タイのタクシン元首相に無罪判決 王室侮辱罪で

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ジョナサン・ヘッド、BBCニュース(バンコク)
タイ・バンコクの刑事裁判所は22日、王室を侮辱したとして不敬罪に問われていた元首相で実業家のタクシン・シナワット氏に対し、無罪判決を言い渡した。問題となったのは、同氏が10年前に韓国の新聞に語ったインタビュー内容で、有罪となれば最大15年の禁錮刑が科される可能性があった。
タイの法律は、王室への侮辱を禁じている。しかし、この法律が活動家や政治的反対者を標的にするためにしばしば使われるという批判もある。
タイでは現在、タクシン氏の娘で職務停止中のペートンタン・シナワット首相を解任すべきかどうか、憲法裁判所の判断が待たれている。元首相の不敬罪裁判と合わせて、タイ政界で数十年にわたり圧倒的地位を築いていたシナワット一族の立場が揺らいでいる現状だ。
22日の判決は、シナワット一族とその支持者を、いくらか安心させた。タクシン元首相の代理人を務めるウィニャット・チャーモントリー弁護士は、判決が法廷で読み上げられると、元首相は笑顔になり弁護士に感謝したと記者団に話した。元首相はさらに、今後は国益のために働けると述べたという。
タクシン氏は亡命中の2016年に、当時の軍政下で最初に起訴された。昨年の帰国後、捜査当局が再び立件に向けて動き出していた。
一見すると、訴訟は根拠が弱いという印象だった。元首相は韓国紙のインタビューで、選挙で選ばれた妹インラック氏の政権を追放した2014年の軍事クーデターが、「宮殿内の一部の人物」と、タイ国王に助言する枢密院の顧問19人によって仕組まれたと信じていると発言していた。
厳密に言えば、枢密院は不敬罪法の対象ではない。この法律の対象は、国王、王妃、王位継承者、または摂政として行動する者への中傷に限定されている。
しかし近年では、王室という制度そのものに否定的とされかねない言動を犯罪扱いするために、この法律が適用されてきた。
過去には、故プミポン国王の飼い犬について否定的なコメントをしたことや、16世紀のタイ王についての発言で起訴された例もある。最近では若い女性が、新型コロナウイルスの影響を受けた人々への支援予算を批判するバナーを、ワチラロンコン国王の肖像画の近くに掲げたとして、禁錮5年の判決を受けた。
この法律があまりに幅広く解釈されることから、不敬罪が政治的な道具と化し、現状に異議を唱える者を脅し、沈黙させるために使われていると、複数の人権団体が批判している。
タクシン元首相の裁判も同様だと、広く受け止められていた。
しかし、バンコクの刑事裁判所の裁判官たちは今回、法律の文言を厳密に解釈。元首相が具体的な名前を挙げていない以上、無罪とすべきとの判断を示した。
今回の判決は、元首相が15年間の亡命生活から劇的に帰国してから、ちょうど2年後にあたるタイミングで下された。
帰国当時、タクシン氏と長年対立した保守派との間で、大々的な取引が成立したと考えられていた。2023年の総選挙で第2党となったタクシン派のタイ貢献党は、連立政権に参画し、第1党になった若い改革派を権力から遠ざけた。
この取引の条件は公表されていない。タクシン氏は常に「取引はなかった」と主張しているが、同氏はあえて目立つ動きを避け、政治に関与しないという合意が含まれていた可能性が高い。
しかし、派手で裕福で野心的な元首相にとって、目立つ行動を避けるというのは、実に本人らしくないことだ。元首相は現在もタイ貢献党の最大の資金提供者とみられ、党の主要な決定をすべて行っているとされている。
タクシン氏が首相に指名した実業家スレッタ・タヴィシン氏は、政治介入に積極的な憲法裁判所によって失格とされた。その結果、タクシン氏の娘ペートンタン・シナワット氏が昨年8月、政治経験が浅いながらも、タイ史上最年少の首相となった。

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首相就任にあたり、「父親っ子」を自称するペートンタン氏は、父の助言を喜んで受け入れると発言した。
娘の首相就任にあたり、タクシン氏は自らの「タイのビジョン」を発表。その多くが後に公式政策となったが、中にはカジノの合法化という物議を醸す提案も含まれていた。
議会の野党は、シナワット家が「二重指導体制」を敷いていると非難している。タクシン氏がカンボジアの強権的な指導者フン・セン氏とビジネスで結びついていることからも、両国の国境紛争でシナワット一族がタイをしっかり守れるのかと国民が不安を抱く事態になった。
フン・セン氏がペートンタン氏との私的な電話の会話をリークしたことで、タイ国民の懸念は頂点に達した。通話の中でペートンタン氏はフン・セン氏を「おじさん」と呼び、自国の国境司令官を批判していた。この件を受け、憲法裁判所はペートンタン氏はを職務停止とした。罷免されるかどうか、1週間後にも判断が下される予定となっている。
世界情勢が各地でますます不確実となる中、タイがわずか1年で再び首相を失うなど、リスクが高すぎると憲法裁判所が判断するかもしれない。ペートンタン氏が解任された場合、後任が誰になるかは不透明だ。
タクシン氏は来月にも、以前の有罪判決に基づく刑期を病院で過ごしたことをめぐり、別の裁判を控えている。元首相が刑務所での収監を回避した代償として、タイ貢献党は、総選挙を前倒しなくてはならなくなるかもしれない。その場合、政権の不振が続く状態で選挙を行えば、タイ貢献党は多くの議席を失う可能性がある。











