ウクライナでのロシア戦死者数めぐりロシア当局内で争いか 流出の米軍機密文書より
ポール・カービー、BBCニュース

米国防総省の機密文書が多数流出した問題で、ウクライナでのロシア戦死者数の数え方をめぐりロシア軍や治安当局で争いが生じている可能性が明らかになった。機密流出については米当局が13日、21歳の空軍州兵を逮捕したと発表した。
米司法省によると、機密文書を流出させた疑いでマサチューセッツ州空軍州兵のジャック・テシェイラ容疑者を逮捕した。ウクライナ情勢などに関する米軍の機密文書が数カ月前から50~100点以上が、ゲーム愛好家に人気のソーシャルメディア「ディスコード」に投稿されていた。
テシェイラ容疑者は、空軍州兵の情報部門に所属。機密文書の流出先となったオンラインのゲーム・チャットグループのリーダーだったとされている。空軍州兵は米空軍の予備部隊に相当する。米当局筋によると、機密指定された防衛文書の送信を禁止するスパイ法違反の疑いで訴追される見通し。
ロシアは、今回の流出文書について、米政府が意図的に漏洩(ろうえい)させた偽情報の可能性があると批判している。
ロシアの戦死者数は
オンラインに投稿されていた文書からは、ウクライナでのロシア兵の戦死者数について、ロシア国防省の集計は少なすぎると、ロシア連邦保安庁(FSB)が批判している様子がうかがえる。ロシア国家親衛隊や民間雇い兵組織「ワグネル」などの死者数を、国防省が計上していないと、FSBが指摘しているもようだ。
ロシアはウクライナでの戦死者数について、ほとんど公表していない。しかし、ロシア軍とその他の治安当局や組織の間で、ウクライナでの戦争についてしばしば対立が生じていると、これまで西側で指摘されていたことが、米軍文書からも裏付けられたことになる。
米軍文書によると、FSBは2月までのロシアの死傷者数を約11万人としている。他方、過去に明らかになった米政府の情報では、米政府はロシアの死傷者数を18万9500人~22万3000人と推定。このうち、戦死者は3万5500人から4万3000人に上るとみられている。
ロシアが最後に示した公式な戦死者数は昨年9月のもので、その時は兵士5937人が戦死したと明らかにしていた。
戦死者数をめぐる国防省とFSBのいさかいを指摘した米軍文書は、ロシア軍の指揮系統には依然として、悪い情報を上層部に伝えたがらない傾向がみられると指摘している。
ロシア軍が戦場でどれほどの被害をこうむっているのか、実態のほどをウラジーミル・プーチン大統領は知らされていないのではないかと、これまでも複数の専門家が推測していた。「特別情報」に指定された米軍文書でも、同様の分析が示されていることになる。
別の米軍文書には、ワグネル代表のエフゲニー・プリゴジン氏とロシア国防省の間で2月に「情報戦」が繰り広げられていたという言及がある。
ウクライナ東部バフムート攻略の主力となったワグネルに対し、軍部が砲弾の供給を停止したとプリゴジン氏は繰り返し主張していた。
ロシア国家親衛隊が相当の被害を被っているため、「併合領土のすべてをロシアが確実に掌握することは難しいかもしれない」という分析も、米軍文書には記されている。ロシア国家親衛隊はこれまで、戦闘に参加するほか、昨年9月のウクライナ4州「併合」につながった見せかけの「住民投票」実施を担当した。
米紙ワシントン・ポストによると、流出したのは基地内で容疑者が書き写し、後に内容をパソコンで打ち出した内容と、撮影した文書そのものの写真。
文書を撮影した中には、ウクライナ東部ドンバスでロシア軍が展開する「消耗戦」に対する米軍の分析が書かれていた。それによると、ロシア軍が「予想外に回復」しない限り、ロシアが戦争目的を果たすのをウクライナは阻止し続けるだろうし、その結果「戦争は2023年以降も長引く」ことになるとされている。
情報戦の裏側か
ロシアのセルゲイ・リャブコフ外務次官は、こうした文書はアメリカが意図的に流出させた可能性があると指摘。アメリカは「紛争当時国」として「敵、つまりロシア連邦をかく乱」しようとしたのかもしれないと述べた。

画像提供, Reuters
他方、別の流出文書には、ロシア参謀本部からの情報として、ベラルーシ発のロシア・ベラルーシ合同攻撃が起きると2月初めにウクライナ情報機関を信じ込ませたと、ロシア側が「作戦成功」を喜んでいたという内容が書かれていた。
開戦1周年の2月下旬に向けて、ロシアがベラルーシ駐留部隊を増強しているとの情報が相次いでいた。昨年2月の開戦当初、ベラルーシからウクライナを侵攻しようとして失敗した作戦を、今度こそ成功させるのが狙いだとも言われていた。
この情報を受けてウクライナは、東部や南部の前線から部隊を首都キーウ周辺や北部へと移動させざるを得なかった。
同じ文書によると、ロシア軍は3月に「さらにウクライナ軍をかく乱するため」情報操作を2段階に分けて展開するよう推奨していた。流出文書には、この計画がベラルーシ軍幹部の承認を得るよう伝達されたことも明示されている。







