イスラエル、ガザの病院に退避通告 WHOと赤十字・赤新月社が強い懸念

画像提供, EPA
パレスチナ自治区ガザ地区でイスラム組織ハマス掃討作戦を続けるイスラエル国防軍(IDF)は29日、ガザ市のアル・クッズ病院に対して、退避するよう警告を繰り返した。これについて、世界保健機関(WHO)や国際赤十字・赤新月社連盟(IFRC)が強い懸念を示している。アメリカのジョー・バイデン大統領は同日、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相と電話で会談。ガザに運び込む援助物資の大幅増加や、民間人保護の重要性を強調したとみられる。
イスラエル軍が発した警告メッセージは、「アル・クッズ病院スタッフ、救急車運転手、学校に避難中の人たち」にあてられたもので、ただちにガザ市内を離れて「南の人道区域」へ移動するよう告げる内容だった。
ガザ市内にあるアル・クッズ病院のバッサム・ムラド院長はロイター通信に対し、退避に関する複数の警告を受けたと話した。
「最初はパレスチナ赤新月社からの電話で、イスラエル軍から連絡があったのだという。患者全員と職員全員、ならびに病院内に避難している全員をガザ南部へ避難させるよう、イスラエル軍は要求していたとのことだ。病院のある地区は戦闘ゾーンになり、ここで戦闘が行われるため危険だというのが、その理由だった」と、ムラド氏は話した。
ムラド氏によると、病院には約1万2000人から1万4000人が避難しており、治療を受けている人は数百人にいる。中には重体患者もいるという。
イスラエル軍は病院の近くの建物を繰り返し砲撃しており、病院内にも煙やほこりが吹き込んでいる。
パレスチナ赤新月社のマルワン・ジラニ事務局長は、アル・クッズ病院の周辺が繰り返し攻撃されているため、病院敷地内に避難している人たちがパニックに陥っていると懸念を示した。

画像提供, Palestine Red Crescent Society
イスラエル軍がアル・クッズ病院に退避を通告したことについて、国際赤十字・赤新月社連盟(IFRC)は「深く懸念」すると声明を発表した。
IFRCは声明で、「病院は支援と避難の場所で、なんとしても守られなくてはならない。ガザ市内にあるパレスチナ赤新月社は何百人もの負傷者や、長期入院を必要とする寝たきりの人たちの手当てをしている」、「集中治療中の患者、生命維持装置を必要とする患者、保育器に入っている赤ちゃんたちの避難は、現状では不可能に近い。加えて、私たちのスタッフは、病院の至近距離への激しい攻撃や砲撃が続き、さらに大勢を危険にさらしていると報告している。アル・クッズ病院はパレスチナ赤新月社ならびに国際赤十字・赤新月社運動が運営しており、他の医療チーム・医療機関と同様、国際人道法に守られている」のだと指摘。
「私たちは、患者と医療スタッフ、そしてアル・クッズ病院に避難している1万数千人の安全を深く懸念している。患者を置き去りにするのか、それとも病院に残ることで自分の命を危険にさらすのか、このありえないジレンマに医療従事者が直面するなど、あってはならないことだ」と強調した。
WHOのテドロス・アダノム・ゲブレイエスス事務局長はソーシャルメディアで、アル・クッズ病院への退避要請は「非常に心配」だとして、「あらためて繰り返す。患者の命を危険にさらすことなく、患者で満員の病院を避難させるなど不可能だ。国際人道法の下、医療は常に守られなくてはならない」と書いた。
病院のすぐ近くに砲撃――ラシュディ・アブ・アルーフBBC記者(ガザ地区南部)

ここガザ地区南部は今夜、ここ数日に比べると静かだが、ガザ北部のアル・クッズ病院が注目を集めている。
病院の周辺は1日中、空爆され、病院に近い建物のほとんどと集合住宅が破壊された。同じ地区の店舗や、病院に至るすべての道路も破壊された。
砲弾の一部は、病院の外の門から10メートルほど離れた場所に落下し、病院の建物にも被害をもたらした。病院敷地内には民間人が多数避難している。
大量のほこりや煙が病院内に入り込んでいるため、医療スタッフはマスクを配布している。
今夜はとても厳しいものになるだろう。今回の戦争で重傷を負った人たちが病院にはいるし、そのうち8人はまだ生命維持装置につながれているのだ。

