終わり見えないイエメン内戦の惨状 世界は無視していると国連
ファーガル・キーン、BBCニュース、イエメン北部ハッジャ

画像提供, Kate Benyon-Tinker
医師の手の中で、イブラヒムちゃんの頭はありえないほど小さく見える。医師は赤ちゃんのもろい体に気を使いながら、そっと抱きかかえる。周りにあるものは何もかも、ありえないほど大きく見える。
イブラヒムちゃんのおむつは、手に入る中でも一番小さいサイズのものだが、それでもまだ大きすぎる。げっそりとした顔の中で瞳は大きく、肋骨は肌のすぐ下にあるのが分かる。この子はまるで内へ内へと、どんどん縮んでいっているかのようだ。
このような状態にある子供を「幸運」と呼ぶのは、歪んでいるように思える。しかしイブラヒムちゃんは21日、生き続けてきた。医師たちは、このまま育つだろう期待しているのだ。双子の兄弟は、生まれて間もなく死亡した。
母親のワファア・ハテムさんは息子の寝床に座り、泣き声を上げると指をそっとなでている。


画像提供, Fergal Keane

イエメンでは内戦のせいで300万人が住む場所を追われた。この家族も同じだ。いかにして食べ物を見つけるか。家族の日々の生活の中で、それが何よりの課題だ。
イブラヒムちゃんの父親はタクシーの運転手だが、経済が破綻しつつある状況で乗客はなかなか見つからない。
「夫は、仕事があることも時々ありますが、何もないこともあります。私たちは、食事ができることもたまにはありますが、何もないこともあります」とワファアさんは話す。
崩壊する体制
彼女は内戦の実態を語る証人のひとりだ。この内戦によって、子供の栄養失調率は2年間で2倍に増えた。
医療施設の半数はもはや機能しない。サウジアラビアが率いる連合軍に爆撃されたところもあれば、資金が枯渇して機能できなくなったところもある。
主要な道路や橋は、頻繁に攻撃される。おかげで、国内各地に援助物資を届けるのはますます難しくなっている。

画像提供, Reuters
物資の配給を牛耳りたい反政府勢力が、援助物資の流れをしばしばせき止める。医療部門の従事者を含めて公務員の多くは、少なくとも4カ月前から給料を支払われていない。
「国境なき医師団(MSF)」のような人道支援団体が、少しでも状況を改善しようと努力しているが、手段も物資もあまりに限られている状況では途方もなく大変な作業だ。
国連人道問題調整事務所の資料によると(下表)、イエメンの人口2700万人に対して、国内で非難を余儀なくされた人は330万人。食べ物を安定的に得られない人は1410万人。安全な飲み水が得られず、衛生施設が身近にない人は1940万人に上る。

内戦で特に被害の大きいハッジャ地区には、患者の人数にパンクしそうなアル・ジュムフリ病院がある。そこで私は、MSFの現地代表、コレット・ガデンヌさんに話を聞いた。
「体制はあります。食事を支給する場所や、栄養管理プログラムなど。けれども実施状況に目を配らせるのは困難で、実際にはそういう場所に行くことさえ困難だという家族がたくさんいるのだろうと、心配しています。施設にたどりついて、スクリーニングを受けて管理プログラムで栄養指導を受けることが、そもそも無理なのではないかと」
「体制全体が崩壊しつつあります。病院はどんどん閉鎖していく。なので、ただでさえ貧困にさいなまれ、まともな行政統治が機能していなかったこの国で、事態が毎日のように悪化していくのを見るのは、とても恐ろしい」

病院の廊下を歩けば、戦争の様子はおのずと明らかになる。
サウジによる空爆の爆弾と破片でずたずたに引き裂かれているのは、市場に向かう農家の人たちだったという。子供たちは栄養失調と病気で、やせ細っている。
「見て見ぬふり」
病院を出て農村に向かうと、病院への交通費がない人たちがいる。外国人と見ると、援助物資を持っていないか期待して近づいてくる人たちもいる。
病気の妹を連れた男の子がやってきて、私たちの前でしゃがみこんだ。高齢の男性が、物乞いをするわけではないが期待をこめて私たちを見つめ、おなかをすかせた4人の孫を連れてきた。

画像提供, Kate Benyon-Tinker
アイシャ・アリさんは5カ月前に、子供を1人、栄養失調で失った。病気が慢性的に続く4カ月の娘、アスマちゃんを連れてきた。栄養失調が原因の肝臓障害で、アスマちゃんの白目は黄色くなっている。
「手当てをしないとならないんですが、何かありますか? 何があります? 何か手当か、薬か。なんでも必要なんです。薬がいるんです。もし分けていただけるなら、ありがとうございます」とアイシャさんは懇願した。
慈善団体「セイブ・ザ・チルドレン」の現地スタッフは、この地区で移動式の医療クリニックを運営している。しかし、診療を必要とする人の数があまりに多すぎて、まったく対応しきれていない。
清潔な飲料水が不足している状況で、コレラが発生し、世界保健機関によると11月下旬までに約5000人が感染。事態はさらに悪化した。幼い子供には致命的にもなり得る肺炎や急性下痢の発生は、数えきれないほど相次いでいる。

画像提供, Fergal Keane

画像提供, Kate Benyon-Tinker
シリアやイラクの紛争が国際社会の注目を集める一方で、イエメンの危機は陰に隠れてしまっている。国際社会が約束した資金援助のうち、実際に供与された額は半分に満たない。
国連のイエメン担当官ジェイミー・マクゴールドリック氏は、国際社会の反応に明らかに辟易(へきえき)としている。
「政治的側面が人道の側面を凌駕(りょうが)してしまった。人道はもう機能しない。世界はイエメンの状況に対して、見て見ぬふりをしている。この危機に対応するにもあまりに何もかもが不足していて、ありえない状態だ」
ハッジャ県のアル・マンジュラでは、水もなく、焼け付く平地が広がる。そこに1万7000人もの人が、防水シートとわらと泥で作ったシェルターで暮らしている。
マフディ・アリ・アブドラさんは、妻と9人の子供と一緒に、ここにいる。
「空爆が怖い。次々と場所を移動している」と私に話す。しかし、その声はなかなか聞き取れない。
アブドラさんは、きちんと意味の通る言葉を話している。きちんとした文章になっている。しかし体力がもうほとんど残っていないのだ。
この国でいまだに力を持ち続けるのは、戦争だけだ。戦争だけが勢いをもって、国と国民の命を踏みつぶしている。










