英上院で世襲貴族の議員ゼロに、法案可決 数百年の伝統に終止符

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ジョシュア・ネヴェット政治記者、デイヴィッド・コーノック議会担当編集委員
イギリス議会の上院(貴族院)は10日、世襲貴族の議員を廃止する法案を可決した。これによって、世襲貴族が自動的に議員を務めるという数百年前からの伝統が終わることになる。
上院の世襲貴族議員を全員廃止する政府案については、根強い反対もあったが、政府が妥協案を提示した結果、上院は「上院(世襲貴族)法案」を可決した。
貴族の位を世襲で相続した人が自動的に上院議員を務める制度は、1999年に当時の労働党政権が大幅に改革し、世襲貴族の議席のほとんどが廃止されていた。残っていた世襲貴族議員92人の議席が、今回の法律で廃止される。
与党・労働党の上院院内総務スミス女男爵(一代貴族)は、この「歴史的立法」は、上院で議員として審議に参加し採決で投票する権利を、全ての世襲貴族から取り上げるという、労働党の公約を実現するものだと述べた。
「これは、個々人がいかに貢献するかではなく、議会が25年以上前に合意した根本原則に関する議論だった。つまり、私たちのこの議会では、相続した爵位を理由に議員になる者がいるべきではないという、それが原則だ」
「あれから25年以上がたった今も世襲貴族は議会に残り、意味ある改革はこの間、停滞していた。私たちは、前進する方法を見つける義務がある」
スミス女男爵は、政府が最大野党・保守党および無所属の世襲貴族議員に、一代限りの爵位を提供する妥協案を示したことを認めた。このため、一部の世襲貴族は上院に残る可能性があるという。
政府のこの提案を受けて、保守党は法案への反対を撤回した。
BBCの取材によると、政府は保守党に対し、92人のうち15人の世襲貴族について、一代貴族として残る機会を与えた。
上院関係者によると、この合意の一環として、保守党は自党の一代貴族について一定人数を引退させることになる。
保守党または他の政党に与えられる一代貴族の位の最終な数は、キア・スターマー首相が決定して発表することになる。
最大92人の世襲貴族議員は、現在の議会会期が終了する5月に上院を離れる見通し。
保守党の上院院内総務トゥルー卿は、世襲貴族が自動的に上院議員になる制度を終わらせるという政府公約の実現を受け入れると述べた。
トゥルー卿は、保守党は法案への反対を取り下げると認め、自分はかねて、「(議会の)果てしない丁々発止」を静める必要があると考えていたと発言。ただし、上院議員の中には、今回の妥協を苦々しく思う人たちもいるはずだと述べた。
政府はさらに妥協策として、上院議員から選ぶ閣僚職のうち、有給のポストを増やす予定。現在の法律では、一部の上院議員閣僚は無給となっている。
スミス女男爵は、トニー・ブレア元首相の労働党政権が初めて世襲貴族議員を一部排除して以来、25年間にわたり暫定措置が続いていたと述べた。
政府はほかにも、上院議員の定年制や最低出席率などでも改革を検討している。
イギリスの世襲貴族はこれまで数百年にわたり、議会で法律を制定し議論する権利を持ち、多くの場合、父親から息子へと受け継がれてきた。
歴史を通じてほとんどの世襲貴族は男性だったが、マール女伯爵のように女性に継承された爵位もある。現在のマール女伯爵は、2020年に上院議員を退任した。
ブレア元首相は1999年、上院に世襲貴族が議員としていることを「時代錯誤」と呼び、600人以上を排除した。92人を残したのは一時的な妥協策と当時はされていたが、以来そのままの状態が続いていた。
今回議席を失う一人のデヴォン伯爵は、法案は遺憾だと述べた。
伯爵は、自分の家は900年にわたり上院にいたのだと述べ、通知期間が雇用法の基準より短いと不満を述べた。
「本院と議会と、そして多くの国民も、我々がいなくなれば寂しく思うはずだと私は思う」とデヴォン伯爵は述べた。
伯爵は、「1000年はさかのぼる世襲制度の体現者として、ここに座ることを(世襲貴族は)誇りに思うべきだ」とも言い、「私はこの場所が恋しくなるだろうし、もちろん戻ってきたい。しかし、それは私の世襲特権ではなく、実力によってでなくてはならない」と述べた。
上院議長のフォーサイス・オブ・ドラムリーン卿は、世襲貴族たちがこれまで果たしてきた貢献に感謝した。
「この憲法改正についてどのような意見があったにせよ、議論や精査、そして制度的な記憶の集積に大きく貢献してきた仲間たちに、別れを告げるのは得てして悲しいことだ」と議長は述べた。
「彼らの貢献を認めるのは、党派的な政治が理由ではなく、奉仕と献身の価値に対する評価だ。私は誇りを持って感謝を述べたい」
選挙改革協会の政策研究部長ジェス・ガーランド博士は、「たまたまその地位に生まれついたというだけで、この国の法律に影響を与える人々がいるなど、現代の民主主義であってはならない」と述べた。
ガーランド博士は、「両親が誰だったという理由だけで、上院で終生の立法職を与えられた」貴族を議会から排除することは、「遅すぎた改革だ」とも言い、「国民が除外される閉ざされた共同体など、議会のどこにもあってはならない」と強調した。






