イングランド選手、人種差別批判の英内相に「自分であおって今さら不快なふり」と

England's Tyrone Mings during a training session at St George"s Park, Burton upon Trent

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画像説明, イングランド代表のタイローン・ミングス選手

サッカーの2020年欧州選手権(ユーロ2020)の決勝戦でペナルティーキック(PK)を外したイングランド代表選手3人が、人種差別的な中傷を受けた問題で12日、イギリス内相が差別を批判したのに対し、別のイングランド代表選手が「自分が火をあおっておいて、いまさら不快なふりをするのは通用しない」とツイッターで内相を批判した。

11日のユーロ決勝戦でイングランドはイタリアに、ペナルティーキック(PK)戦で敗れた。シュートを外したFWマーカス・ラッシュフォード、MFジェイドン・サンチョ、MFブカヨ・サカの3選手に対して、試合後のソーシャルメディアには人種差別的な中傷が相次いだ。イングランド・フットボール協会(FA)はただちに、人種差別的攻撃を非難。その後、イギリス国内ではボリス・ジョンソン首相英王室のケンブリッジ公爵ウィリアム王子カンタベリー大主教ジャスティン・ウェルビー牧師ロンドンのサディク・カーン市長などの要人から、一般人に至るまで、人種差別を非難する声がソーシャルメディアにあふれている。ロンドン警視庁は捜査に着手するとツイートした。

こうした中、プリティ・パテル内相はツイッターで、「この夏、この国のために本当に全力で取り組んだイングランドの選手たちが、ソーシャルメディアで下劣な人種差別攻撃を受けて、不快極まりない。(人種差別は)この国にあってはならないし、当事者に責任を取らせるため警察を支援する」と書いた。

これを受けて、イングランド代表のDFタイローン・ミングス選手は12日夜、「大会の初めに我々の反人種差別メッセージに『ジェスチャー政治』とレッテルを貼って、自分で火をあおっておきながら、僕たちが闘っている(人種差別)そのものが起きた時に、いまさら不快だなんてふりをするのは通用しない」と書き、内相のツイートを引用する形で反発した。

イングランド代表はかねて、人種差別への抗議行動として試合前に地面に膝をついていた。このポーズに反発してブーイングする観客もおり、国内で議論になっていた。

こうした観客をパテル内相が批判しなかったのは、英政府が人種差別対策に消極的なあらわれだとして、ミングス選手をはじめイングランド代表選手たちは問題視してきた。

パテル内相はミングス選手からの批判について、取材に応じていない。

スポーツ選手が試合前にフィールドに膝をつき人種差別に抗議する行動は、まず米NFLのコリン・キャパニック選手らによってアメリカで広がり、近年ではイングランド代表チームが取り入れている。

この抗議行動についてパテル内相は6月、英GBニュースに対して、「そういうたぐいのジェスチャー政治に参加する人たち」を支持しないと発言していた。さらに、抗議で膝をつくイングランド選手たちにブーイングするファンを批判するかどうか尋ねられると、内相は「正直言って、それは当人たちの選択です」と答えていた。

ジョンソン政権への批判

Bukayo Saka

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画像説明, PKを外したサカ選手らがオンラインで人種差別攻撃の対象になった
England"s Bukayo Saka with manager Gareth Southgate after the match

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画像説明, 最後のPKを外して泣くサカを抱きしめるサウスゲート監督

ミングス選手の内相批判に先立ち、最大野党・労働党の党首、サー・キア・スターマーは同様にジョンソン首相を批判していた。

ユーロ2020大会の冒頭、ジョンソン首相は差別に抗議して膝をつくイングランド選手たちをブーイングする観客を、明確に非難しなかった。ジョンソン首相は当時、サポーターは「ブーイングではなく歓声で応援してもらいたい」と述べるにとどまっていた。

これについてスターマー党首は、ジョンソン首相が選手たちをブーイングする観客をはっきり非難しなかったのは、「指導者として失格」だと批判した。

ジョンソン首相は決勝戦の後、イングランド代表は「英雄のようにプレー」し、「この国に喜びをもたらした」とたたえた。首相官邸での12日の定例会見では、選手たちに人種差別中傷を浴びせた者たちを「恥を知れ。お前たちがはい出てきた石の下に、また潜って戻ってもらいたい」と非難した。

