イギリスなど4カ国がパレスチナ国家を承認、フランスも続く見通し イスラエルは反発
イギリスのキア・スターマー首相は21日、パレスチナ国家を承認すると発表した。これに先立ち、カナダとオーストラリアもパレスチナ国家の正式な承認を表明。その後、ポルトガルも承認を明らかにした。22日にはフランスもこれに続く見通しだ。
カナダとオーストラリア、イギリスはかねて、承認の方針を示していた。パレスチナとイスラエルの間の中東和平問題解決を目指す2国家解決策の推進に向けて、3カ国で協力体制を組む意向という。
承認に対しては、イスラエル政府や、ガザ地区で拘束されている人質の家族、一部の英野党議員が激しく批判している。イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は21日、「パレスチナ国家は実現しない」と述べた。
ネタニヤフ首相は、国家承認を表明した各国の指導者に対して「明確なメッセージがある」と述べたうえで、「あなた方はテロに対して大きな報酬を与えている」と語った。
イスラエルと同盟国のアメリカは、パレスチナ国家の承認は、2023年10月7日にイスラエル南部を攻撃したパレスチナ・ガザ地区のイスラム組織ハマスに対する、外交的な「報酬」だと主張している。この攻撃では1200人が殺害され、251人が人質として拘束された。
イスラエル外務省は、パレスチナ国家は「イスラム聖戦主義のハマスに対する報酬にすぎない」と非難。「ハマスはイギリスに拠点を持つムスリム同胞団の支援を受けて勢いづいている」とした。
一方、ヨルダン川西岸地区を統治するパレスチナ自治政府のマフムード・アッバス議長は、スターマー首相が同議長宛ての書簡で表明した決定を歓迎、「パレスチナ国家が、イスラエル国家と安全、平和、そして良好な隣人関係のもとで共存する道を切り開く助けとなる」と述べた。
パレスチナ国家は現在、国連加盟193カ国のうち約75パーセントの国によって承認されているが、国際的に合意された国境、首都、軍隊を持たないため、承認は象徴的な意味が大きい。
1990年代の和平合意を受けて設立されたパレスチナ自治政府は、イスラエルによるヨルダン川西岸地区の軍事占領のため、自らの領土や住民を完全には統治できていない。一方、ガザ地区はイスラエルも一部を占領しているが、2007年以降はハマスが唯一の支配勢力となっている。
ハマスは22日、イギリスによるパレスチナ国家承認を「我々パレスチナ人の土地と聖地に対する権利を確認する重要な一歩だ」と歓迎した。同時に、「戦争の即時終結につながる実行措置が伴うべきだ」と主張した。
スターマー首相は、パレスチナ国家の将来の統治にハマスが関与することは認められないとの立場を繰り返し示している。今回の発表の中でも、イギリスはすでにハマスをテロ組織として指定し制裁を科していること、さらに今後数週間以内のハマス関係者への追加制裁を指示していることを明らかにした。

カナダは、主要7カ国(G7)の中で最初にパレスチナ国家を正式に承認した。マーク・カーニー首相はソーシャルメディア「X」に声明を投稿し、「カナダは本日、パレスチナ国家を承認する」と発表した。
カーニー氏は、「カナダはパレスチナ国家を承認し、パレスチナ国家とイスラエル国家の双方に平和な未来を築くための協力を申し出る」と記した。
これに続き、オーストラリアのアンソニー・アルバニージー首相も、パレスチナ国家の承認を表明した。発表した文書には、「2025年9月21日をもってオーストラリア連邦は、独立した主権国家のパレスチナ国家を全面的に承認する。これによってオーストラリアは、パレスチナの人々が自分たちの国家を持つという長年の正当な抱負を、承認する」と書かれている。
アルバニージー氏はまた、これはカナダおよびイギリスと連携しての対応の一環で、3カ国は「2国家解決への取り組み」を構築すると述べた 。
その後、ポルトガルのパウロ・ランジェル外相も、2国家解決を「公正で持続的な平和への唯一の道だ」と述べた。

