韓国、海で救助した北朝鮮人6人を送還 関係改善の一環か

木造船が海に浮かんでいる。船の上に2人が立っているのが見える

画像提供, 韓国統一部

画像説明, 韓国海域で漂流していた北朝鮮人6人は救助された後、全員が一貫して帰国の意思を示していたという

ケリー・アン記者(BBCニュース)、リチャード・キム記者、ユナ・ク記者(BBCコリア語)

韓国統一省は9日、今年に入ってから韓国側の海域へと意図せず漂流した北朝鮮人6人を同国に送還したと発表した。全員が一貫して帰国を強く望んでいたという。

このうち2人は、3月に南側の海域に入り込み、救助後4カ月間、韓国に滞在していた。これは、脱北者ではない北朝鮮人の滞在期間としては最長とされる。

残る4人は、5月に南北間の係争海域を越えて漂流してきた船の乗組員だった。

韓国による北朝鮮人の送還は、李在明(イ・ジェミョン)大統領の政権では初めて。李氏は6月の大統領選挙で南北関係の改善を公約に掲げていた。両国は数カ月にわたって送還の調整を試みていたが、うまくいっていなかった。

これまでにも、北朝鮮の船舶が意図せず韓国側の海域へと漂流する事例は複数確認されている。多くの場合、北朝鮮の船は小型の木造船で、一度航路を外れると元の進路に戻すことが難しいという。

過去には、帰国を希望する北朝鮮人は、南北当局が協議のうえ、陸路で送還していた。

しかし2023年4月、南北間の緊張が高まる中で、北朝鮮はすべての南北間通信回線を遮断。北朝鮮の最高指導者、金正恩(キム・ジョンウン)総書記はその8カ月後、南北統一はもはや不可能だと公式に宣言した

現在、南北間で確認されている唯一の通信手段は、アメリカ主導の国連軍司令部を通じた連絡と、報道機関を介した間接的な情報発信に限られている。

6人はどうなるのか

韓国統一省によると、今回送還された6人について、韓国側は国連軍司令部を通じて北朝鮮に2度にわたり送還の意向を伝えたが、いずれも返答はなかったという。

しかし9日の朝、送還を実施する海上付近で、北朝鮮の巡視船や漁船が確認された。このことから、一部の専門家は、南北が「水面下で」送還計画に合意していた可能性があると見ている。

国家安保戦略研究院(INSS)の元院長である南成旭(ナム・ソンウク)氏は、「広大な海で、船を座標なしで漂流させれば、再び流されるリスクが現実的にある」と指摘した。

南氏は、6人が北朝鮮に戻った後、長時間にわたる尋問を受けるだろうと考えている。

BBCコリア語の取材に対して南氏は、「スパイ訓練を受けたかどうか、あるいは機密情報を聞いたかどうかについて厳しく尋問されるだろう。あらゆる情報を引き出すための激しい調べとなる」と語った。

聴取が終わった後、6人は北朝鮮の宣伝活動に動員される可能性もあるという。慶南大学で北朝鮮研究を専門とする林乙哲(イム・ウルチョル)教授は、6人が帰国を強く望んだという事実は「(金正恩)政権の正当性を強化する材料になる」とした。

米ワシントンのシンクタンク「スティムソン・センター」に所属する北朝鮮専門家マイケル・マッデン氏は、今回の漂流が発生した時期に着目。当時、韓国では尹錫悦(ユン・ソンニョル)前大統領が弾劾(だんがい)され、暫定政権が国家を運営していたと指摘した。

そして、「このことが、南北双方において意思決定を遅らせた可能性がある」とマッデン氏は説明。「北朝鮮は、韓国の尹政権の残りの人たちを信用していなかった。また、南北の双方にとって、政治的都合による不法送還だと国際社会から非難を受けるリスクもあった」と述べた。

南北関係は変わるのか

9日の送還をめぐっては、韓国国内の脱北者の間で困惑の声が広がっている。

脱北者支援活動を行う李民馥(イ・ミンボク)氏は、「6人には脱北者と対話し、韓国社会についてもっと知る機会が与えられるべきだった」と述べた。

かつて北朝鮮に向けて反政権のビラを気球で飛ばしていた李氏は、「もし私が6人と話す機会を得ていたなら、(南北の歴史について)真実を伝え、韓国での生活を経験したというだけで、北朝鮮当局から処罰を受ける可能性があると警告していただろう」と語った。

李氏を含む複数の活動家は、南北融和を掲げる新政権による取り締まりの強化を懸念している。

現在、韓国の国会では、こうしたビラを北朝鮮に向けて飛ばす行為を禁止する法案が審議されている。

今年6月の選挙で勝利した李大統領は、北朝鮮との対話再開と南北間の緊張緩和を公約とに掲げた。

就任から1週間後、韓国軍は北朝鮮との国境地帯で行っていた拡声器による宣伝放送を停止した。韓国政府はこの措置について、「南北関係の信頼を回復し、朝鮮半島の平和を実現するための一歩」と説明している。

しかし一部の専門家は、南北関係が大きく改善する可能性は低いとみている。

米ジョージ・ワシントン大学韓国研究所のセレステ・アーリントン所長は、北朝鮮はロシアとの「協力関係を強化」しており、韓国と関わる「必要性はほとんどない」と指摘した。

また、韓国国内の世論も北朝鮮との関与に対して消極的であるとし、「北朝鮮が南との通信回線の再開を望んでいることを示すものはほとんど見られず、関係改善への意欲も感じられない」と述べた。