スターマー党首は同じように選手たちへの差別攻撃は「まったくとんでもない」ことだとしつつ、ジョンソン首相の今回の発言は遅すぎたと批判。

「首相は(大会前に)しっかり批判しなかった。そしてリーダーの行動、あるいは行動の欠落には、影響が伴う。なので残念ながら、首相の今日の言葉はむなしく響く」とスターマー氏は述べた。

労働党のアンジェラ・レイナー副党首は、ジョンソン首相とパテル内相について、「人種差別主義者を容認した」と批判。「自分が炎に石油を注いでおきながら、燃えていると文句を言う放火犯のようだ」と述べた。

元保守党閣僚のサイーダ・ワーシ女男爵も、パテル内相について「自分で『笛』を吹いて『犬』が反応した場合、犬が吠えて人をかんだとしても、驚くわけにいかない。分断をあおる犬笛は票につながっても国を亡ぼす。そんな犬笛を勢いづける文化戦争(価値観の衝突)を、もう終わらせなくてはならない」と批判した。

動画説明, 政治家が使う秘密の「犬笛」 隠れた人種差別メッセージとは

一方、別の与党・保守党下院議員、フェイ・ジョーンズ氏はBBCに対して、選手たちが人種差別と闘うのは支持するが、膝をつくポーズは「政治的シンボルで、一部の人はそこに反発しているのだと思う」と話した。

さらに別の保守党議員、ナタリー・エルフィック氏は、差別攻撃の対象になった1人、ラッシュフォード選手がPKを外した後、「ラッシュフォードは政治ごっこに使う時間を減らして、もっとプレーを磨くべきだった」と知人にメッセージを送ったことが報道され、謝罪した。

サッカー・プレミアリーグのマンチェスター・ユナイテッド(マンU)に所属するラッシュフォード選手は貧困家庭救済のために活動し、ロックダウン中に提供された学校給食が夏休みで休止されそうになった際、政府に働きかけ、その継続を勝ち取った。

ラッシュフォード選手の地元マンチェスター・ウィジントンにある同選手の壁画は、試合後に差別表現で損壊されたが、市民が応援メッセージで破損部分を覆い隠した。さらに13日には、修復された。

応援メッセージで「修復」されたラッシュフォード選手の壁画

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画像説明, 応援メッセージで「修復」されたラッシュフォード選手の壁画
The mural of Marcus Rashford has now been cleaned

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画像説明, ラッシュフォード選手の壁画は13日、修復された

ソーシャルメディア各社の役割は

試合後に選手たちに浴びせられた差別攻撃の激しさから、あらためてソーシャルメディア各社の役割も問われている。

英下院でパテル内相は、ソーシャルメディア各社は「もはや、自分たちのプラットフォームに登場するおぞましいほど下劣で人種差別で、暴力的で憎悪に満ちたコンテンツを無視するわけにはいかない」と述べた。

「これを排除しないなら、オンライン安全法案に(ソーシャルメディア企業への)罰則を取り入れると、すでに方針を明示している」と内相は補足した。

英政府が検討中のオンライン安全法案の内容はまだ公表されていないが、ソーシャルメディア企業が「安全配慮義務」を怠った場合、最大1800万ポンド(約28億円)の罰金を科す権限を、通信業界の監視機関Ofcomに与える可能性がある。

イングランドのフットボール協会(FA)もソーシャルメディア各社に、差別投稿を重ねる利用者を排除し、当局による起訴を助ける証拠集めに協力するよう呼びかけている。

米フェイスブックは、「イングランドのサッカー選手を中傷し攻撃するコメントやアカウントを急ぎ削除した」とコメント。

「こうしたコンテンツを取り除く私たちの作業に加え、すべての選手に、差別コメントやDMを見ないで済むようにするツール『Hidden Words』を活用するようおすすめする」とフェイスブックは提案したほか、「この問題を一晩で解決するような、ひとつの対策はない。けれども、自分たちのコミュニティーを何としても虐待から守っていく」と述べた。