メルツ独首相、欧州はアメリカの防衛力に「ただ乗りしていた」と BBCの単独取材で

ダークスーツを着て黒ぶちの眼鏡をかけた男性

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画像説明, ドイツのフリードリヒ・メルツ首相

ポール・カービー欧州デジタル編集長

ドイツのフリードリヒ・メルツ首相は17日、ヨーロッパが自らの防衛と安全保障に対して十分な資金を拠出していないとする、アメリカの非難を受け入れる発言をした。ただし、現在では両者が同じ認識を共有していると話している。

メルツ首相はこの日、BBCのラジオ番組「トゥデイ」に出演し、ニック・ロビンソン司会者のインタビューを受けた。首相としてイギリスの放送局の取材に応じるのはこれが初となる。

メルツ氏は、「我々は自分たちがもっと努力しなくてはならないと理解しているし、かつては、ただ乗りしてきた」と認めた上で、「アメリカは我々にもっと行動するよう求めており、我々は実際にもっと行動している」と述べた。

メルツ首相は現在、防衛協力の強化に向けてイギリスを訪問している。これは不法移民への対応や青少年交流の促進も目的とする、歴史的な友好条約の一環。

今年5月に就任したメルツ首相にとって、ロシアによるウクライナ全面侵攻や、ドナルド・トランプ米大統領が8月1日から欧州連合(EU)に課そうとしている30%の輸入関税が、重要課題となっている。

「ロシアという大きな脅威」

メルツ氏は、トランプ大統領とこれまでに3回会談し、良好な関係を築いていると明かした。「トランプ大統領とは共通認識が築けていると思う。我々はこの戦争を終わらせようとしている」とも話した。

「我々は週に1度、電話で連絡を取り合っており、対応を調整している。ウクライナでの戦争は課題の一つで、もう一つは貿易交渉と関税だ」

メルツ氏は選挙活動中からウクライナへの支持を公言していた。今年2月の総選挙で中道右派・キリスト教民主同盟(CDU)を勝利に導く数カ月前には、首都キーウを訪問している。

5月の政権発足からわずか4日後には、キア・スターマー英首相やエマニュエル・マクロン仏大統領との連帯を示し、一緒にキーウ行きの列車に乗り込んだ。

メルツ氏は、「我々はロシアという大きな脅威に直面している。これはウクライナだけでなく、我々の平和、自由、そしてヨーロッパの政治秩序全体を脅かすものだ」と警告した。

この発言を振り返ったメルツ氏は、政府として「あの発言から、結論を引き出す必要があった」と述べた。つまり、ヴァンス氏の「非常に率直な物言い」は、明確に受け止められたということだ。

ドイツ首相はスーツ姿で左側に足を組んで座り、右側で膝の上に書類を置いたBBCのニック・ロビンソン司会者と話している

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画像説明, ロビンソン司会者(右)のインタビューを受けるメルツ首相

ロンドンに拠点を置くコンラート・アデナウアー財団のカナン・アティルガン氏は、ミュンヘンでの出来事がメルツ氏に大きな影響を与えたとの見方を示した。同財団は、与党CDUと密接な関係にある。

「ミュンヘンでメルツ氏は、『我々はアメリカを失った。自分たちのことは自分たちで守らなくては』と考えたのだと思う。そしてその後、米大統領執務室での(ウクライナの大統領ウォロディミル・)ゼレンスキー氏との会談があった」と語った。

トランプ大統領とゼレンスキー大統領は2月、ホワイトハウスで会談した際、外交姿勢などをめぐって激しく口論した。これを受けてアメリカは一時、ウクライナへの武器や情報の提供を停止していた。

英仏独の「E3」同盟

メルツ氏は就任前から、ドイツの防衛費を大幅に増額するために憲法改正を主導しており、ドイツの国防のため必要なことはすべてやるという方針を打ち出していた。

BBCのインタビューでメルツ氏は、「我々は力が足りない。軍も十分に強くない。だからこそ多額の資金を投入している」と述べた。

英独仏の3カ国は現在、「E3」と呼ばれる欧州主要国による三国同盟の構築を進めている。メルツ氏によると、この枠組みは安全保障や外交政策だけでなく、経済成長にも重点を置くものになる。

