ハマスは「ガザの大部分で支配力を喪失」、ハマス治安当局幹部がBBCに語る

子供は緑色の長袖にピンク色のズボンをはいている。「POLICE(警察)」と書かれた車体はひしゃげ、タイヤや窓ガラスはなくなっている

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画像説明, 家を失った子供が、破壊された警察車両の中で遊ぶ(4月10日、パレスチナ・ガザ地区北部ガザ市アラファト警察学校)

ラシュディ・アブアルーフBBCガザ特派員(カイロ)

パレスチナ・ガザ地区でイスラエルと戦闘を続けるイスラム組織ハマスが、同地区における支配力の約8割を失い、その空白を武装集団が埋めつつあると、ハマス治安部隊の幹部がBBCに語った。

数カ月にわたるイスラエルの攻撃で、ハマスの政治・軍事・治安指導部が壊滅的な被害を受け、ハマスの指揮系統システムが崩壊したと、幹部は述べた。

この幹部は、ハマスのイスラエル奇襲によって始まった戦闘の1週目に負傷し、健康上の理由で職務から離れている。

男性幹部は匿名を条件に、複数の音声メッセージをBBCに共有した。

治安体制も指導部も「ほぼ消滅」

音声メッセージの中で同幹部は、ハマスの内部崩壊や、ガザ全域で治安がほぼ完全に崩壊している状況について語っている。ハマスはイスラエルとの戦闘が始まる以前は、ガザを統治していた。

「現実的に考えよう。治安体制はほぼ消滅した。指導部の約95%は死亡した。(中略)活動していた幹部らは全員殺害された」、「では実際のところ、イスラエルがこの戦争を続けるのを何が止めるのか」と、同幹部は述べた。

「論理的に考えれば、(イスラエルは)最後まで続けるはずだ。全ての条件が整っているからだ。イスラエルが優位に立ち、世界もアラブ諸国も沈黙し、犯罪組織がまん延し、社会が崩壊しつつある」

イスラエルの当時の国防相は昨年9月、「ハマスは軍事組織としてはもはや存在せず」、ゲリラ戦を展開していると述べていた。

ハマスの治安部隊幹部によると、同組織は1月19日から57日間続いた停戦期間中に、政治・軍事・安全保障部門の再編を試みたのだという。

しかし、3月にイスラエルがガザ攻撃を再開し、停戦は事実上崩壊した。以来、イスラエルは残存するハマスの指揮系統を標的にし、ハマスは混乱状態に陥っている。

「治安状況について、はっきり言わせてもらう。完全に崩壊しているし、完全に消滅した。もはや統制などどこにも存在しない」と、同幹部は述べた。

「市民は、ハマスの最も強力な治安機関(アンサール)の施設を略奪した。ここは、ハマスのガザ統治の拠点となっていた場所だ」

「市民は何もかも略奪した。事務所やマットレス、亜鉛版に至るまで。それなのに誰一人介入しなかった。警察も、治安部隊も」

ハマスが運営するガザ警察のメンバー5人が、迷彩柄の服を着て、銃器を持って立っている。背後には破壊された建物がみえる

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画像説明, ハマスが運営する治安部隊は、1月に開始したイスラエルとの停戦期間中に、制服を着用して活動していた。画像はガザ市内のアラファト警察学校の破壊された建物のそばに立つハマス運営のガザ警察のメンバー(1月22日)

「治安の空白」に入り込む武装集団

ハマスの治安部隊幹部は、こうした治安の空白により、暴力的な集団や武装集団がガザの「至る所」で活動するようになったとしている。

そうした集団は「誰彼となく呼び止めて、殺害できる。誰も介入しようとしない。盗人に対抗するため抵抗グループを作るなどして、独自に行動しようとした者は、30分以内にイスラエルに爆撃された」

「したがって、治安などない。ハマスによる統率もない。指導力も指揮系統も通信手段もない。給与の支払いは遅れ、届いても使い物にならない。給与を受け取ろうとして命を落とす者もいる。完全に崩壊している」

ガザ中部の都市デイル・アルバラフでは先月26日、市場の治安維持に当たっていたハマスの警察部隊をイスラエル軍がドローン(無人機)で攻撃し、少なくとも18人のパレスチナ人が殺害されたと、医師や目撃者がBBCに話した。ハマスの警察の部隊員は当時、民間人の服装をして、法外な高値で販売したり、トラックから略奪した支援物資を売ったりしている人を取り締まっていたという。