画像提供, オーストラリア政府
スターマー英首相はソーシャルメディアに投稿した動画で、「本日、平和と2国家解決への希望を再生するために、私はこの偉大な国の首相として、イギリスがパレスチナ国家を正式に承認することを明言する」と表明した。
動画の冒頭でスターマー氏は、「中東で広がる惨状に直面し、我々は平和と2国家解決の可能性を生かすために行動している」と述べ、「それには、安全で安定したイスラエルと、存続可能なパレスチナ国家が並んで共存する必要があるが、現時点ではそのどちらも実現していない」とした上で、パレスチナ国家承認の時が「今まさに訪れた」と強調した。
スターマー氏はまた、ハマスに拘束されている人質たちのイギリスの家族と面会したことに触れ、「彼らが日々耐えている苦しみ」と、イスラエルとイギリスの人々の心に深く刺さっている苦痛は認識していると述べた。
首相は、人質の即時解放をあらためて求め、「私たちは彼らを帰還させるため、引き続き闘い続ける」と話した。
さらに、「2国家解決へ向けた私たちの呼びかけは、ハマスの憎悪に満ちたビジョンとは正反対のものだ」と述べ、「この解決策はハマスへの報酬ではない」と強調。ハマスは未来も、政権での役割も、安全保障への役割も決して持たないと述べた。
スターマー首相はその上で、ガザでの人為的な危機がかつてない深刻な水準に達している危機感を示し、「飢餓と破壊は耐え難い」と憂慮した。
食料や水を求めていた人々が殺され、数万人が命を落としているとして、首相は「この死と破壊は、我々すべてを恐怖に陥れている」と述べた。
一部の病気や負傷した子どもたちは避難することできたのに加え、イギリスは人道支援を強化しているが、「とてもではないが十分な量の支援はまったく届いていない」と指摘した。
スターマー氏はイスラエル政府に対し、ガザ地区の境界での移動制限を解除するよう求め、「この残酷な戦術をやめ、援助物資の流入を認める」よう訴えた。
イスラエル政府はこれまで、援助物資を制限しているとの指摘を否定している。
スターマー氏は、「本日、我々はパレスチナ国家を承認している150以上の国々に加わる」と述べ、これは「より良い未来が可能だという、パレスチナとイスラエルの人々への誓いだ」と述べた。
「この紛争がいかに深く感情を揺さぶるか、理解している」と首相は続け、「この国の街中でも、学校でも、家族や友人との会話でも、それは明らかだ。(この紛争によって)分断が生まれた。憎悪と恐怖をあおる者もいる。しかし、それでは何も解決しない」と述べた。
「私たちは憎しみを拒絶するだけでなく、あらゆる形の憎悪と闘う努力をあらためて強化しなくてはならない」と首相は呼びかけ、各国に対し「努力を結集」し、「自分たちが望む平和な未来」を実現するよう促した。
これには残された人質の解放、暴力と苦しみの終結、そして2国家解決への回帰こそが必要だとスターマー氏は述べ、「すべての当事者にとって、これが平和と安全への最善の希望だ」と述べた。
スターマー首相は今年7月、イスラエルがパレスチナ・ガザ地区での停戦に合意し、パレスチナ国家と共存する「2国家解決」を実現する持続可能な和平に注力し、国連による支援物資の搬入再開を認めるなど、複数の条件を満たさなければ、9月の国連総会で承認に踏み切ると発表していた。
イギリス外務省は今回の決定について、「イギリスは、1967年の境界線を基礎とし、同等の土地交換を前提とした暫定的な国境において、パレスチナの国家としての地位を承認する。最終的な国境は今後の交渉の中で確定される」と説明している。
パレスチナの状況が著しく悪化と判断

画像提供, EPA
イギリス政府関係者は、現地の状況がここ数週間で著しく悪化したと述べており、スターマー首相が以前「耐え難い」と表現したガザでの飢餓や暴力を示す映像を根拠に挙げている。
ハマスが運営するガザ地区の保健省は21日、イスラエルによる攻撃で過去24時間で71人が殺害され、304人が負傷したと発表した。