画像提供, Reuters
ハマスは病院を「人間の盾」に=イスラエル軍報道官
イスラエル国防軍の報道官、ダニエル・ハガリ少将は29日、テルアヴィヴで定例の会見を行い、同日のガザ地区空爆で「テロリスト数十人」を殺害したと発表した。
少将によると、殺害したのは「戦術レベルの司令官」で、「現場の指揮官」だという。
イスラエル軍は地上部隊の安全を守り、「テロリストのインフラ」を排除するため、「大々的に空爆を続けている」のだとも、ハガリ報道官は話した。
「地上戦はきわめて複雑だ。我が軍の兵の安全を確保するため全力を尽くす」と、報道官は述べた。
さらに、ガザ地区内の戦闘員が「戦争犯罪を重ね」ており、「パレスチナ人を冷笑的に利用しているのだ」と批判。「(ハマスは)学校や病院などを利用している。ただひたすら、人間の盾として使うことしか考えていない」との見方を示した。

画像提供, Reuters
バイデン大統領、援助物資の増加と民間人保護求める
こうした中、バイデン米大統領は同日、イスラエルのネタニヤフ首相と電話で協議した。イスラエル軍が27日にガザ攻撃を激化させて以来、両首脳が会話するのは初めてとみられる。
バイデン氏は、ガザに運ばれる人道援助物資は現在よりも大幅に増やす必要があると、ネタニヤフ首相に伝えたものとみられる。
アメリカとイスラエルの両政府は、電話協議をしたことは認めたものの、内容の詳細については明らかにしていない。
ただし、会談に先立ちホワイトハウスのジェイク・サリヴァン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は米CNNに出演し、イスラエル政府とイスラエル軍にはガザの民間人を守る責任があり、「テロリストで軍事攻撃の正当な標的として認められるハマスと、そうではない民間人とを区別するため、できる限りの手段を尽くすべき」だと、大統領がネタニヤフ首相に伝えることになると述べていた。
サリヴァン補佐官はその後、米ABCにも出演し、ハマスは「民間人の背後に隠れているため、テロリストと罪なき民間人を区別しなくてはならないイスラエルの負担が増している。しかし、だからといって、民間人を守るため全力を尽くすという国際人道法や戦時国際法のもとでの責任が軽減されるわけではない」とも述べた。
補佐官はCNNに、10月7日の奇襲開始時にガザ地区内にいたアメリカ人など外国人の脱出をハマスが阻止していると述べた。また、ハマスは「複数の要求」をしているとして、その詳細は公表できないものの、「交渉」は「続いている」と話した。
援助物資トラック33台、ガザに入る
ガザ地区には29日、援助物資を載せたトラック33台が、エジプトとの間のラファ検問所を通過して入った。水や食料、医薬品などが積まれていたという。国連人道問題調整事務所(OCHA)によると、今回の戦争開始後に援助物資が最初に届いた21日以降、最大規模の援助車列だった。
21日以降、ガザに入った援助トラックは計117台。
ガザの人道状況を調べるため、ラファ検問所を訪れた国際刑事裁判所(ICC)のカリム・カーン主任検察官は29日、ガザへの援助を阻害することは戦争犯罪に該当する可能性があると指摘した。
「民間人には食料と水が必要だ。大量の援助物資を積んだトラックが何台も、誰もそれを必要としていないエジプトで立ち往生しているのを見た。おなかをすかせた人や負傷して血を流している人に届かないままだ。援助物資は遅れることなく、ガザの民間人にたどりつかなくてはならない」と、検事は述べた。
さらにカーン検事は、「ハマスとの戦争において(イスラエルには)明確な責任がある。道義的な責任だけでなく、交戦法規に従うという責任もある」と指摘したうえで、「この原理原則は、イスラエルにロケット弾を無差別に撃ち込んでいるハマスにも適用される」と念を押した。
検事は、ヨルダン川西岸でイスラエル人の入植者が民間のパレスチナ人を攻撃したという事案の報告が急増していることにも触れ、懸念を示した。