イスラエル軍は、ハマスの治安部隊に所属する「複数の武装したテロリスト」を攻撃したと主張した。

パレスチナ・ガザ地区中部のデイル・アルバラフであったイスラエルの攻撃で殺害された人たちを悼む人々。白い布で覆われた遺体のそばに男性4人が集まっている。1人は遺体に手を添え、別の男性は頭を抱えて悲しんでいる

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画像説明, パレスチナ・ガザ地区中部のデイル・アルバラフであったイスラエルの攻撃で殺害された人たちを悼む人々(6月26日)

治安の空白が生じる中、ガザの強力な地域グループとつながりのある6つの武装集団が、この空白を埋める強力な代理勢力として浮上していると、前出のハマス治安部隊幹部は話す。

これらの集団には資金や武器、人員を集める力があり、南部を中心にガザ全域で活動している。

そのうちの一つは、ヤセル・アブ・シャバブ氏という人物が率いる集団だ。この集団は、イスラエル占領下のパレスチナ・ヨルダン川西岸地区に拠点を置くパレスチナ自治政府や中東諸国の関心を集めている。イスラエルが先月、同集団に武器を供与していることを認めたことで、さらに関心は高まった。

ハマスは、アブ・シャバブ氏が多くの敵対勢力にとって統一の象徴となりかねないと恐れ、同氏に高額の懸賞金をかけていることを、ハマスの治安部隊幹部は認めた。

「ハマスは通常なら、盗人には目もくれない。市民が飢えているので、(戦闘員は)さらなる混乱を招くことは望んでいない。だが、この男は別だ。ハマス戦闘員はこの男を見つけたら、イスラエルの戦車ではなく男を追うかもしれない」

ガザの情報筋はBBCに対し、アブ・シャバブ氏がほかの武装集団と連携し、ハマス打倒を目指す共同組織を設立しようとしていると述べた。

ガザ北部ベイトラヒア近郊を走行する、国連の支援トラックの上に、銃器を持ったパレスチナ人武装集団のメンバーが乗っている。トラックの荷台には物資が積まれている

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画像説明, ガザの武装集団は先月にガザ北部で、略奪から守るために、物資を運ぶ国連のトラックの一団に同行したとしている。画像はガザ北部ベイトラヒア近郊で、国連のトラックの上に乗るパレスチナ人武装集団(6月25日)

ガザで勢いを増す集団

現在はエジプトの首都カイロ在住だというパレスチナ治安当局の元メンバーは、アブ・シャバブ氏のネットワークが勢いを増していると指摘する。この人物はかつて、イスラエルで爆破攻撃が相次いだ後、1996年にハマス軍事部門を弾圧した部隊に所属していた。

「アブ・シャバブ氏が率いる集団がハマスの弱体化に成功すれば、まるで引く手あまたの孤児のように、誰もが彼らを迎え入れようとするはずだ」と、この人は話す。

そして、「すべての交渉当事者が表向きには、ガザの武装集団とのつながりを否定している。しかし、アブ・シャバブ氏はパレスチナの情報当局高官と3度面会しているし、(エジプトの)シナイ半島にいる親族を通じて、エジプト側を安心させるようなメッセージを送っている」と主張した。

さらに、アブ・シャバブ氏が「ムハンマド・ダハラン陣営とも良好な関係を維持している」と付け加えた。ダハラン氏はガザの元治安当局責任者で、15年前にパレスチナ自治政府のマフムード・アッバス議長と対立して以来、亡命生活を送っている。

BBCに音声メッセージを共有した、ハマスの治安部隊幹部は、ハマスはアブ・シャバブ氏率いる集団を排除するためなら「どんなことでもする」と警告。その理由について、アブ・シャバブ氏の現在の軍事力ではなく、同氏がハマスのあらゆる敵対勢力を結集させる象徴になり得ることを恐れているからだとした。

「ハマスはこの17年間、至る所で敵を作ってきた。アブ・シャバブ氏のような人物がそれらの勢力を結集させられるなら、それが我々の終わりの始まりとなるかもしれない」

ガザでは無法状態が進み、地区内のさまざまな地域がまるごとギャングの支配下に陥りつつある。こうした中、ハマスはイスラエルに攻撃されるだけでなく、ガザ地区内の敵対勢力に包囲されつつある。