国連当局者が「壊滅的」と表現したイスラエル軍によるガザ市での最新の地上作戦により、数十万人規模の住民が避難を余儀なくされている。
これは、ほぼ2年に及ぶ戦争の中で行われた最新のイスラエルの攻勢だ。この紛争では多くのガザ住民が避難を強いられ、インフラが破壊された。ガザの保健省によると、少なくとも6万5208人が殺されている。
今週初め、国連の調査委員会は、イスラエルがガザ地区のパレスチナ人に対してジェノサイド(集団殺害)を行ったと結論付けたが、イスラエル政府はこれを「ねじ曲げられたうそだ」と非難した。
イギリス政府の閣僚らも、国際法上違法とされる占領下ヨルダン川西岸地区でのイスラエルによる入植地拡大が、パレスチナ国家承認の決定に至った重要な要因だと強調している。
ヨルダン川西岸地区ジェニン市のモハメド・ジャラール市長はBBCに対し、「現在のイスラエル政府は西岸地区の併合を目指している」と述べた一方で、「たとえ占領下にあっても、パレスチナの人々が国家を有しているという事実を確認する意味で、承認は重要だ」と強調した。
イスラエル占領下のヨルダン川西岸地区ラマラで取材する、BBCのトム・ベネット記者は、街角で住民の反応を取材。それによると、市内中心部のにぎやかな通りでは、イギリスによるパレスチナ国家承認の発表に対して慎重ながらも楽観的な声が聞かれた。
ムハンマド・ハシブ氏(30)は、「素晴らしいことだ」と歓迎し、「この戦争を終わらせられるよう、欧州の全ての国が追随し、我々の国家を承認してくれることを願っている」と話した。
ハシブ氏はガザでの戦争に触れながら、「私たちパレスチナ人は、今起きていることにとどまらない、それ以上の存在だ」とも述べた
「遅すぎることはないし、無意味でもない」と言う女性もいた。
一方で、承認がイスラエルによる弾圧の悪化を招くのではないかと懸念する声もある。イスラエル政府はヨルダン川西岸地区での入植地拡大計画を推し進めており、一部の閣僚は同地域の一部併合を示唆している。
ネタニヤフ首相は22日、「我々はユダヤ人の入植地をユダとサマリア(西岸地区)で2倍に増やした。今後もこの道を進む」と改めて表明した。
極右政治家のイタマル・ベン・グヴィル国家安全保障相はこのニュースを受けて、イスラエルが西岸地区を併合し、パレスチナ自治政府を解体するよう求めた。
イギリス国内の反応は
イギリスのデイヴィッド・ラミー副首相は、パレスチナ国家の承認が現地の現実を必ずしも変えるものではないことを認めたうえで、「今こそ2国家解決を支持すべき時だ」と述べた。
BBCの報道番組「サンデー・ウィズ・ローラ・クンスバーグ」に出演したラミー氏は、「これで子どもたちに食事が行き渡るのか? そうではない。それは人道支援の問題だ。これで人質が解放されるのか? それは停戦によるべきだ」と語った。
パレスチナ自治政府の駐英代表であるフサム・ゾムロット氏はBBCに対し、国家承認は「不可侵の権利」であり、「我々の存在に対する否定を終わらせることを意味する」と述べたうえで、「歴史が正される今日を、イギリス国民は祝うべきだ」と語った。
ゾムロット氏はさらに、「イギリスがパレスチナ国家を承認すべきかという問いは、そもそも問題ではない」としたうえで、「なぜイギリスはこれまでずっとパレスチナ国家を承認してこなかったのか、それこそが問われるべきだ」と述べた。
最大野党・保守党のケミ・ベイドノック党首は、スターマー政権の決定を「完全に破滅的な決定だ」と非難。「ハマスに対していかなる条件も課すことなく、テロを報いる行為だ」と述べた。
プリティ・パテル影の外相も、スターマー氏は「党内の急進左派に屈服した」のだと非難した。
一方、自由民主党のエド・デイヴィー党首は、この決定を歓迎し、「長らく待ち望まれていたものだ」と述べた
ポピュリスト政党「リフォームUK」のナイジェル・ファラージ党首は、パレスチナ国家承認は「誤りだ」と述べた。
