タイ・カンボジアの国境付近で軍が衝突 タイ側で民間人ら12人死亡と発表

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タイとカンボジアの双方の軍が24日朝、国境の係争地で衝突し、タイ当局は同国で12人が死亡したと発表した。両国とも相手が先に発砲したと非難しており、緊張が高まっている。
カンボジアは死傷者について発表していない。
タイ軍によると、最近緊張が高まっていた同国北部スリン県にあるクメール王朝時代の寺院「タ・ムエン・トム」付近で、カンボジア軍が発砲したという。
一方、カンボジア国防省は、タイ軍が先に発砲したため、自衛のために応戦したと主張している。
カンボジア側は、フン・セン前首相がフェイスブックで、同国の2州の一部がタイ軍によって砲撃されたとし、国民に冷静を保つよう呼びかけた。
フン・マネット首相もフェイスブックで、「カンボジアは常に平和的解決を望んできたが、今回ばかりは武力侵攻に対して武力で応じるしかない」とした。
一方、タイのプームタム・ウェーチャヤチャイ暫定首相は、カンボジアとの係争は「繊細な」問題であり、国際法にのっとって慎重に対応すべきだと語った。
前日の23日には、国境付近で地雷が爆発し、タイ兵1人が負傷したことを受けて、タイ政府は自国の駐カンボジア大使を召還。また、カンボジアの駐タイ大使を国外追放する方針も明らかにしていた。
両国の関係は、5月の武力衝突でカンボジア兵1人が死亡して以降、過去10年以上で最悪の状態にある。
この2カ月間、両国は報復的な措置を取り合い、国境地帯に展開する軍を強化していた。
カンボジアは安保理の招集を要請
タイ軍は、カンボジア側が監視用ドローンを飛ばした後に、重武装の部隊を展開したと説明した。
タイ軍によると、日本時間24日夕までに明らかになっているタイ側の死者は3県で合わせて12人で、ほとんどは民間人だという。負傷者も出ているという。
タイ軍は、スリン県のカプチョン地区で、BM-21ロケット弾2発が住民を直撃したと説明。カンボジア軍による「民間人を標的にした攻撃」を非難した。
タイ軍はまた、この攻撃を受けてF16戦闘機6機を発進させ、カンボジア軍の「特別軍管区第8および第9司令部が壊滅した」と発表した。
現在、カンボジアとの国境を完全封鎖しているという。
一方、カンボジア側は、死傷者や被害をまだ明らかにしていない。
カンボジア国防省は声明で、タイが過剰な兵力を用い、重火器を使用し、空爆を実施することで、カンボジア領土を武力で奪おうとしていると非難した。
また、タイの戦闘機がカンボジアの支配地域に爆弾2発を投下したと主張。国防省のソチェアタ報道官は、「これらの違法かつ無責任な行為は、地域の平和と安定に深刻な脅威をもたらすだけでなく、国際秩序の根幹を揺るがすものだ」と述べた。
さらに同省は、カンボジア軍が「いかなる代償を払ってでも」主権を守る準備ができていると警告した。
カンボジア政府はその後、国連安全保障理事会に対し、衝突の即時停止を目的とした「緊急会合」の開催を要請した。
マネット首相は24日付の書簡で、「最近のタイによる極めて重大な侵略行為は、地域の平和と安定を深刻に脅かしている」とし、「タイの侵略を止めるため、安保理の緊急会合を開催するよう強く要請する」と述べた。
この書簡は、現在の議長国であるパキスタンのアシム・イフティカール・アフマド安保理議長を宛てに送付された。
なぜ両国は戦っているのか
タイとカンボジアの係争は、100年以上前、フランスによるカンボジアの植民地支配後に、両国の国境が画定された時期にさかのぼる。
両国の関係が正式に敵対的になったのは2008年で、カンボジアが係争地にある11世紀の寺院を、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界遺産に登録しようとしたことが発端だった。この動きに対し、タイ側は激しく抗議した。
それ以来、両国の間では断続的に衝突が発生し、兵士や民間人に死傷者が出ている。
直近では、5月にカンボジア兵1人が死亡した衝突をきっかけに急速に緊張が高まった。
この2か月間、両国は互いに国境を制限しており、カンボジアはタイからの果物や野菜の輸入を禁止し、電力やインターネットサービスの輸入も停止した。
また、ここ数週間で両国は国境地帯への軍の展開を強化している。
<解説> ジョナサン・ヘッド東南アジア特派員
カンボジアとタイの間では、過去にも死者を出す衝突が発生しており、今回も同様の事態となっている。
これまでも激しい銃撃戦が繰り返されてきたが、いずれも比較的早期に沈静化してきた経緯がある。
現時点では全面戦争に発展するとの見方は少ないものの、両国ともにこの対立を抑制するだけの強い指導力と自信のある政権が欠如しているとの指摘もある。
カンボジアでは経済が深刻な状況にある。フン・マネット首相は、かつての強権指導者フン・セン氏の息子だが、まだ自身の権威を確立できていないとされている。一方で、父親のフン・セン氏は、自らのナショナリスト的な立場を強調するために、この対立をさらにあおる姿勢を見せているとの見方もある。
一方のタイ側では、不安定な連立政権が続いており、背後には別の強権的指導者であるタクシン・シナワット氏の影響があるとされている。タクシン氏はフン・セン氏およびその家族と個人的に親しい関係にあったとされているが、フン・セン氏が非公開の会話を流出させたことで、タクシン氏の娘のペートンタン・シナワット首相が憲法裁判所から職務停止処分を受けた。そのことに、タクシン氏は裏切られたと感じているだろう。つまり、タイ側には大きな怒りの感情がある。
今後は、東南アジア諸国連合(ASEAN)の他の加盟国がこの対立に介入し、両国に対して緊張緩和を促すかが注目される。ASEANは加盟国間の紛争回避も目的としており、現在、この問題の解決を優先課題とする加盟国もあるとみられている。