メルツ氏は、「キア・スターマー首相とはとても親しい間柄だ」と述べ、フランスの大統領とも同様だと語った。マクロン大統領は来週にもベルリンを訪問する予定。

マクロン大統領は2019年、独西部アーヘンでドイツと包括的な条約を締結している。先週のイギリス国賓訪問では、防衛協力をさらに深める協定に合意した。今回の英独友好条約は、こうした二国間関係の三角形を完成させるものとされている。

BBCの取材は、ロンドンにあるドイツ大使館の豪華な応接室で行われた。メルツ氏はこの取材の後、スターマー首相と条約調印に臨むため、ヴィクトリア&アルバート博物館へと向かった。

ダークスーツにめがね姿の2人の男性がテーブルに座り、署名した条約のファイルを交換している。テーブルの後ろにはドイツとEU、イギリスの旗が立てられており政府職員が立っている

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画像説明, 条約に署名するメルツ首相とイギリスのスターマー首相(17日、ロンドン)

メルツ首相は、今回の二国間条約によって、両国が互いを守る相互防衛の誓約が再確認されたと述べた。この誓約は、北大西洋条約機構(NATO)の条約の一部であるだけでなく、イギリスが欧州連合(EU)に加盟していた間も両国の同盟関係に含まれていた。

イギリスとドイツの企業はすでに、戦闘機「ユーロファイター・タイフーン」や、装甲車「ボクサー」などの製造で協力しており、両政府は共同輸出活動の開始に合意している。英首相官邸は、この取り組みによって数十億ポンド規模の投資が呼び込まれる可能性があると見ている。

両国はまた、射程距離2000キロのミサイルの開発も進めている。メルツ首相は記者会見で、ウクライナに対して「長距離攻撃」に関する大規模な追加支援が近く提供される見通しだと明らかにした。

トランプ氏は「明確でも献身的でもない」

69歳のメルツ氏は、大西洋をまたぐ同盟関係の強い支持者として知られている。政界を離れていた時期にはアメリカの投資会社で勤務した経験もあり、アメリカにも詳しい。

しかし選挙勝利の夜には、トランプ政権について「ヨーロッパの運命にほとんど関心を示していない」と発言。当時は、首相就任を控えた人物としては外交的配慮に欠ける発言だと受け止められていた。

これについて、考えを改めたかという質問にメルツ氏は、考えは変わっていないと答え、トランプ氏は、「過去のアメリカ大統領や政権ほど明確でも献身的でもない」と述べた。

メルツ氏は、アメリカが欧州から距離を取り、アジアへと軸足を移していると指摘。だからこそ、欧州はアメリカの防衛からの自立を強めることが重要だと述べた。

イギリスは、アメリカによる輸出品への関税をめぐる混乱をおおむね回避しているが、EUは残り2週間を切った期限を前に、すべての製品に対して30%の関税が課される可能性に直面している。

欧州委員会のマロシュ・シェフチョヴィッチ通商担当委員は今週、加盟27カ国すべてがアメリカの輸入税引き上げを免れるための合意成立を目指し、ワシントンを訪問した。

メルツ氏は、この高関税を容認できないものとし、ドイツの輸出産業を壊滅させるものだと見なしている。

「私の見立てでは、(トランプ)大統領自身もこの問題の深刻さを理解しており、合意する意思はある。彼は分かっている」と、メルツ氏は述べた。

若い世代への期待感

英独条約のもう一つの重要な要素は、英仏海峡を不法に横断する小型ボートの問題だ。密航業者が小型ボートをドイツ国内で保管している場合に処罰対象とするため、ドイツは今回、法改正に合意した。ドイツ国内でのボート保管の実態は昨年、BBCの調査報道で明らかになった。

メルツ氏は、自身の政権が「直ちに対応する」と述べ、夏季休会後には議会での法改正が速やかに進むとの見通しを示した。

また、ロンドンとベルリンを結ぶ直通鉄道の計画や、ブレグジット(イギリスのEU離脱)以降減少している、英独間の学生交流の再活性化も計画されている。

メルツ氏は、友好条約の実際的な効果を最初に実感するのは学生たちであってほしいと強く願っていると述べ、将来的に若い世代が、両国の関係を牽引(けんいん)することへの期待感を示した。