【解説】 トランプ氏のガザ和平案、「勢い」が強みだが「細部の欠如」が弱み 国際編集長

イスラエルとアメリカの国旗を背に、両首脳が握手しようと手を差し伸ばしている。二人ともダークスーツに白いシャツ姿

画像提供, JIM LO SCALZO/POOL/EPA/Shutterstock

画像説明, 握手するイスラエルのネタニヤフ首相(左)とアメリカのトランプ大統領

ジェレミー・ボウエン国際編集長

パレスチナ・ガザ地区での戦争を終わらせ、荒れ果てたガザを再建しようというドナルド・トランプ米大統領の枠組み合意には、勢いがある。

その大部分は、トランプ氏自身が源となっている。また、ヨルダン、エジプト、カタール、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、パキスタン、インドネシア、トルコなど、今回の計画を支持するアラブやイスラムの主要国も、勢いを与えている。イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相も、トランプ氏の隣に立ち、この計画を受け入れた。パレスチナ国家への道筋という、彼が繰り返し非難してきた話題が含まれているにもかかわらずだ。

この勢いを維持しようと、トランプ氏は「3~4日」のうちに、イスラム組織ハマスがイエスかノーかを決めなければならないとしている。

答えがノーなら、戦争は続く。

今回の合意案は、1年以上前にジョー・バイデン前米大統領が打ち出した計画とよく似ている。それ以降、ものすごい人数のパレスチナ住民が殺され、ガザでは破壊が進み、今では飢饉(ききん)が発生している。一方で、ガザにいるイスラエル人の人質は、苦しみと拘束に長期間、耐えざるを得ない状況に置かれている。

イスラエルのメディアで目立ったのは、バイデン氏の構想が失敗したのは、ネタニヤフ氏が閣内の強硬右派の圧力を受けて新たな要求を提示するという「ゴールポストの移動」をしたからだという報道だった。

それでも、今回の枠組み案は重要な意味をもつ。トランプ氏は初めて、戦争を終わらせるようイスラエルに圧力をかけた。トランプ氏は、ノーと言わせない指導者としての地位を確立している。今年2月に米大統領執務室でウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領が受けた激しい批判を、誰も受けたいと思っていない。とはいえ、ホワイトハウスの指導者が変われば、状況も変わる。

ネタニヤフ氏がワシントンから帰国の途につく前、彼のスタッフが、状況を説明する彼の姿を動画撮影した。焦点の一つは、イスラエルの隣に独立したパレスチナが存在するという、2国家解決の案だった。イギリスなどの西側諸国は、パレスチナ国家を承認することで、この案を復活させようとしている。

トランプ氏の案は、パレスチナの独立という考えに対して不明瞭な了解を与えるものだ。ヨルダン川西岸ラマラに本部を置き、マフムード・アッバス議長が率いているパレスチナ自治政府が改革されれば、「パレスチナの自己決定と国家へと向かう信頼できる道筋がようやく整うかもしれない。それらがパレスチナの人々の強い願望であると私たちは認識している」としている。

ネタニヤフ氏にとっては、遠い将来にパレスチナ国家ができるかもしれないという考えだけでも、到底受け入れられないものだった。同氏はホワイトハウスでトランプ氏に心からの支持を伝えた際、「ガザでの戦争を終わらせるあなたの計画を支持する。私たちの戦争目的を達成するものでもある」と英語で述べた。

ネタニヤフ氏は、帰国の長時間のフライトの前に自国民に向けてヘブライ語で発信した動画の中で、パレスチナ国家に同意するのか質問されている。彼は力を込めて、こう答えた。

「いや、全くそうではない。そのことは合意に書かれてもいない。私たちがはっきり言ったことがある。パレスチナ国家には強硬に抵抗するということだ」

ネタニヤフ氏によると、トランプ氏は同意したという。

動画説明, 「和平のための歴史的な日」 ガザ戦争終結に向けた計画、トランプ氏とネタニヤフ氏が概要を発表

一つの計画、二つのバージョン

この計画の強みは勢いだ。一方、弱みは細部の欠如であり、それはトランプ外交の特徴でもある。トランプ氏とネタニヤフ氏が承認し、イギリスなど欧州諸国も支持している今回の文書には、イスラエル軍の段階的な撤退を大まかに示す地図が添えられている。だが、戦争集結の外交的合意が維持されるのかを決める要点については、完全に抜け落ちている。

この計画がうまくいくには、厳しい交渉が必要だ。その過程で、決裂する機会も多く出現するだろう。

イスラエルの主要野党は、今回の計画を支持している。一方で、ネタニヤフ連立政権の過激なウルトラナショナリストたちは非難している。今年初めに打ち出された「トランプ・リヴィエラ」構想が大好きで、ガラス張りのタワーがきらめく新しいガザの街並みを背景に、ビーチ向けの格好をしたイスラエルとアメリカの首脳らがカクテルを飲むという奇妙なビデオを流していた人たちだ。イスラエルの右派強硬派は、リヴィエラ構想にガザのすべてのパレスチナ人200万人以上の排除が含まれていることに歓喜した。ユダヤ人の過激派は、ガザの土地を併合し、パレスチナ人の代わりにユダヤ人入植者を住まわせたいと考えている。

今回の計画では、パレスチナ人が強制退去させられることはないとしている。ウルトラナショナリストで入植者のリーダーであるベザレル・スモトリッチ財務相は、この計画を1938年の今週に署名されたミュンヘン協定になぞらえた。当時のドイツ・ミュンヘンでの会談では、イギリスとフランスがチェコスロヴァキアに領土の一部割譲を迫った。そして、スロヴァキアとして独立後まもなく、ナチス・ドイツに明け渡したのだった。

もしハマスが今回の合意案を受け入れても、ネタニヤフ氏が連立政権の維持に必要なスモトリッチ氏ら過激派をなだめようと思えば、ハマスに責任を押し付けるような形で彼が交渉を妨げる機会はいくらでもある。トランプ氏の枠組み合意は構造上、さまざまな方法で、イスラエルが気に入らない動きを拒否できるようになっている。

100年以上続く根深い紛争を終わらせることは不可能かもしれない。長期的な視点に立てば、パレスチナの独立につながらない解決策を試みても平和は訪れないと、イスラエルとアメリカ以外の多くの国は考えている。

アラブとイスラム諸国の外相が計画支持の声明を発表した際、外相らはこれがイスラエルの完全撤退とガザの再建につながると信じており、「ガザがヨルダン川西岸と完全に統合され、国際法に従ってパレスチナ国家となる、2国家解決に基づく公正な平和への道」だと述べた。この言葉は、イスラエルによるパレスチナの土地の占領は違法だとした国際司法裁判所の判断に暗に言及したものとも受け取れる。

ネタニヤフ氏は、この合意でイスラエルがハマスに対する勝利にやっと近づくと信じている。彼は、ヨルダン川と地中海の間の土地について、パレスチナ人は何ら権利をもたないとしている。

一つの計画に、まったく異なる意味をもつ二つのバージョンが存在する。枠組みはあいまいで、どちらの解釈も可能となっている。これは、有望なスタートではない。