ファラージ氏はソーシャルメディアへの投稿で、「これはハマスのテロリストへの報酬であり、平和の実現には何の役にも立たない」と述べた。
2023年10月7日にイスラエル南部の自宅から拉致され、今年1月にハマスに解放されたエミリー・ダマリ氏の母親マンディ・ダマリ氏は、スターマー首相が「2国家幻想に陥っている」と批判した。エミリー・ダマリ氏は、イギリスとイスラエルの二重国籍を持つ。
「片方の国家が、イスラエルを川から海まで消滅させることを憲章に掲げるテロ組織によって支配されている限り、2国家解決は決して実現しない」と、エミリー氏はBBCに話した。
さらに、「たとえスターマー氏が自分が正しいと思っていたとしても、人質がまだ戻っていないし、戦争も終わっていない、そしてハマスがガザで依然として権力を握っている状態での今回の決定は、10月7日のイスラエルへの野蛮で残虐な攻撃に対するハマスへの報酬となっている」と述べた。
イギリスに縁のある人質の家族を代表する団体は、この決定は「人道への裏切り」であり、「48人の人質が拘束されている中でハマスに報酬を与える行為だ」と非難した。現在拘束中の人質のうち約20人が生存しているとみられている。
同団体は声明の中で、「イギリスはハマスに対峙(たいじ)する代わりに、むしろその勢力を強めてしまった」と述べた。
こうした懸念について問われたラミー副首相は、人質の家族と対話を重ねているとしたうえで、「停戦の見通しがここ数日で後退したことに、衝撃と憤りを感じている人質家族が多くいるのも事実だ」と述べた。
そのうえで、「ハマスがパレスチナ人(を代表する存在)というわけではない」という認識を持つことも重要だと強調した。
【解説】これは何を意味するのか
ポール・アダムスBBC外交担当編集委員
パレスチナは、存在するし、存在しない国家だ。
国際的な承認を広く得ており、外国に外交使節団を派遣し、オリンピックを含む国際スポーツ大会にも代表チームを派遣している。
しかし、イスラエルとの長年にわたる対立のため、以下のような状況にある。
・国際的に合意された国境がない
・首都がない
・軍隊がない
1990年代の和平合意を受けて設立されたパレスチナ自治政府は、イスラエルによる軍事占領のため、ヨルダン川西岸地区で領土や国民を完全には統治できていない。イスラエルが占領するガザ地区では、壊滅的な戦争が続いている。
このような「準国家」としての地位を踏まえると、国家承認の意味合いは否応なく、いささか象徴的なものだ。強い道義的・政治的な意思表示ではあるが、現地の状況はほとんど変わらない。
それでも、その象徴性は極めて大きい。
昨年7月に国連で、当時のイギリス外相デイヴィッド・ラミー氏は次のように述べた。
「2国家解決を支援するにあたり、イギリスは特別な責任を負っている」
2国家解決とは
2国家解決は、イスラエルとパレスチナの間の和平に向けて構築された国際的枠組みを意味する。
この案では、ヨルダン川西岸地区とガザ地区に独立したパレスチナ国家を樹立し、東エルサレムを首都とする。このパレスチナ国家はイスラエルと並存する。
しかし、イスラエルは2国家解決を拒否している。最終的な和平合意はパレスチナ側との交渉によって決定されるべきで、国家承認が前提条件となるべきではないと主張している。
イスラエルとパレスチナ解放機構(PLO)が1990年代に重ねた交渉の末、1993年にノルウェーの仲介で「オスロ合意」が成立。それに基づいて翌年、パレスチナ自治政府が設置された。
パレスチナ自治政府は2国家解決を支持しているが、ハマスはイスラエルの存在自体に反対しているため、支持していない。
ハマスは、パレスチナ難民の帰還権が認められるならば、イスラエルを承認しないまま、1967年の事実上の境界線に基づく暫定的なパレスチナ国家を受け入れる可能性があると述べている。
「オスロ合意」は、和平交渉の枠組みを提供するものだったが、交渉はその後、決裂。決裂の責任は相手にあると、お互いが非難し合うてんまつになった。












