をめぐり紛糾(ふんきゅう)したのが何より懸念されると話す。選挙前の最高裁判断には、着任したばかりの保守派エイミー・コーニー・バレット判事は関わらなかった。
「選挙前の最高裁判断では、一部の判事が反対意見の中で、選挙後に再検討したいと意欲を示した。そのため、投票日に投函されて金曜日(6日)までに届かなかった郵便投票の一部が廃棄される恐れはあると思う。それは間違った結果だと思うが、法的にはあり得ると思う」
ただ、この問題が影響するのは、選挙が「とてつもない接戦」になった場合だとワイル氏は言う。州当局は投票日前に、不在者投票を郵送せず投票所に持ち込むよう有権者に呼びかけていたため、「たとえ廃棄される票が出ても、それほど大量なものにはならないだろう」と、ワイル氏は見ている。
コロンビア大のブリフォルト教授も、期日後に届いた投票は、ほかの票とは別に開票されていると指摘。仮にバイデン氏が、そうした票を足さずに勝利できる場合、法的闘争の根拠はないとする。
しかし、トランプ氏は100万票以上が未開票の状況で、同州での勝利を宣言している。米主要メディアはまだ、同州の勝者を予想していない。

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○ジョージア州
ジョージア州の共和党とトランプ陣営は、同州チャタム郡での開票作業を停止するよう提訴した。不在者投票の処理に問題があると主張している。
同州共和党トップのデイヴィッド・シェイファー氏はツイッターで、女性が「未集計の不在者投票の山に50票を加え入れた」のを、同党の監視者らが見たとした。
トランプ氏側は、3日の投票が締め切られた後に届いた同郡の票を無効とするよう、裁判所に求めている。

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最高裁まで行く?
トランプ氏は4日未明、証拠を示さずに投票で不正があったと主張。「我々は連邦最高裁に訴える。全ての投票を終わらせたい」と述べた。
投票はすでに止まっている。投票所は投票日に閉じられた。ただ、ペンシルヴェニア州のように、期日後に届く票をどうするかの問題がある。
ワイル氏は、「合法的な開票作業を停止させる特別な権限は、最高裁は全く持っていない」と言う。
ブリフォルト教授も、重要州での接戦に対しては陣営が争うかもしれないが、訴えが最高裁まで行くには、「憲法上の問題点を指摘する必要がある」と話す。
「選挙上の係争を最高裁に持ち込むための、標準手続きはない。かなり珍しいことで、大問題に関するものでなくてはならない」
選挙結果が争われた場合、まず州裁判所に訴える必要がある。州裁判所が訴えを認め、再集計を命じて初めて、その決定の撤回を求めて、連邦最高裁に訴えを起こすことができる。
一部の州では候補者の得票差が少ない場合、自動的に再集計が進められる。2000年にフロリダ州の再集計をめぐり、再集計を止めようとするジョージ・W・ブッシュ氏(共和党)と、続行させようとするアル・ゴア氏(民主党)が、最高裁まで争った大統領選を思い出す人もいるだろう(ブッシュ対ゴアについては後述する)。

どれだけ長引くのか?
大統領を選ぶ選挙だけに、物事を進める上で重要になる期限を、連邦法と憲法が定めている。
- 各州は11月3日から約5週間以内に、どの候補者が勝利したかを決定する。今回は12月8日が最終期限となる
- 州がそれまでに大統領選の選挙人を決められない場合、連邦議会はその州の選挙人について、最終集計の対象にしないと決定できる
- 12月14日、選挙人はそれぞれの州で集まり、投票をする
- 来年1月6日以降も過半数の選挙人を獲得する候補者が現れない場合、連邦議会は投票で結果を出す
- 下院が大統領を選出、上院は副大統領を承認する。この場合、大統領と副大統領が別の党から出る可能性がある。ただ、バイデン大統領、マイク・ペンス副大統領の組み合わせになる見通しは薄い
- 下院では各州の代表に1票が与えられる。26票以上を得た候補者が次期大統領になる
だがワイル氏は、「下院と上院が正副大統領を決めるような事態に至るのは、たくさんの問題が相次いだ場合に限られる」と指摘する。特に、投票結果が極めて僅差だった場合だ。
「いくつかの州でどちらも勝利し得るという状況だけではだめだ」と同氏は言う。「いくつかの州の結果をめぐって対立があっても、候補者の1人が選挙人を270人以上獲得する場合もある」

なぜ各州が勝者を宣言しないのか?
各州が、どの候補者が選挙人を得るかでまとまらない場合はどうなるのか? ある政党が最終開票結果について、不正確だとか不正操作されたなどと主張したときには、そうした状況が発生し得る。
ノースカロライナ、ペンシルヴェニア、ミシガン、ウィスコンシンの激戦各州は全て、知事が民主党、議会多数派が共和党のねじれの関係にある。
選挙結果が争われた場合、議員は理論上、知事が認証したのとは別の選挙人を連邦議会に送ることができる(この事態は1876年に起きた)。
連邦議会は、州議会と知事のどちらが送り出した選挙人の投票を集計するのかを決める。
連邦下院と上院の意見が一致すれば問題はない。しかし、意見が割れた場合は、前例のない状況へと進む。連邦法は知事が選んだ選挙人を優先していると、一部の専門家は指摘する。

最後の最終期限
何があろうと、1月20日に次の大統領の任期が始まると、憲法は定めている。
「正午には、誰かを大統領にしなくてはならない。結論が出ないときは、後任選びの計画を進めることになる」とワイル氏は言う。
ワイル氏は、下院が大統領を巡ってこう着する一方で、上院が副大統領候補を承認する状況も考え得ると指摘する。
仮に下院が大統領就任式の日までに決着しない場合は、上院が選んだ副大統領が大統領になる。
上院が副大統領も選べない場合は、下院議長(現在は民主党のナンシー・ペロシ氏)が大統領の職に就くことになる。

こうしたことは前もあった?
最高裁が大統領選の勝者を決めた過去の事例は一度だけ。ブッシュ氏対ゴア氏の2000年大統領選だ。
投票日には、民主党のゴア氏が総得票数で上回ったが、選挙人では接戦となった。全てはフロリダ州の選挙人25人の行方にかかっていた。
再集計が必要となるほどの接戦だった。ゴア陣営は4つの郡で、再集計は手作業ですべきと要求。これにブッシュ陣営が異議を唱えた。数週間後、最高裁は5対4で、ブッシュ氏の主張を認めた。判事の党派性に沿った多数決だった。
このほか、通常とは異なる結果となった事例が2つある。
民主党のサミュエル・ティルデン候補と共和党のラザフォード・ヘイズ候補が争った1876年の大統領選では、ティルデン候補が勝利まで、選挙人が1人足りなかった。4州の結果を巡って対立が起きた。
議員らは、勝者を決めるための超党派の委員会を作り、ヘイズ候補を大統領に選んだ。就任式のわずか2日前のことだった。
1824年の大統領選では、アンドリュー・ジャクソン候補がジョン・クインシー・アダムズ候補を僅差で破る情勢だった。しかし、どちらも選挙人の過半数を獲得できず、憲法に従い、下院で決めることになった。
当時のヘンリー・クレイ下院議長は、ジャクソン候補を嫌っていた。クレイ議長は下院議員らとアダムズ候補らと協議し、アダムズ候補を勝者とし、自らは国務長官に就任することを決めた。
(取材:リトゥ・プラサド)













