一人っ子政策終了は「万能薬ではない」

画像提供, Reuters
- Author, キャリー・グレイシー
- Role, BBC中国編集長
もう30年以上前から中国では、人の生活において最も個人的で親密な事柄や選択について、政府が管理してきた。
赤ちゃんを作ってもいい、いやだめだと政府が決め、女性の生理周期をコントロールし、人工中絶を命令してきた。
家族計画担当の役人の出世は、いかに出生率を下げるかによって決まることが多かった。そのためこの30年余、中国では妊娠末期の強制中絶や不妊手術の強制など恐ろしい人権侵害が相次いだ。
これに加えて農村部では年老いた両親の面倒は息子がみるものという習慣から、男の子を望む家庭が多く、おかげで女の子は育児放棄や乳児殺害などことさら悲惨な目に遭ってきた。超音波検査などで出産前に胎児の性別が判別できる技術が普及すると、女児だけを対象にした人工中絶が増えてしまった。
「一人っ子政策」とよく呼ばれるが、中国の家族計画政策は実はもっと複雑だ。農村部や少数民族の家庭は子供を複数もつことを認められてきた。
そして政策が引き起こす過剰な対応を嫌悪したり、自分の家族への影響を悲しんだりはしつつも、多くの中国人は人口が多すぎるし、社会全体の利益のために個人の犠牲は必要だという理屈からこの政策を支持してきたと言っても過言ではないだろう。
しかしこの政策がどれほどの悲劇をもたらしたかを思うと、いろいろな人の顔や物語が次々と思い出されてならない。
超音波検査で男の子だと言われていなければ生まれてこなかった小さい男の子を、私は何人も知っている。

画像提供, Reuters
小さい女の子が謎の死を遂げた家族もいくつか知っている。そこらをうろつく家族計画警察に見つかり強制的に中絶させられないようにと出産時に山中に隠れたため、慢性的な婦人科系の病気を抱える羽目になった女性たちも知っている。政策で認められない子供を作ったからと、法外な罰金を科せられて一族郎党が苦しみあえぐ家族も知っている。
そして過去36年の間に運よく生まれてきた中国の子供たちは?
この子たちは、両親と祖父母4人の期待を一身に背負って応えなくてはならないという心理的プレッシャーを負わされている。両親や祖父母はひとりの子供に衣食住と教育を与えるため、身骨を砕くような必死な思いを重ねてきた。そのプレッシャーに耐えるだけでなく、中国の子供はやがて、高齢になったその両親や祖父母を自分ひとりで世話しなくてはならないのだ。
万能薬ではない?
中国は家族計画政策によって、数億人の誕生を防ぐことができた、それによって奇跡的な経済成長が可能になったと主張する。出産する代わりに女性は社会に出て働いたし、貯蓄を奨励することができたという理屈だ。
しかし政策を批判する人たちは、いつもこれに同じように反論する。国の工業化が進めば政策があってもなくても出生率は下がったはずだと。現にアジアのほかの途上国では、一人っ子政策のような過激な政策がなくても出生率は相対的に低下しつつあるのだからと。
そして今や中国が直面するのは高齢化と労働人口の減少という、かつてとは反対の問題だ。

画像提供, Reuters
中国は豊かになる前に老いてしまうかもしれない。あるいは高齢者を支える負担のせいで、中所得国以上にはなれないかもしれない。
しかし出生率が下がった原因が家族計画政策よりもむしろ隠れた経済的要因にあるとするなら、たとえ家族計画政策を緩和したところで出生率は上がらない。
そもそも中国は今では都市化の進んだ社会で、子供について何かを決める際に親はその費用を計算しなくてはならない。
今の中国はさらに、両親共働きの社会でもある。

画像提供, Reuters
家族が大きくなれば生活費がかかり、収入が減る。中国では多くの家庭がそういう選択をしないだろうと示す証拠は色々ある。
夫妻のどちらかが一人っ子の場合は子供を2人もっていいと2年前から条件が緩和されたにもかかわらず、その対象となった1000万世帯のうち、2人目が欲しいと申請してきたのは100万世帯以下。政府予想の半分以下だったのだ。
より豊かな都市部になればなるほど、子供を増やすことをためらう風潮は顕著だ。たとえば上海の家族計画委員会の最近の推計によると、2013年の規則変更によって出産適齢期の女性の9割が2人目を生んでいいことになった。しかし実際に応募したのはその5%に過ぎなかったという。
なのでついにやっと一人っ子政策の終了を発表した中国政府にとっては何とも皮肉なことだが、そもそもこの政策自体、すでに無意味になっていたのかもしれない。









